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転生編

あの時、本当は

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「貴方は、誰? 『私』の姿だけど、私じゃない」

『今の私は、今原瑠香いまはらるか

今原瑠香。それは前世の私の名だ。……貴方は本当に誰なんだ。

『……そして、前世での名は、ミカエル・フィレネーゼ』

……ミカエル・フィレネーゼ。つまり、私、今原瑠香とミカエル・フィレネーゼは中身だけが入れ替わったというのか? いやでもそれは可笑しい。だって私は、私は。

「もし、入れ替わっていたとして。『今原瑠香』はもう死んでいるはずでしょう」

白血病。治る可能性がないわけではないけれど、限りなく低いと言われていた。苦しかったし、私ももうすぐ死ぬだろうと自分でも思っていた。

『……ううん、貴方は死ななかった、あの後アメリカの天才医師って言われてる人に診てもらうことで徐々に回復して完治するはずだった』

「あ……」

アメリカの医師と聞いて思い出した。ダニエル・ハーゲルという医師の元に、入れ替わる前に行くことになっていた気がする。……あれで治るはずだったのか。

「ならどうして入れ替わって……」

『私がやったの。この世界の闇に宿るとかいう悪魔とやらが教えてくれたの。貴方が今原瑠香が病気で死んでしまうかもしれないって自分で絶望していること。なら、私と入れ替わっても、今原瑠香が死んでミカエル・フィレネーゼに転生したって思って勘違いしてくれるかなって、そう思ったの…… 私はあの場所から出て、自由になりたかった。貴族とかいう立場から開放されたかった!』

彼女は叫ぶ。悲しそうに、辛そうに。貴族という立場を急に受けて連れてこられた気持ちは私には分からない。死ぬと思っていたからミカエルになったときもそこまでショックでは無かったし。でも、それはとても苦しいことだというのは感じられた。親元を離れさせられ、急に身に余る地位を与えられるということが。

『貴方と入れ替わってから、私は幸せだった。自由で、楽しかった。でも、でも、申し訳なさはいつもどこかしらにあった。私が嫌だったことを貴方に押し付けたも同然だもの』

彼女は潤んでいた目から涙を零す。そうしてごめんなさい、ごめんなさいと繰り返した。

『私っ、取り返しのつかないことをしたって、許して貰えないだろうけれどせめて謝りたくて、この夢を見せたの。魔力は今も私の中にほとんどあるから、それも今の貴方にあげようと思って……』

そこで彼女の言葉は切れて、わんわん泣き出した。何か言おうとしているが、声になっていない。今の十八歳の見た目にそぐわないほど大泣きする彼女を見て思い出した。……彼女の中身は十歳なのだと。本当に小さくて未熟なのだと。

「いいよ、もういいの。今の私は幸せだから」

彼女に駆け寄り抱き締める。今原瑠香の体は白血病だった頃より細く痩せ細っているような気がした。それがどれだけこのことで悩んだかを私に分からせて、辛くなった。私の瞳からもぽつん、と涙が流れた。

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