俺が王子で男が嫁で!

萌菜加あん

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第三十話 ふたりのラブレッスン

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「今なら胸を張って言える。
俺もお前が好きだ、クラウド」

お前が好きだー、
好きだー
好きだー

紫龍の言葉がクラウドの頭で無限のループを繰り返す。

前略おふくろ様、すったもんだの後、
俺はようやく愛する嫁の口から愛の告白を聞くことが出来ました。

政略結婚の名のもとに男の嫁を娶ったり、
その嫁にうっかり惚れてしまったり、健康ランドで色々あったり、
政治の陰謀に巻き込まれて魔女に記憶を操作されたり、
記憶が戻ったらいきなり嫁が美少女になっていたりとか、
本当に色々ありましたが、
俺はついに、ついにこの日を迎えることができました。

おめでとう俺!
ありがとう地球!

なんだかもう意味が分からなくなってきましたが、
とりあえずなんかそんな感じのテンションです。

クラウドはこれまでの日々を思い出し、感慨に耽った。

「クラウド? どうした?」

紫龍が心配そうにクラウドを覗き込んだ。

「なんでもねーよ」
クラウドはそういって紫龍を抱きしめた。
紫龍はクラウドの腕をギュッと握り、赤面する。

(なにこれ、チョー可愛いんですけど)

クラウドは不整脈をおこし、軽い酸欠に陥った。

(これは……やはり……あの……つまり……そういうことか?)

クラウドは少し目を細め、
あらゆる場合を想定しての脳内シュミレーションを試みる。

赤面しながらも、
紫龍の腕が遠慮がちにクラウドの背に回された。

(なんですか、紫龍くん、
ひょっとしてこの俺を萌え死にさせる気ですか? 
コノヤローーーーー!)

そんなクラウドの心の絶叫とともに
その下半身がもっさりと頭をもたげた。

(第一戦闘配備、
主砲発射準備完了であります!)

「うわっ、あのっ、これは……」

衣服を通してではあるが、
その感触に触れ紫龍は益々赤面し、下を向いた。

「いや、あの……これは……いや、だから、まあ、そういうことなんです」

クラウドは代名詞を多用し、口ごもった。

(いいよな、俺たちれっきとした夫婦なんだもんよ。
結婚式からなんやかんやで半年間もお預けだったんだもんよ)

この半年間の禁欲生活を顧み、クラウドの瞳に涙が光る。

「ま、待って、クラウド」

紫龍がやんわりとその身体をクラウドから離した。

「何? どうしたの」

クラウドが訝し気な顔をする。

(もう、どうあっても逃がしませんよ、紫龍君)

そんな鬼気迫るオーラが
クラウドの全身から立ち上っている。

「あ、あの、これが、つまり……そういうことだということは
俺も一応理解している。
だから、あの……とりあえず、シャ……シャワーを浴びてきてもいいだろうか」

紫龍が真っ赤になって呟いた。

「お……おう」

クラウドもぎこちなくそれに応え、生唾を呑んだ。

浴室にシャワーの水音が響く。
紫龍は頭から水を浴る。

(ちくしょう、しっかりしろ!俺)

紫龍は己を叱咤するが、知らず全身が緊張で震えてくる。
この日に備えて、エアリスから送られてきた
『王宮出版 夫婦の営み ヴァージョンⅣ』もしっかりと読み込んできた。

手順はわかる。一応……。

しかし鏡に映る自身の姿に紫龍はさらに羞恥を掻き立てられる。
鏡に映るのは、一糸纏わぬ黒髪の美少女。
これは今までの人生を過ごしてきた男の身体ではない。

吸い付くような肌理の細かい白磁の肌に、小毬のような双丘。

(この姿をクラウドに見られるのか)

そう思っただけで、紫龍の身体は熱を帯びてくる。

(無理、無理無理無理無理っ!そもそも、恥ずかし過ぎんだろっ)

男同士のときはさして意識もしていなかったのだが、
クラウドへの思いを認識し、女の身体となった今、
クラウドの前で一糸纏わぬ裸体を晒すなど、
耐えがたい羞恥を覚えずにはいられない。

そもそも、クラウドへの好きという感情すら
自身では御しがたく、持て余している状況なのに、その上、その上……。

紫龍は王宮出版の某出版物に書かれてあったアーーーー!な内容を思い出した。

(うわーーーー! 無理無理無理無理っ! 
いきなりあんなことや、こんなこと……できるわけがねーーーーー! 
俺は初心者だっつうのっ!)

紫龍は青くなって頭をぶんぶんと振った。
すると浴室の扉が開いてクラウドが入って来た。

「あは♡ やっぱり一緒に入ろう♡」
「は? お……お前……何やって」

紫龍の思考回路が停止する。

「あほ、そんなにテンパるな」

クラウドが紫龍を見て思わせぶりな笑みを浮かべる。

「て……テンパってなんか……」

反論しようとするが、
その意思に反して紫龍の唇は震える。

両腕で胸を隠し下を向く。

そしてちょっと泣きそうになる。

「ああもう、紫龍くん、カモンっ!」

そういうが早いが、
クラウドはその胸に紫龍をすっぽりと抱きしめた。

素肌越しに感じるクラウドの体温は
さらに紫龍を火照らせていく。

「だから、お前は一体何を……」

半分涙声で紫龍はクラウドに抗議しようとするのだが、
そんな紫龍の掌をクラウドは自身の胸へと持ってきて触れさせる。

「あのっ……ちょっと……」

クラウドに触れる紫龍の掌が震えている。
「恐い?」

クラウドの問いに紫龍が小さく頷いた。

「あっ、でもお前のことが恐いんじゃなくて……俺初めてだし、
失敗しちゃってお前に嫌われたらどうしようって……それが恐い」

「俺もね、恐いよ。お前に受け入れてもらえなかったら、どうしようって。
ほら、俺の心臓、すげーバクバクいってるのわかる?」

紫龍は躊躇いがちにクラウドを見上げ、小さく頷いた。

その掌に確かにクラウドの鼓動を感じ取り、
クラウドがどういう気持ちで自分を欲してくれているのかを理解した。

「いきなり、どうこうじゃなくても、
ちょっとずつ馴らしていけばいいから」

そういってクラウドは微笑むが、いきなり風呂場でふたりきり、
一糸纏わぬこの姿で、何をどう馴らせばいいんだ。

紫龍の思考は更なる混迷の淵へと落ちていくのであった。
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