9 / 31
リリーシェ王国・婚約編
セクハラ野郎とトールの怒り
しおりを挟む
「アリア、そこのお菓子だけ貰っていきましょ」
「了解」
皆、ダンスをしていて途中で通りがかった立食ブースはがらんとしていたので、いくらかケーキを頂戴してそこから退ける。
「いつもすごい量が用意されてるよね」
「そうね、最後ほとんどが捨てられちゃうのが勿体ないわ、本当に」
無心でチョコレートケーキを口に運んでいく。うん、美味しい。さすが城の厨房で料理人が作っただけある。
「それにしても、ティアが食べようって言うなんて珍しいね? 王子とのファーストダンスが終わって今日と同じように端っこにいても、いつも絶対に手を付けなかったのに」
「こういうのを食べるのは社交をしませんという意思の表れでもあるからよ。今日は人が寄ってきてほしくないから、あえて食べようと思って。それに、城で作ったケーキってどんな味なのかずっと気になってたしね」
「あぁ、納得。それじゃ、普通の人なら今日は近寄ってこないってことね」
「……普通ならね」
は? と怪訝な顔をしたアリアは私の目線の先を追う。そして納得してくれたらしい。
あのドルードの三男がこちらに向かってきているのだ。
「お久しぶりです、ヴィオテール公爵令嬢」
「お久しぶりですね、ドルード公爵子息」
「貴方のような美しい花がこのような寂れた場所にいては、盛り上がりに欠けるかと思いまして。よければ一曲、踊りませんか?」
「……すいません、今日は少し体調が優れないので、また今度の機会に……」
まぁもちろん嘘である。
この男には私もいい思い出がないので、できれば避けたいからだ。婚約者がいる私に対して話しかけてきて、にやにやと笑いながら頬を触ってきたのは今も鮮明に覚えている。全身に鳥肌が立つくらいに気持ち悪かった。
「そうなのですか、それは残念です。では、あちらでお話をしませんか? 従者に肩掛けでも用意させますし」
「いえ……あの、友人もいますし……」
あぁ、ドルードが公爵位の家でなければ身分を理由に蹴散らせたのに。イライラが溜まっていくが我慢我慢。うまく振り払わねば。
「しかし、平民でしょう? そのようなみすぼらしく汚らわしい娘は貴方のような美しい方には不釣り合いですよ。このような場にいること自体が烏滸がましいくらいだ」
隣りにいるアリアの肩が少しびくりと縮こまった。
……なんてことを言ってくれるのよ。
ふざけるな、と叫んでしまいそうになった。が、言葉はそこで否応なしに途切れてしまった。
「ひっ……」
パチリ、と何かが弾ける音。と、ほぼ同時にドルードが私からすっと飛び退いた。
紫の火花が目の前で散ったのだ。丁度、私に触れようとしたドルードの手の辺りだ。
「誰の許可を得てこんなこと……お父様に訴えてやるからな!」
「失礼。友人を貶めるような発言が聞こえたので、つい」
そう爽やかに、私の前に立ってドルードとの間に入ってきたのはトールだった。一瞬見えた表情はにこにことしていたが、目は笑っていない。絶対零度という言葉が相応しいと感じるほどに冷たい光を帯びていた。怒りが向けられていない私でさえ寒気がしたほどに、怒っている。
「……っ、そやつは平民なのだから悪くないだろう! 我ら貴族よりも余程劣った存在なのだから!」
「……はぁ、蔑視が過ぎるのでは? 少なくとも彼女は貴方よりはよほど優秀な魔術師ですし、平民だからという理不尽な理由で虐げるのはよろしくないかと。……それに、フィティアを困らせていたような貴方のほうが余程この場には似つかわしくないですし、存在しているのが烏滸がましいことだと僕は思いますけれど」
ぐっ、と言葉を詰まらせたドルードの三男は覚えてろよ、と大衆小説の安っぽい悪役のような台詞を言い残してドタドタと去っていった。
「了解」
皆、ダンスをしていて途中で通りがかった立食ブースはがらんとしていたので、いくらかケーキを頂戴してそこから退ける。
「いつもすごい量が用意されてるよね」
「そうね、最後ほとんどが捨てられちゃうのが勿体ないわ、本当に」
無心でチョコレートケーキを口に運んでいく。うん、美味しい。さすが城の厨房で料理人が作っただけある。
