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「よかった。間に合いました」
その声に目を開けると、校舎の屋上に佐竹はいた。グラウンドの方では爆炎が上がっていて、ヘリは遠くでホバリングをしているのが小さく見えた。
どうやら女神が守ってくれたらしい。
佐竹は自分の左手の先に手錠で繋がったライダースーツの女がいることを確認し、それから視線を笑顔で彼を見ている女神に向けた。
「何故助けたんだ?」
「だって、私たちの世界に転生していただかないと困りますから」
「死んだら転生していたんじゃないのか?」
「それは違います。転生も然るべき手順を踏まないとただの犬死です。少なくとも死ぬ直前までに二つの世界を一瞬でも繋げる必要があります」
「だから、助けた?」
「はい」
異世界とか女神とか言い出さなければ可愛いのにな、と思いつつ、佐竹はひとまず「ありがとう」と礼を口にする。
ライダースーツの女は気を失っていたようだったが、くぐもった声を漏らした後でゆっくりと体を起こした。
「あんたが助けた?」
「はい」
「そうか。あんたは女神か。助けてくれたのは感謝する。しかし、この佐竹という男性はやれない」
「何故ですか?」
「彼は二重契約者だ。この場合、どちらの異世界にも転生させる訳にはいかない、というのが本世界での決まりだ」
「それはおかしいです。契約書では確かに」
「だから、そういうことを含めて確かめるまでは、管理協会の方で身柄を拘束させてもらう」
女神はつい先程までの笑顔をゴミ箱にでも投げ捨てたのか、とても公共の電波には乗せられない形相でライダースーツを睨む。
「決まりだ。悪いな。じゃ、行くぞ」
だがライダースーツの女は特に意に介さないようで、それだけ言うと立ち上がり、佐竹の腕を引いた。
ドアを開け、階段を下りていく。それに女神はついてはこなかった。
「あの」
「何?」
「またさっきみたいに襲われませんか?」
「少し油断しただけだ。今度は大丈夫だ」
油断という言葉で片付けられるのだろうか。どう考えても無茶を承知で相手は佐竹を殺しにきている。このライダースーツと一緒に行動しても逃げられないんじゃないかとしか思えない。
三階廊下に出る。けれど、どの教室にも人影なかった。
「あの」
「だから何?」
「妙だと思いませんか」
「何を?」
「教室に人がいない」
「言われてみればそうだが、今日は休みとか、そういうオチだろう?」
「いや。月曜ですよ。普通に登校するし、何なら授業中だ」
その異変を彼女も感じたようだ。
どこの教室だろう。戸を開け、佐竹たちの前に姿を見せたのはあのスキンヘッドの男だった。ただ最初に見た時よりは明らかに体格が違う。最早タンクトップはどこかに姿を消してしまっていた。皮膚の色も妙だ。濃い緑で、どうやら人間の皮膚とは異なる。しかもその男、足と足の間にもう一本、何かが生えている。どうやらそれは尻尾のようだった。
「佐竹さん。どうして逃げるんですかあ?」
赤い舌がちろちろと伸びた。爬虫類を思わせるが、明らかに人間ではない。
彼女にもそれが分かったのだろう。右手で抜いた銃で警告もなく発砲した。
だが緑のスキンヘッドの皮膚は固い音を立て、自身に向かってきた二発の銃弾を弾いてしまう。壁に一つ、窓に一つが跳び、ガラスが割れてしまった。
「あなたたち、許可証は持っているの? そもそも異世界転生はこの世界の人間以外が関わることを禁じられているはずよ?」
「何言ってんだ。この世界の生き物じゃないって、あんたは証明できるのか? ちゃんとパスポートだって持ってるぜ。もちろん偽造だがな」
「ああ、そうか。あんたらアレね。一部で話題になってた転生詐欺集団。許可証だって偽物でしょう? 莫大な金で動く、アンダーグラウンドの転生させ屋」
「転生させ、や?」
「そうよ。転生対象になった人物がどうしても欲しいっていう別の異世界から法外な金で仕事を請け負い、無理やりそっちの異世界に転生させるっていう、転生者強奪集団なのよ。あんたらの所為で余計な仕事が増えてんだからね」
スキンヘッドは低く笑うと、驚くべき速度で突っ込んできて女ごと佐竹を壁に弾き飛ばした。
――息ができない。
彼女の方は受け身を取ったのか、辛うじて動けるらしい。
「肋骨一本くらいいったかしら。この借り、高いわよ」
そう言うなり、手錠を外す。
「ちょっとそこで見学してなさい、坊や」
佐竹にウインクをして、彼女はゆっくりとスキンヘッドの方に歩いていく。だがどう見ても普通の人間が太刀打ちできる相手とは思えない。
けれど彼女はライダースーツのチャックを下ろし、勢い良くそれを脱ぎ捨てた。中身は全裸ではなく、かといって下着も身に着けていない。狐色の体毛に覆われ、彼女は二足歩行から四足へと切り替わった。
それは猫科の肉食獣で、黒い頭髪だけが辛うじて彼女の人間時の面影を残していた。
スキンヘッドへと飛びかかり、その首に噛み付く。男は抵抗し、彼女を押さえ込んで馬乗りになったが、それも一瞬のことで、彼女によって弾き飛ばされ、壁へと衝突する。
男が体勢を立て直そうとしたところに間髪入れずに飛びかかり、再び噛み付いた。余程鋭い牙なのだろう。銃弾を跳ね除けた皮膚を安々と食い破り、スキンヘッドは緑色の血を流し、しばらくするとぴくりとも動かなくなってしまった。
彼女は立ち上がり、人の姿に戻ると、その濡れた口元を腕で拭う。
佐竹の前へとやってきた彼女は笑顔を見せたが、彼があまりに目を大きくして自分を見ているのでようやくそれに気づいた。
