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一章 転生と魔女

1-1 魔女(?)と部屋

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 もうすぐ死ぬんだろうな、とは思ってた。ずっと前から分かってたから、もう諦めてたし、怖いのは怖いけど受け入れられていた。

 生まれ変われるなら、なんてことも、段々考えなくなっていった。虚しくなるだけだから。

 最期に見えたのは、ぼやけた、真っ白な、なにもない病室の天井だった。





 ……痛い。痛い。痛い。

 鈍い、全身の痛みで、ゆっくりと意識が浮上して瞼がゆったりと開いた。

「うぇ?」

高い、涼やかで軽やかな声。……これ、「私」の声じゃない。

 驚いて飛び起きようとするが、起きられない。重い。体が重い。起きられなかった代わりといってはなんだが、引き攣ったように全身に鋭い痛み。……これは怪我? 病気? とにかく動かないほうがいいらしい。今まで数年病気でベッドの中だった、私の勘が告げている。

 起き上がるのは諦めて、ここがなんなのか、様子を窺うことにした。

 目の前に映るのは、薄っすらとそこら中に蜘蛛の巣の張った天井。そこに吊るしてあるランタンは埃を被っていて、そのせいで煤けた薄い光しか出ておらず、部屋の中はぼんやりと薄暗い。

 ……いや、やっぱりここどこ? 少なくとも日本じゃないよね? もっと観察しようと、さっきの戒めをすっかり忘れて首を横に動かした途端、突如殴られたような鋭い痛みが起きたときと同じく、全身を襲う。

「ゔぁっ……」

今度は思わず呻いてしまう。それとともに、焦ったようにノックする音とともに、おそらくはドアが開いたのかギギッ、と軋む音がしてパタパタと誰かが駆けてきた。

「大丈夫かい!? 痛いだろう、急に動いちゃいけないよ!」

物語で定番の黒いトンガリの魔女帽を被った、くせ毛気味の金髪の女の人。……はい? コスプレ? いかにもハロウィーンで渋谷を闊歩するパリピな若者が切る衣装だ。……それにしては落ち着いていて、肌と髪は若々しく艶があり、年齢は予測できないもののそれなりに年配っぽい威厳があるのだけれど。

 なんて馬鹿みたいに場違いなことをぼーっと考えていると、女の人は私の目元に手を翳して、視界を閉ざした。

「ちょっ……」

「治してあげるから動かないの。……【光】よ、傷を癒やし痛みを取り払え」

柔らかな、ランタンよりも明るい白の光が目の裏に映る。それとともに、全身の痛みがすうっと引いていく。完全に無くなるわけではないけれど、格段にましになった。

 ……今のなに?

「痛みは?」

「……だいぶ、引きました」

「それはよかった。けど、完全に治ったわけじゃないから、安静にね」

じゃ、少し休んでおきな、とだけ言い残し、女の人は、コツン、コツン、という靴音と、ギシギシと軋む床板の音ともに退室してしまった。

 ……誰なのか、せめて教えてほしかったんだけど……

 得体の知れない場所に、人に、そして自分。意味がわからない、恐怖しかないこの状況。

 ……うん、せめて部屋の中のことだけでも知っておきたい。

 私はあの女の人の注意を聞こえかったことにして、ぴょいとベットから降りる。

 さっきの謎の施しのおかげで痛みはあるものの一切動けない状態ではなくなった。

「あ、鏡」

ボロ部屋には似つかわしくない、妙に凝った細工の額に入った鏡。全体的に埃を被っていて古びていてはいるけれど、それにしても高級そうだ。

 埃をこうも被っていてはよく見えないので、袖で表面をさっと拭う。

「……へっ?」


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