「それにしても、ティアが食べようって言うなんて珍しいね? 王子とのファーストダンスが終わって今日と同じように端っこにいても、いつも絶対に手を付けなかったのに」
「こういうのを食べるのは社交をしませんという意思の表れでもあるからよ。今日は人が寄ってきてほしくないから、あえて食べようと思って。それに、城で作ったケーキってどんな味なのかずっと気になってたしね」
「あぁ、納得。それじゃ、普通の人なら今日は近寄ってこないってことね」
「……普通ならね」
は? と怪訝な顔をしたアリアは私の目線の先を追う。そして納得してくれたらしい。
あのドルードの三男がこちらに向かってきているのだ。
「お久しぶりです、ヴィオテール公爵令嬢」
「お久しぶりですね、ドルード公爵子息」
「貴方のような美しい花がこのような寂れた場所にいては、盛り上がりに欠けるかと思いまして。よければ一曲、踊りませんか?」
「……すいません、今日は少し体調が優れないので、また今度の機会に……」
まぁもちろん嘘である。
この男には私もいい思い出がないので、できれば避けたいからだ。婚約者がいる私に対して話しかけてきて、にやにやと笑いながら頬を触ってきたのは今も鮮明に覚えている。全身に鳥肌が立つくらいに気持ち悪かった。
「そうなのですか、それは残念です。では、あちらでお話をしませんか? 従者に肩掛けでも用意させますし」
「いえ……あの、友人もいますし……」
あぁ、ドルードが公爵位の家でなければ身分を理由に蹴散らせたのに。イライラが溜まっていくが我慢我慢。うまく振り払わねば。
「しかし、平民でしょう? そのようなみすぼらしく汚らわしい娘は貴方のような美しい方には不釣り合いですよ。このような場にいること自体が烏滸がましいくらいだ」
隣りにいるアリアの肩が少しびくりと縮こまった。
……なんてことを言ってくれるのよ。
ふざけるな、と叫んでしまいそうになった。が、言葉はそこで否応なしに途切れてしまった。
「ひっ……」
パチリ、と何かが弾ける音。と、ほぼ同時にドルードが私からすっと飛び退いた。
紫の火花が目の前で散ったのだ。丁度、私に触れようとしたドルードの手の辺りだ。
「誰の許可を得てこんなこと……お父様に訴えてやるからな!」
「失礼。友人を貶めるような発言が聞こえたので、つい」
そう爽やかに、私の前に立ってドルードとの間に入ってきたのはトールだった。一瞬見えた表情はにこにことしていたが、目は笑っていない。絶対零度という言葉が相応しいと感じるほどに冷たい光を帯びていた。怒りが向けられていない私でさえ寒気がしたほどに、怒っている。
「……っ、そやつは平民なのだから悪くないだろう! 我ら貴族よりも余程劣った存在なのだから!」
「……はぁ、蔑視が過ぎるのでは? 少なくとも彼女は貴方よりはよほど優秀な魔術師ですし、平民だからという理不尽な理由で虐げるのはよろしくないかと。……それに、フィティアを困らせていたような貴方のほうが余程この場には似つかわしくないですし、存在しているのが烏滸がましいことだと僕は思いますけれど」
ぐっ、と言葉を詰まらせたドルードの三男は覚えてろよ、と大衆小説の安っぽい悪役のような台詞を言い残してドタドタと去っていった。
2
あなたにおすすめの小説
婚約破棄された翌日、兄が王太子を廃嫡させました
由香
ファンタジー
婚約破棄の場で「悪役令嬢」と断罪された伯爵令嬢エミリア。
彼女は何も言わずにその場を去った。
――それが、王太子の終わりだった。
翌日、王国を揺るがす不正が次々と暴かれる。
裏で糸を引いていたのは、エミリアの兄。
王国最強の権力者であり、妹至上主義の男だった。
「妹を泣かせた代償は、すべて払ってもらう」
ざまぁは、静かに、そして確実に進んでいく。
『白い結婚だったので、勝手に離婚しました。何か問題あります?』
夢窓(ゆめまど)
恋愛
「――離婚届、受理されました。お疲れさまでした」
教会の事務官がそう言ったとき、私は心の底からこう思った。
ああ、これでようやく三年分の無視に終止符を打てるわ。
王命による“形式結婚”。
夫の顔も知らず、手紙もなし、戦地から帰ってきたという噂すらない。
だから、はい、離婚。勝手に。
白い結婚だったので、勝手に離婚しました。
何か問題あります?