スーツを身にまとっていない彼女は、見事に人間の女性の裸体だった。
その声に目を開けると、校舎の屋上に佐竹はいた。グラウンドの方では爆炎が上がっていて、ヘリは遠くでホバリングをしているのが小さく見えた。
どうやら女神が守ってくれたらしい。
佐竹は自分の左手の先に手錠で繋がったライダースーツの女がいることを確認し、それから視線を笑顔で彼を見ている女神に向けた。
「何故助けたんだ?」
「だって、私たちの世界に転生していただかないと困りますから」
「死んだら転生していたんじゃないのか?」
「それは違います。転生も然るべき手順を踏まないとただの犬死です。少なくとも死ぬ直前までに二つの世界を一瞬でも繋げる必要があります」
「だから、助けた?」
「はい」
異世界とか女神とか言い出さなければ可愛いのにな、と思いつつ、佐竹はひとまず「ありがとう」と礼を口にする。
ライダースーツの女は気を失っていたようだったが、くぐもった声を漏らした後でゆっくりと体を起こした。
「あんたが助けた?」
「はい」
「そうか。あんたは女神か。助けてくれたのは感謝する。しかし、この佐竹という男性はやれない」
「何故ですか?」
「彼は二重契約者だ。この場合、どちらの異世界にも転生させる訳にはいかない、というのが本世界での決まりだ」
「それはおかしいです。契約書では確かに」
「だから、そういうことを含めて確かめるまでは、管理協会の方で身柄を拘束させてもらう」
女神はつい先程までの笑顔をゴミ箱にでも投げ捨てたのか、とても公共の電波には乗せられない形相でライダースーツを睨む。
「決まりだ。悪いな。じゃ、行くぞ」
だがライダースーツの女は特に意に介さないようで、それだけ言うと立ち上がり、佐竹の腕を引いた。
ドアを開け、階段を下りていく。それに女神はついてはこなかった。
「あの」
「何?」
「またさっきみたいに襲われませんか?」
「少し油断しただけだ。今度は大丈夫だ」
油断という言葉で片付けられるのだろうか。どう考えても無茶を承知で相手は佐竹を殺しにきている。このライダースーツと一緒に行動しても逃げられないんじゃないかとしか思えない。
三階廊下に出る。けれど、どの教室にも人影なかった。
「あの」
「だから何?」
「妙だと思いませんか」
「何を?」
「教室に人がいない」
「言われてみればそうだが、今日は休みとか、そういうオチだろう?」
「いや。月曜ですよ。普通に登校するし、何なら授業中だ」
その異変を彼女も感じたようだ。
どこの教室だろう。戸を開け、佐竹たちの前に姿を見せたのはあのスキンヘッドの男だった。ただ最初に見た時よりは明らかに体格が違う。最早タンクトップはどこかに姿を消してしまっていた。皮膚の色も妙だ。濃い緑で、どうやら人間の皮膚とは異なる。しかもその男、足と足の間にもう一本、何かが生えている。どうやらそれは尻尾のようだった。
「佐竹さん。どうして逃げるんですかあ?」
赤い舌がちろちろと伸びた。爬虫類を思わせるが、明らかに人間ではない。
彼女にもそれが分かったのだろう。右手で抜いた銃で警告もなく発砲した。
だが緑のスキンヘッドの皮膚は固い音を立て、自身に向かってきた二発の銃弾を弾いてしまう。壁に一つ、窓に一つが跳び、ガラスが割れてしまった。
「あなたたち、許可証は持っているの? そもそも異世界転生はこの世界の人間以外が関わることを禁じられているはずよ?」
「何言ってんだ。この世界の生き物じゃないって、あんたは証明できるのか? ちゃんとパスポートだって持ってるぜ。もちろん偽造だがな」
「ああ、そうか。あんたらアレね。一部で話題になってた転生詐欺集団。許可証だって偽物でしょう? 莫大な金で動く、アンダーグラウンドの転生させ屋」
「転生させ、や?」
「そうよ。転生対象になった人物がどうしても欲しいっていう別の異世界から法外な金で仕事を請け負い、無理やりそっちの異世界に転生させるっていう、転生者強奪集団なのよ。あんたらの所為で余計な仕事が増えてんだからね」
スキンヘッドは低く笑うと、驚くべき速度で突っ込んできて女ごと佐竹を壁に弾き飛ばした。
――息ができない。
彼女の方は受け身を取ったのか、辛うじて動けるらしい。
「肋骨一本くらいいったかしら。この借り、高いわよ」
そう言うなり、手錠を外す。
「ちょっとそこで見学してなさい、坊や」
佐竹にウインクをして、彼女はゆっくりとスキンヘッドの方に歩いていく。だがどう見ても普通の人間が太刀打ちできる相手とは思えない。
けれど彼女はライダースーツのチャックを下ろし、勢い良くそれを脱ぎ捨てた。中身は全裸ではなく、かといって下着も身に着けていない。狐色の体毛に覆われ、彼女は二足歩行から四足へと切り替わった。
それは猫科の肉食獣で、黒い頭髪だけが辛うじて彼女の人間時の面影を残していた。
スキンヘッドへと飛びかかり、その首に噛み付く。男は抵抗し、彼女を押さえ込んで馬乗りになったが、それも一瞬のことで、彼女によって弾き飛ばされ、壁へと衝突する。
男が体勢を立て直そうとしたところに間髪入れずに飛びかかり、再び噛み付いた。余程鋭い牙なのだろう。銃弾を跳ね除けた皮膚を安々と食い破り、スキンヘッドは緑色の血を流し、しばらくするとぴくりとも動かなくなってしまった。
彼女は立ち上がり、人の姿に戻ると、その濡れた口元を腕で拭う。
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