異世界転生代行社〜何があろうと異世界に転生してもらいます!

凪司工房

文字の大きさ
5 / 7

4

しおりを挟む
 爆音のした方を見ると、木立の間から校舎が見えた。どうやら高校の裏手の山の中らしい。校舎の奥で小さな煙が上っているのが辛うじて分かる。

「あいつらミサイルまで持ち出してきたのかよ……」

 何だろう。風邪を引いた時のような寒気が全身に走った。
 と、佐竹の体がぶるっと震え、彼の体から光に包まれた人形が前に倒れ出た。あの女神だ。彼女は四つん這いになり、大きく背中で息をしている。

「あんた、大丈夫か?」
「え、ええ。少し力を使い過ぎました。こちらの世界ではどうも消耗が激しいようです」
「しかし本当に女神なんだな」
「信じてなかったんですか?」
「当然だろう? 今だって異世界転生したっていう奴ら、ただ殺されただけだと思ってる」
「どうしてそこまで異世界に対して否定的なんですか?」

 女神はようやく落ち着いたのか、ぺたりと足を開いて座り込むと、少し口を尖らせて佐竹を見た。

「小学生の時だ。俺の隣の席に座ってた奴が、山田っていうんだけど、その山田がさ、明日から異世界に転生しますって言われたんだ。当然、その頃は異世界っていったら何となくみんなのヒーロー感があてさ、他のやつらは喜んでたさ。けど山田は別に嬉しそうでもなく、学校が終わってから俺にこんなこと漏らしたんだよ……親が異世界に自分を売りつけたんだって。自分はいらない子だから、大金もらって厄介払いされただけなんだって。それも聞いたらその転生先さ、ドラゴンやら何やらがわんさかいる中をサバイバル生活しなきゃならないって言ってて、どう考えても小学生にやらせる内容じゃないだろと。それ以来、俺は異世界ってのにはあまりいい思いがない」
「それは残念かも知れないけれど、でも考えようによっては自分を大切に思わない両親を離れて人生をやり直せるってことで、転生したその山田君は案外楽しんでいたかもよ?」
「そうならいいんだけどな」

 佐竹は女神に背を向けてそう返すと、一人で歩き始めた。

「どこに行くの?」
「転生はしないと言った。あんたともここでお別れだ」

 そう言い放った彼に、女神は何も言ってこなかった。
 しばらく山道を歩いて下りていく。途中何度か振り返ったが、彼女は佐竹の後についてこなかったようだ。姿は見えなかった。
 道路に出て、車が走っている日常を目にすると、ややほっとした心地になる。トラックは自分を襲ってこない。もう奴らは諦めたのだろうか。
 道なりにぐるりと半周し、佐竹は高校の校門前へとやってきた。既に生徒の姿はなく、静けさがグラウンドの上に漂っている。

「いや、何かおかしい」

 節電でも停電もあるまい。校舎の建物は全くといっていいほどどの部屋にも明かりが灯っていなかった。授業中だろうと多少の声は聞こえるものだ。それすらない。
 カチャリ、という金属音が背後で聞こえ、佐竹は歩みを止める。

「佐竹慎太郎」

 名を呼ばれた佐竹は条件反射的に両腕を挙げていた。声は女のものだ。あのスキンヘッドではない。

「イセダイ、とかいうところか?」
「そいつはうちじゃないね。あたしは異世界転生管理協会っていうところから個人的に仕事を請け負っているだけさ」
「管理協会? それじゃあ味方か?」
「味方? 何を言ってるんだい?」

 ここぞとばかりに佐竹は振り返り、相手の顔を見た。日本人だ、と思える黒髪のショートヘアの女性はレザーのライダースーツで、胸元を少し開けていた。その右手に握られていたのは黒光りする拳銃だ。流石に玩具じゃないだろう。

「佐竹慎太郎。君は異世界転生管理法第六条二項、異世界・甲との契約が締結されたにもかかわらず別の異世界・乙との契約を結んだということで逮捕される。いいね?」
「どういう、こと?」
「端的に言えば、二重契約になっているから、これは違法なので、一旦こちらに君の管理権限が移ったということ。それじゃあ」

 ライダースーツの女は言うが早いか、佐竹の挙げた両手のうち、右手首へと手錠をかけ、もう片方を自分の左手首へと嵌めた。

「いや、俺、その話知らないっす。あの女神も自分たちが先に契約したって言ってたし」
「詳しい事情は知らない。私は管理協会に君を引き渡せばいいだけだから。とにかく来てもらう」

 ひょっとしたら助かるのだろうか。そんな考えが過ぎり、佐竹は大人しく彼女に従った。
 校門前へと戻っていく。
 いや、戻ろうとした。
 だが頭上に騒音が降ってきた。見上げるとヘリが急降下してくる。しかも足元に長物を装着していて、それがヘリを離れた。煙を吐いてこちらに向かってくる。

