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第二十話 陰謀
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「万事首尾はうまくいったようだな」
大臣ハマンは、笑いを噛み殺して、執務室の椅子の上でふんぞり返った。
小柄な身体は大層立派なメタボで、額は常に脂でテカっている。
「はい、それはもう……っていうか今月の報酬分、
ちゃっちゃとここに振り込んでくださいね」
そういって女はにっこりとほほ笑んで、
机の上に請求書を叩きつけた。
ブロンドの髪が豊かに背に流れ、
アクアブルーの透き通った瞳が印象的な、いわゆる絶世の美女である。
「わかっておる、そう急かすな。
それよりも今夜わしと一発どう?」
女は優雅に微笑んだままで、
ハマンの顔面にパンチを繰り出した。
「へぶぅっ」
ハマンの鼻から赤い液体が、
ぽたぽたと流れ落ちている。
「冗談じゃ、冗談……。
ったくシャレの通じないやつはこれだから……」
ハマンは不満げにぶつぶつと呟いた。
「しかしまあ、お前のお蔭で皇太子とその弟王子を
廃嫡に追い込むことができた。
あとは虚けと名高いクラウド王子だ。
お前の力をもってすれば、なんのことはないだろう」
ハマンは腹を突き出して、高笑いをした。
しかしハマンの言葉に女は軽く肩をすくめた。
「さあ、それはいかがなものでしょう?」
そんな女の様子を、脇に控える鉄仮面を被った騎士がちらりと盗み見た。
◇ ◇ ◇
王妃の指示のもと、広間には着飾った貴族の子女たちが、
一堂に集められていた。
招待客たちは管弦の調べに合わせて軽やかにワルツを踏み、
振る舞われた上等のシャンパンで喉を潤しては、にぎやかに談笑している。
そんな人の輪を避けるようにして、
クラウドはバルコニーへと出た。
部屋を満たす、混じり合った香水の匂いも、
どこか浮ついた賑やかさも、何もかもがクラウドを苛立たせた。
(どいつもこいつも、脂粉を塗りたくった豚にしか見えねぇ……)
身勝手な政略結婚によって男と結婚させられ、
なおかつその嫁に心底惚れてしまった自分もなんだが、
さらに政治上の問題によって世継ぎを儲けるためだけに、
側室を作らなければならないというこの状況!
クラウドは蟀谷に青筋が走るのを感じた。
(俺は種馬かっ!)
しかし紫龍が王妃の手の中にある以上、
クラウドは王妃に従わざる負えない。
(王妃(ばばあ)が紫龍に何かをした際には、
刺し違えてでも俺は王妃を殺す)
密かにそう決意するクラウドであった。
(やってやるよ、紫龍を守るためならどんな屈辱にだって耐えて見せる)
クラウドはバルコニーを照らす
少し霞みのかかった月を見上げた。
「クラウド様」
刹那、ひとりの美女がクラウドに声をかけてきた。
ブロンドの髪が豊かに背に流れ、
アクアブルーの透き通った瞳が魅惑的にクラウドを挑発する。
「初めましてクラウド様、わたくしはハマン大臣の姪にあたります、
マリア・クラディスと申します」
女が微笑すると、木々が怪しくざわめいた。
刹那、空間が歪みを生じ、クラウドの意識が朦朧とする。
「貴様っ! 一体何をした?」
クラウドは憎々しげに、女を睨み付けた。
「このバルコニーに魔法陣を敷いていたのを、
お気づきになりませんでしたか?」
言われて気づく。
その足元に結界で巧妙に隠された魔法陣が、
淡く光を放っていることに。
女の手の中にある水晶が紫龍を映し出した。
「紫龍・アストレアですわね、
竜の一族の血を引く半月。あなたの心が強く惹かれていますね」
女が水晶に映し出された紫龍を冷たく一瞥した
。
「紫龍に指一本でも触れてみろ、てめえ殺すぞ!」
クラウドは全身に殺気を漲らせて言った。
「まあ、恐い。でもご安心なさって。彼には何もいたしませんわ。
アストレアとの関係をこじらせるわけには参りませんものね。
ただあなたの記憶から紫龍・アストレアを永遠に消し去るだけですわ」
