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1.皇女殿下は男???
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昔々のそのまた昔、
いや、それはもしかすると遥か彼方の未来のことかもしれない。
ときに世は乱れ、罪に罪を重ねた人類は
神の逆鱗に触れる。
天災、人災、疫病がこの地を覆い、
あわや人類が、滅亡の危機を迎えんとするとき、
神は一人の義人、ノアを選び出し、
箱舟を作ることを命じて、
壮大な人類の救出を計画する。
すなわちこれが、
かの有名な『ノアの箱舟』の物語である。
ただしノアが箱舟に乗って向かった先は……宇宙。
そう……箱舟とは宇宙船だったのである。
深淵に瞬く星々の果てに、
ノアは神に与えられた英知を結集し、
地球と同じ環境を再現したコロニー群を築く。
やがて地球からの移民を受け入れて
『レッドロライン』という国家が形成された。
ときは流れ、今は王歴3553年。
ノア王朝フランツ・レッドロライン王の御代である。
◇◇◇
レッドロラインの宇宙港に、
戦艦『Black Princess』が帰還する。
全長440メートル、最新兵器である人型起動兵器、
『シェバリエ』の運用母艦としての性質も併せ持つこの強襲機動特装艦は、
強力な火器群を有するレッドロライン最強の戦艦だ。
その戦艦の総指揮官を務めるのは、
『戦場の黒皇女』という二つ名を持つ、
第一皇女、オリビア・レッドロライン。
オリビアは黒の騎士服を身に纏い、
仮面で顔を覆っているので、
その容姿を窺い知ることはできない。
しかしほっそりと長い手足は、
モデルのように均整がとれている。
オリビアが戦艦のタラップを降りると、
人々は熱気のこもった歓声を上げる。
楽隊がオリビアのための歓待の音楽を奏でると、
レッドロラインの国旗がおびただしく揺れて、
更なる怒号のような大歓声が沸き起こる。
そんな中を当のオリビアは悠々と歩んでいく。
14歳で初陣を迎えて以来、数多の歴戦を潜り抜けて、
レッドロラインに勝利をもたらし続けるこの英雄に、
人々は称賛を惜しまない。
今回もまたオリビアは、
レッドロライン領の小惑星から発見された、
通称『女神の王冠』と呼ばれる希少資源を巡る、
近隣諸国とのいざこざを、見事な手腕で鎮圧して戻った。
王宮の広間で、オリビアを迎えるレッドロライン王も、
誇らしげな眼差しをオリビアに向ける。
「国王陛下、ただいま戻りました」
オリビアは仮面を外し、父王の前に跪く。
その容姿が顕わになると、
あまりの美しさに、周りの人々が思わず息を呑んだ。
絶世の美女である。
緩くカールされた栗色の髪が、軽やかに肩のあたりで揺れて、
知性を称えるエメラルドの瞳は、深い海を思わせる。
その海に酔わない男はいないであろう。
「よくぞ無事に戻った」
レッドロライン王が、その眼差しに慈しみを込めて、
オリビアを見つめた。
その視線を受けて、オリビアが目礼する。
「この度も華々しい戦果をもって、
この国を勝利へと導いてくれた。
礼を言う」
レッドロライン王の言葉に、
オリビアは恭しく臣下の礼を取って、
その手の甲に口づける。
「もったいないお言葉でございます。
もとよりわたくしの命は国王陛下のもの」
オリビアが艶やかな微笑を浮かべると、
周囲の者たちに秋波が漂う。
その美しさたるや、
大輪の薔薇の花のごとくである。
「そんなわたくしが身命を賭して、
陛下にお仕えすることは当然のことでございます」
オリビアの言葉に、レッドロライン王が満足気に頷いて、
勲章を授けた。
これにて、本日のオリビア第一皇女の任務は終了である。
「お疲れ様でございました」
控室に戻ろうとするオリビアに、人々が敬礼し、
その周りを厳重に取り囲む。
通称『チームオリビア』と呼ばれる人たちだ。
「おおっ! お疲れさん」
オリビアも気さくに、このチームのメンバーに声をかける。
オリビアは控室に戻ると、鍵をかけて、
洗面所で装着したカラーコンタクトを外す。
瞳の色は黒だ。
「あ~疲れた~」
そう呟いてそして栗色の髪を引っ張ると、
ズルリとウィッグがずり落ちる。
その下の短い自前の髪の色も、
カラスの濡れ羽のような艶のある漆黒だ。
メイクを落として、脱衣所で衣服を脱ぎ捨てると、
補正された偽胸が顕わになる。
「うっわー、間抜け」
鏡に映る自身の姿に、軽く嫌悪を覚えながら、
補正下着を脱ぎ捨てる。
そこに女性の膨らみはない。
それは紛れもない、薄く筋肉がつき、均整の取れた、
美しい男性の身体である。
「あ~疲れたっ!
マジでサウナ行きてぇ~!