「しまった」

 女は駆け出したが、佐竹と繋がっていた為に反応が遅れ、二人の上にミサイルが降り注いだ。
 人が死ぬ瞬間というのは、こんなにも世界の時間が歪むものなのかも知れない。
 やってくる巨大な鉄の棒。その先端はどう考えても素通りする気はない。一方で逃げようとするライダースーツの女は自分の左手が引っ張られ、ゆっくりと佐竹の方を振り返っている。駆け出そうとしたのだがバランスを崩し、足だけが前に出て倒れようとしていた。佐竹は右腕が引っ張られたものの、咄嗟のことで動けず、上半身が女の方へと倒れ込んでいるが、顔だけはしっかりとミサイル正面を向いていた。
 そのミサイルの弾頭が突如ひしゃげた。まだ何にも衝突していないのに、大きく凹み、続いて爆発が起こる。
 それを見て佐竹は声を出そうとするのだがその意思だけで、彼の体は動いてくれない。
 あまりの発光に目を閉じ、彼は死を覚悟した。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

三十年後に届いた白い手紙

RyuChoukan
ファンタジー
三十年前、帝国は一人の少年を裏切り者として処刑した。 彼は最後まで、何も語らなかった。 その罪の真相を知る者は、ただ一人の女性だけだった。 戴冠舞踏会の夜。 公爵令嬢は、一通の白い手紙を手に、皇帝の前に立つ。 それは復讐でも、告発でもない。 三十年間、辺境の郵便局で待ち続けられていた、 「渡されなかった約束」のための手紙だった。 沈黙のまま命を捨てた男と、 三十年、ただ待ち続けた女。 そして、すべてを知った上で扉を開く、次の世代。 これは、 遅れて届いた手紙が、 人生と運命を静かに書き換えていく物語。

99歳で亡くなり異世界に転生した老人は7歳の子供に生まれ変わり、召喚魔法でドラゴンや前世の世界の物を召喚して世界を変える

ハーフのクロエ
ファンタジー
 夫が病気で長期入院したので夫が途中まで書いていた小説を私なりに書き直して完結まで投稿しますので応援よろしくお願いいたします。  主人公は建築会社を55歳で取り締まり役常務をしていたが惜しげもなく早期退職し田舎で大好きな農業をしていた。99歳で亡くなった老人は前世の記憶を持ったまま7歳の少年マリュウスとして異世界の僻地の男爵家に生まれ変わる。10歳の鑑定の儀で、火、水、風、土、木の5大魔法ではなく、この世界で初めての召喚魔法を授かる。最初に召喚出来たのは弱いスライム、モグラ魔獣でマリウスはガッカリしたが優しい家族に見守られ次第に色んな魔獣や地球の、物などを召喚出来るようになり、僻地の男爵家を発展させ気が付けば大陸一豊かで最強の小さい王国を起こしていた。

冤罪で辺境に幽閉された第4王子

satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。 「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。 辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。

裏切られ続けた負け犬。25年前に戻ったので人生をやり直す。当然、裏切られた礼はするけどね

魚夢ゴールド
ファンタジー
冒険者ギルドの雑用として働く隻腕義足の中年、カーターは裏切られ続ける人生を送っていた。 元々は食堂の息子という人並みの平民だったが、 王族の継承争いに巻き込まれてアドの街の毒茸流布騒動でコックの父親が毒茸の味見で死に。 代わって雇った料理人が裏切って金を持ち逃げ。 父親の親友が融資を持ち掛けるも平然と裏切って借金の返済の為に母親と妹を娼館へと売り。 カーターが冒険者として金を稼ぐも、後輩がカーターの幼馴染に横恋慕してスタンピードの最中に裏切ってカーターは片腕と片足を損失。カーターを持ち上げていたギルマスも裏切り、幼馴染も去って後輩とくっつく。 その後は負け犬人生で冒険者ギルドの雑用として細々と暮らしていたのだが。 ある日、人ならざる存在が話しかけてきた。 「この世界は滅びに進んでいる。是正しなければならない。手を貸すように」 そして気付けは25年前の15歳にカーターは戻っており、二回目の人生をやり直すのだった。 もちろん、裏切ってくれた連中への返礼と共に。 

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

異世界転生したらたくさんスキルもらったけど今まで選ばれなかったものだった~魔王討伐は無理な気がする~

宝者来価
ファンタジー
俺は異世界転生者カドマツ。 転生理由は幼い少女を交通事故からかばったこと。 良いとこなしの日々を送っていたが女神様から異世界に転生すると説明された時にはアニメやゲームのような展開を期待したりもした。 例えばモンスターを倒して国を救いヒロインと結ばれるなど。 けれど与えられた【今まで選ばれなかったスキルが使える】 戦闘はおろか日常の役にも立つ気がしない余りものばかり。 同じ転生者でイケメン王子のレイニーに出迎えられ歓迎される。 彼は【スキル:水】を使う最強で理想的な異世界転生者に思えたのだが―――!? ※小説家になろう様にも掲載しています。

異世界ママ、今日も元気に無双中!

チャチャ
ファンタジー
> 地球で5人の子どもを育てていた明るく元気な主婦・春子。 ある日、建設現場の事故で命を落としたと思ったら――なんと剣と魔法の異世界に転生!? 目が覚めたら村の片隅、魔法も戦闘知識もゼロ……でも家事スキルは超一流! 「洗濯魔法? お掃除召喚? いえいえ、ただの生活の知恵です!」 おせっかい上等! お節介で世界を変える異世界ママ、今日も笑顔で大奮闘! 魔法も剣もぶっ飛ばせ♪ ほんわかテンポの“無双系ほんわかファンタジー”開幕!

お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます

菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。 嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。 「居なくていいなら、出ていこう」 この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし

処理中です...