女は漣のように笑った。
媚薬の香りが鼻を掠め、
クラウドの意識は途切れた。
大臣ハマンは、笑いを噛み殺して、執務室の椅子の上でふんぞり返った。
小柄な身体は大層立派なメタボで、額は常に脂でテカっている。
「はい、それはもう……っていうか今月の報酬分、
ちゃっちゃとここに振り込んでくださいね」
そういって女はにっこりとほほ笑んで、
机の上に請求書を叩きつけた。
ブロンドの髪が豊かに背に流れ、
アクアブルーの透き通った瞳が印象的な、いわゆる絶世の美女である。
「わかっておる、そう急かすな。
それよりも今夜わしと一発どう?」
女は優雅に微笑んだままで、
ハマンの顔面にパンチを繰り出した。
「へぶぅっ」
ハマンの鼻から赤い液体が、
ぽたぽたと流れ落ちている。
「冗談じゃ、冗談……。
ったくシャレの通じないやつはこれだから……」
ハマンは不満げにぶつぶつと呟いた。
「しかしまあ、お前のお蔭で皇太子とその弟王子を
廃嫡に追い込むことができた。
あとは虚けと名高いクラウド王子だ。
お前の力をもってすれば、なんのことはないだろう」
ハマンは腹を突き出して、高笑いをした。
しかしハマンの言葉に女は軽く肩をすくめた。
「さあ、それはいかがなものでしょう?」
そんな女の様子を、脇に控える鉄仮面を被った騎士がちらりと盗み見た。
◇ ◇ ◇
王妃の指示のもと、広間には着飾った貴族の子女たちが、
一堂に集められていた。
招待客たちは管弦の調べに合わせて軽やかにワルツを踏み、
振る舞われた上等のシャンパンで喉を潤しては、にぎやかに談笑している。
そんな人の輪を避けるようにして、
クラウドはバルコニーへと出た。
部屋を満たす、混じり合った香水の匂いも、
どこか浮ついた賑やかさも、何もかもがクラウドを苛立たせた。
(どいつもこいつも、脂粉を塗りたくった豚にしか見えねぇ……)
身勝手な政略結婚によって男と結婚させられ、
なおかつその嫁に心底惚れてしまった自分もなんだが、
さらに政治上の問題によって世継ぎを儲けるためだけに、
側室を作らなければならないというこの状況!
クラウドは蟀谷に青筋が走るのを感じた。
(俺は種馬かっ!)
しかし紫龍が王妃の手の中にある以上、
クラウドは王妃に従わざる負えない。
(王妃(ばばあ)が紫龍に何かをした際には、
刺し違えてでも俺は王妃を殺す)
密かにそう決意するクラウドであった。
(やってやるよ、紫龍を守るためならどんな屈辱にだって耐えて見せる)
クラウドはバルコニーを照らす
少し霞みのかかった月を見上げた。
「クラウド様」
刹那、ひとりの美女がクラウドに声をかけてきた。
ブロンドの髪が豊かに背に流れ、
アクアブルーの透き通った瞳が魅惑的にクラウドを挑発する。
「初めましてクラウド様、わたくしはハマン大臣の姪にあたります、
マリア・クラディスと申します」
女が微笑すると、木々が怪しくざわめいた。
刹那、空間が歪みを生じ、クラウドの意識が朦朧とする。
「貴様っ! 一体何をした?」
クラウドは憎々しげに、女を睨み付けた。
「このバルコニーに魔法陣を敷いていたのを、
お気づきになりませんでしたか?」
言われて気づく。
その足元に結界で巧妙に隠された魔法陣が、
淡く光を放っていることに。
女の手の中にある水晶が紫龍を映し出した。
「紫龍・アストレアですわね、
竜の一族の血を引く半月。あなたの心が強く惹かれていますね」
女が水晶に映し出された紫龍を冷たく一瞥した
。
「紫龍に指一本でも触れてみろ、てめえ殺すぞ!」
クラウドは全身に殺気を漲らせて言った。
「まあ、恐い。でもご安心なさって。彼には何もいたしませんわ。
アストレアとの関係をこじらせるわけには参りませんものね。
ただあなたの記憶から紫龍・アストレアを永遠に消し去るだけですわ」
女は漣のように笑った。
媚薬の香りが鼻を掠め、
クラウドの意識は途切れた。
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