サウナに行って思いっきり整いてぇ~!」
そう軽く叫んでシャワーを浴びるのは、
漆黒の髪に闇色の瞳を持つ、
絶世の美男子である。
男は身支度を整えて、
上等のスーツに着替えると、
鏡の前でポーズを決める。
「これでどうだっ!」
鏡にうつるのは、
その辺のモデル顔負けの容姿端麗の青年だ。
「よしっ!」
男は気合を入れて、控室を出た。
「つうか、むしろこっからが、
俺の本当の戦場なんだからなっ!」
オリビア第一皇女と二つの顔を持つ
この男の名は、ウォルフ・フォン・アルフォードといい、
同時にレッドロラインの宰相家の息子、ということになっている。
この物語は、
このふざけた男の銀河をまたにかけた、
気宇壮大な恋の物語である。
いや、それはもしかすると遥か彼方の未来のことかもしれない。
ときに世は乱れ、罪に罪を重ねた人類は
神の逆鱗に触れる。
天災、人災、疫病がこの地を覆い、
あわや人類が、滅亡の危機を迎えんとするとき、
神は一人の義人、ノアを選び出し、
箱舟を作ることを命じて、
壮大な人類の救出を計画する。
すなわちこれが、
かの有名な『ノアの箱舟』の物語である。
ただしノアが箱舟に乗って向かった先は……宇宙。
そう……箱舟とは宇宙船だったのである。
深淵に瞬く星々の果てに、
ノアは神に与えられた英知を結集し、
地球と同じ環境を再現したコロニー群を築く。
やがて地球からの移民を受け入れて
『レッドロライン』という国家が形成された。
ときは流れ、今は王歴3553年。
ノア王朝フランツ・レッドロライン王の御代である。
◇◇◇
レッドロラインの宇宙港に、
戦艦『Black Princess』が帰還する。
全長440メートル、最新兵器である人型起動兵器、
『シェバリエ』の運用母艦としての性質も併せ持つこの強襲機動特装艦は、
強力な火器群を有するレッドロライン最強の戦艦だ。
その戦艦の総指揮官を務めるのは、
『戦場の黒皇女』という二つ名を持つ、
第一皇女、オリビア・レッドロライン。
オリビアは黒の騎士服を身に纏い、
仮面で顔を覆っているので、
その容姿を窺い知ることはできない。
しかしほっそりと長い手足は、
モデルのように均整がとれている。
オリビアが戦艦のタラップを降りると、
人々は熱気のこもった歓声を上げる。
楽隊がオリビアのための歓待の音楽を奏でると、
レッドロラインの国旗がおびただしく揺れて、
更なる怒号のような大歓声が沸き起こる。
そんな中を当のオリビアは悠々と歩んでいく。
14歳で初陣を迎えて以来、数多の歴戦を潜り抜けて、
レッドロラインに勝利をもたらし続けるこの英雄に、
人々は称賛を惜しまない。
今回もまたオリビアは、
レッドロライン領の小惑星から発見された、
通称『女神の王冠』と呼ばれる希少資源を巡る、
近隣諸国とのいざこざを、見事な手腕で鎮圧して戻った。
王宮の広間で、オリビアを迎えるレッドロライン王も、
誇らしげな眼差しをオリビアに向ける。
「国王陛下、ただいま戻りました」
オリビアは仮面を外し、父王の前に跪く。
その容姿が顕わになると、
あまりの美しさに、周りの人々が思わず息を呑んだ。
絶世の美女である。
緩くカールされた栗色の髪が、軽やかに肩のあたりで揺れて、
知性を称えるエメラルドの瞳は、深い海を思わせる。
その海に酔わない男はいないであろう。
「よくぞ無事に戻った」
レッドロライン王が、その眼差しに慈しみを込めて、
オリビアを見つめた。
その視線を受けて、オリビアが目礼する。
「この度も華々しい戦果をもって、
この国を勝利へと導いてくれた。
礼を言う」
レッドロライン王の言葉に、
オリビアは恭しく臣下の礼を取って、
その手の甲に口づける。
「もったいないお言葉でございます。
もとよりわたくしの命は国王陛下のもの」
オリビアが艶やかな微笑を浮かべると、
周囲の者たちに秋波が漂う。
その美しさたるや、
大輪の薔薇の花のごとくである。
「そんなわたくしが身命を賭して、
陛下にお仕えすることは当然のことでございます」
オリビアの言葉に、レッドロライン王が満足気に頷いて、
勲章を授けた。
これにて、本日のオリビア第一皇女の任務は終了である。
「お疲れ様でございました」
控室に戻ろうとするオリビアに、人々が敬礼し、
その周りを厳重に取り囲む。
通称『チームオリビア』と呼ばれる人たちだ。
「おおっ! お疲れさん」
オリビアも気さくに、このチームのメンバーに声をかける。
オリビアは控室に戻ると、鍵をかけて、
洗面所で装着したカラーコンタクトを外す。
瞳の色は黒だ。
「あ~疲れた~」
そう呟いてそして栗色の髪を引っ張ると、
ズルリとウィッグがずり落ちる。
その下の短い自前の髪の色も、
カラスの濡れ羽のような艶のある漆黒だ。
メイクを落として、脱衣所で衣服を脱ぎ捨てると、
補正された偽胸が顕わになる。
「うっわー、間抜け」
鏡に映る自身の姿に、軽く嫌悪を覚えながら、
補正下着を脱ぎ捨てる。
そこに女性の膨らみはない。
それは紛れもない、薄く筋肉がつき、均整の取れた、
美しい男性の身体である。
「あ~疲れたっ!
マジでサウナ行きてぇ~!
サウナに行って思いっきり整いてぇ~!」
そう軽く叫んでシャワーを浴びるのは、
漆黒の髪に闇色の瞳を持つ、
絶世の美男子である。
男は身支度を整えて、
上等のスーツに着替えると、
鏡の前でポーズを決める。
「これでどうだっ!」
鏡にうつるのは、
その辺のモデル顔負けの容姿端麗の青年だ。
「よしっ!」
男は気合を入れて、控室を出た。
「つうか、むしろこっからが、
俺の本当の戦場なんだからなっ!」
オリビア第一皇女と二つの顔を持つ
この男の名は、ウォルフ・フォン・アルフォードといい、
同時にレッドロラインの宰相家の息子、ということになっている。
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このふざけた男の銀河をまたにかけた、
気宇壮大な恋の物語である。
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