妹に婚約者を奪われた私は今、隣国の王子に溺愛されています!?

水瀬瑠奈

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リリーシェ王国・婚約編

セクハラ野郎とトールの怒り

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「アリア、そこのお菓子だけ貰っていきましょ」

「了解」

皆、ダンスをしていて途中で通りがかった立食ブースはがらんとしていたので、いくらかケーキを頂戴してそこから退ける。

「いつもすごい量が用意されてるよね」

「そうね、最後ほとんどが捨てられちゃうのが勿体ないわ、本当に」

無心でチョコレートケーキを口に運んでいく。うん、美味しい。さすが城の厨房で料理人が作っただけある。

「それにしても、ティアが食べようって言うなんて珍しいね? 王子とのファーストダンスが終わって今日と同じように端っこにいても、いつも絶対に手を付けなかったのに」

「こういうのを食べるのは社交をしませんという意思の表れでもあるからよ。今日は人が寄ってきてほしくないから、あえて食べようと思って。それに、城で作ったケーキってどんな味なのかずっと気になってたしね」

「あぁ、納得。それじゃ、普通の人なら今日は近寄ってこないってことね」

「……普通ならね」

は? と怪訝な顔をしたアリアは私の目線の先を追う。そして納得してくれたらしい。

 あのドルードの三男がこちらに向かってきているのだ。

「お久しぶりです、ヴィオテール公爵令嬢」

「お久しぶりですね、ドルード公爵子息」

「貴方のような美しい花がこのような寂れた場所にいては、盛り上がりに欠けるかと思いまして。よければ一曲、踊りませんか?」

「……すいません、今日は少し体調が優れないので、また今度の機会に……」

まぁもちろん嘘である。

 この男には私もいい思い出がないので、できれば避けたいからだ。婚約者がいる私に対して話しかけてきて、にやにやと笑いながら頬を触ってきたのは今も鮮明に覚えている。全身に鳥肌が立つくらいに気持ち悪かった。

「そうなのですか、それは残念です。では、あちらでお話をしませんか? 従者に肩掛けでも用意させますし」

「いえ……あの、友人もいますし……」

あぁ、ドルードが公爵位の家でなければ身分を理由に蹴散らせたのに。イライラが溜まっていくが我慢我慢。うまく振り払わねば。

「しかし、平民でしょう? そのようなみすぼらしく汚らわしい娘は貴方のような美しい方には不釣り合いですよ。このような場にいること自体が烏滸がましいくらいだ」

隣りにいるアリアの肩が少しびくりと縮こまった。

 ……なんてことを言ってくれるのよ。

 ふざけるな、と叫んでしまいそうになった。が、言葉はそこで否応なしに途切れてしまった。

「ひっ……」

パチリ、と何かが弾ける音。と、ほぼ同時にドルードが私からすっと飛び退いた。

 紫の火花が目の前で散ったのだ。丁度、私に触れようとしたドルードの手の辺りだ。

「誰の許可を得てこんなこと……お父様に訴えてやるからな!」

「失礼。友人を貶めるような発言が聞こえたので、つい」

そう爽やかに、私の前に立ってドルードとの間に入ってきたのはトールだった。一瞬見えた表情はにこにことしていたが、目は笑っていない。絶対零度という言葉が相応しいと感じるほどに冷たい光を帯びていた。怒りが向けられていない私でさえ寒気がしたほどに、怒っている。

「……っ、そやつは平民なのだから悪くないだろう! 我ら貴族よりも余程劣った存在なのだから!」

「……はぁ、蔑視が過ぎるのでは? 少なくとも彼女は貴方よりはよほど優秀な魔術師ですし、平民だからという理不尽な理由で虐げるのはよろしくないかと。……それに、フィティアを困らせていたような貴方のほうが余程この場には似つかわしくないですし、存在しているのが烏滸がましいことだと僕は思いますけれど」

ぐっ、と言葉を詰まらせたドルードの三男は覚えてろよ、と大衆小説の安っぽい悪役のような台詞を言い残してドタドタと去っていった。


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