婚約破棄された令嬢が記憶を消され、それを望んだ王子は後悔することになりました
kieiku
恋愛
「では、記憶消去の魔法を執行します」
王子に婚約破棄された公爵令嬢は、王子妃教育の知識を消し去るため、10歳以降の記憶を奪われることになった。そして記憶を失い、退行した令嬢の言葉が王子を後悔に突き落とす。
婚約破棄された人たらし悪役令嬢ですが、 最強で過保護な兄たちと義姉に溺愛されています
由香
ファンタジー
婚約破棄のその日、
悪役令嬢リリアーナは――弁明すら、しなかった。
王太子と“聖女”に断罪され、すべてを失った彼女。
だがその裏で、王国最強と名高い三人の兄と、
冷静沈着な義姉が、静かに動き始めていた。
再検証によって暴かれる“聖女の嘘”。
広場で語られる真実。
そして、無自覚に人を惹きつけてしまう
リリアーナの優しさが、次々と味方を増やしていく――。
これは、
悪役令嬢として断罪された少女が、
「誰かの物語の脇役」ではなく、
自分自身の人生を取り戻す物語。
過保護すぎる兄たちと義姉に溺愛されながら、
彼女は静かに、そして確実に幸せへ向かっていく。
どうも、死んだはずの悪役令嬢です。
西藤島 みや
ファンタジー
ある夏の夜。公爵令嬢のアシュレイは王宮殿の舞踏会で、婚約者のルディ皇子にいつも通り罵声を浴びせられていた。
皇子の罵声のせいで、男にだらしなく浪費家と思われて王宮殿の使用人どころか通っている学園でも遠巻きにされているアシュレイ。
アシュレイの誕生日だというのに、エスコートすら放棄して、皇子づきのメイドのミュシャに気を遣うよう求めてくる皇子と取り巻き達に、呆れるばかり。
「幼馴染みだかなんだかしらないけれど、もう限界だわ。あの人達に罰があたればいいのに」
こっそり呟いた瞬間、
《願いを聞き届けてあげるよ!》
何故か全くの別人になってしまっていたアシュレイ。目の前で、アシュレイが倒れて意識不明になるのを見ることになる。
「よくも、義妹にこんなことを!皇子、婚約はなかったことにしてもらいます!」
義父と義兄はアシュレイが状況を理解する前に、アシュレイの体を持ち去ってしまう。
今までミュシャを崇めてアシュレイを冷遇してきた取り巻き達は、次々と不幸に巻き込まれてゆき…ついには、ミュシャや皇子まで…
ひたすら一人づつざまあされていくのを、呆然と見守ることになってしまった公爵令嬢と、怒り心頭の義父と義兄の物語。
はたしてアシュレイは元に戻れるのか?
剣と魔法と妖精の住む世界の、まあまあよくあるざまあメインの物語です。
ざまあが書きたかった。それだけです。
田舎娘をバカにした令嬢の末路
冬吹せいら
恋愛
オーロラ・レンジ―は、小国の産まれでありながらも、名門バッテンデン学園に、首席で合格した。
それを不快に思った、令嬢のディアナ・カルホーンは、オーロラが試験官を買収したと嘘をつく。
――あんな田舎娘に、私が負けるわけないじゃない。
田舎娘をバカにした令嬢の末路は……。
捨てられ侯爵令嬢ですが、逃亡先で息子と幸せに過ごしていますので、邪魔しないでください。
蒼月柚希
恋愛
公爵様の呪いは解かれました。
これで、貴方も私も自由です。
……だから、もういいですよね?
私も、自由にして……。
5年後。
私は、ある事情から生まれ育った祖国を離れ、
親切な冒険者パーティーと、その地を治める辺境伯様のご家族に守られながら、
今日も幸せに子育てをしています。
だから貴方も勝手に、お幸せになってくださいね。
私のことは忘れて……。
これは、お互いの思いがこじれ、離れ離れになってしまった一組の夫婦の物語。
はたして、夫婦は無事に、離婚を回避することができるのか?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる