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2.婚約の効力が発生しました。
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「だから、何度言ったらわかるんですかっ! 私は結婚などしません。
騎士になって、お父様の補佐になりたいのですってば!
この頑固親父っ!」
少女は半ば怒鳴るように父親にそう言った。
「頑固っ……!」
少女の父、ハルマ・エルドレッドは怒りに顔を真っ赤にして返す言葉に詰まった。
少女はしまったとばかりに、手で口を覆った。
そして咳ばらいをひとつする。
「こんな私ですけど、これでもお父様のことは尊敬しているんです。
その傍らにあってお仕えしたいと、そういっているんです!」
少女は父の書斎の机を両手で叩いた。
少女は燃えるような真っ赤な髪を緩く背に流し、銀の髪飾りをつけている。
身に纏うのは、淡いエメラルドのマーメードドレスだ。
今日はユウラの16歳の誕生日である。
身に纏うドレスは優美で、その外見は美しい。
おそらくはこの国、レッドロラインに住まうどの美姫よりもその容姿は際立っている。
しかし今までユウラは自身を着飾るということを、一切しなかった。
ユウラはこの国の将軍である父ハルマの補佐となるべく、一心に騎士を志してきた。
ようやく16歳となり、王立のアカデミーへの入学が許可されたというのに、そのタイミングで
父から結婚話を切り出されたのである。
「私にこのような恰好をさせるとは、
これは一体なんのご冗談でしょうか。お父様」
ユウラがその父、ハルマにきつい視線を向けた。
「残念だが冗談などではない。
昨日も話した通り、お前には婚約者がいる」
ハルマもまた、厳しい視線をユウラに向けた。
「これは決定事項なのだ。異を唱えることは許されない」
ハルマがはっきりとした口調でユウラにそう告げた。
「は? 厄介払いでございますか? それならそうとおっしゃって!」
激したユウラの瞳に涙が盛り上がるのを見ると、
ハルマはその厳めしい眉を顰めた。
「そうではない。これは国王陛下直々にお決めになったことであって、
我ら臣下には、異を唱えることは許されていないのだ」
ユウラの頬に涙が伝う。
幼い頃からずっと思い描いてきたユウラの夢が、そこで途切れてしまったのだ。
いきなり突きつけられた現実を、ユウラは受け入れられない。
感極まったユウラは、書斎を飛び出して階段を駆け下りた。
その階下に一人の青年が佇んでいた。
漆黒の髪に闇色の瞳を持つ、
この青年の視線を気にする余裕は、
今のユウラにはない。
すれ違いざまに銀の髪飾りが床に落ちたことさえ、
ユウラは気付かない。
「お父様の、バカーーーー!」
そう叫んで、ユウラは一心不乱に駆けていく。
しかし少女が一体どこに向かって駆けているのかは、謎だ。
青年はユウラが落とした銀の髪飾りを拾った。
銀の櫛に真珠の愛らしい小花が揺れている。
そして感慨深げにその髪飾りに魅入った。
そもそもこの髪飾りは10年前に、青年が少女に贈ったものなのだ。
青年の名はウォルフ・フォン・アルフォード。
レッドロラインの宰相家にして、筆頭貴族の次期当主だ。
10年前の今日。
つまりユウラの誕生日に、二人の婚約が国王直々の声掛けにより取り決められた。
◇◇◇
「ねぇ、僕たち大人になったら結婚するんだって」
ウォルフは少し顔を赤らめて、無垢な笑顔をユウラに向けた。
そんなウォルフに、ユウラはきょとんとした表情をして言った。
「は? ケッコン? なにそれ、おいしいの?」
ユウラは不思議そうに小首を傾げた。
ユウラが根本的に色々なことを理解していないのだろうなということは、
ウォルフにもある程度予想がついた。
ユウラはまだ6歳だ。
無理もない。
2歳年上である自分がここは大人にならなけれならない局面なのだと、
ウォルフは自身に必死に言い聞かせた。
「結婚っていうのはね、食べ物ではないんだよ。ユウラ」
務めてにっこりとウォルフはユウラに微笑んだ。
「えー? じゃあ、ユウラ興味ないや」
そういってその場を立ち去ろうとしたユウラに、ウォルフはブチ切れた。
「待てや、コラ!」
ウォルフはユウラの肩を掴んだ。
ウォルフの表情からは微笑みが消えて、その声のトーンが一オクターブ低くなった。
「結婚の味、知りたいっつったのはお前だよな」
そう言ってウォルフはユウラに王宮の紫宸殿の裏で、壁ドンを炸裂させた。
そしてユウラの唇にその唇を強引に重ねると、ユウラが白目を剥いてその場に倒れた。
ウォルフはその唇を拳で拭って言った。
「この雌豚がっ! 調子に乗ってるんじゃねぇぞ!
まあいい。この俺がお前を嫁として立派に教育してやる! 覚えておけ」
この時、ウォルフの瞳孔が若干開いていたことをユウラは知らない。
◇◇◇
それから10年の歳月が流れた。
レッドロラインの筆頭貴族にして宰相を務めるアルフォード家と、
将軍職を司るエルドレッド家が交わした両家の婚約の効力が、
今日この時からきっちりと発生するのである。
「お父様のバカーーーー!」
そう言って家出のための荷造りを終えたユウラは、
何食わぬ顔でウォルフの前を通り過ぎようとしたが、
ウォルフはにっこりと微笑んで、ユウラの襟首をしっかりと引っ掴んだ。
騎士になって、お父様の補佐になりたいのですってば!
この頑固親父っ!」
少女は半ば怒鳴るように父親にそう言った。
「頑固っ……!」
少女の父、ハルマ・エルドレッドは怒りに顔を真っ赤にして返す言葉に詰まった。
少女はしまったとばかりに、手で口を覆った。
そして咳ばらいをひとつする。
「こんな私ですけど、これでもお父様のことは尊敬しているんです。
その傍らにあってお仕えしたいと、そういっているんです!」
少女は父の書斎の机を両手で叩いた。
少女は燃えるような真っ赤な髪を緩く背に流し、銀の髪飾りをつけている。
身に纏うのは、淡いエメラルドのマーメードドレスだ。
今日はユウラの16歳の誕生日である。
身に纏うドレスは優美で、その外見は美しい。
おそらくはこの国、レッドロラインに住まうどの美姫よりもその容姿は際立っている。
しかし今までユウラは自身を着飾るということを、一切しなかった。
ユウラはこの国の将軍である父ハルマの補佐となるべく、一心に騎士を志してきた。
ようやく16歳となり、王立のアカデミーへの入学が許可されたというのに、そのタイミングで
父から結婚話を切り出されたのである。
「私にこのような恰好をさせるとは、
これは一体なんのご冗談でしょうか。お父様」
ユウラがその父、ハルマにきつい視線を向けた。
「残念だが冗談などではない。
昨日も話した通り、お前には婚約者がいる」
ハルマもまた、厳しい視線をユウラに向けた。
「これは決定事項なのだ。異を唱えることは許されない」
ハルマがはっきりとした口調でユウラにそう告げた。
「は? 厄介払いでございますか? それならそうとおっしゃって!」
激したユウラの瞳に涙が盛り上がるのを見ると、
ハルマはその厳めしい眉を顰めた。
「そうではない。これは国王陛下直々にお決めになったことであって、
我ら臣下には、異を唱えることは許されていないのだ」
ユウラの頬に涙が伝う。
幼い頃からずっと思い描いてきたユウラの夢が、そこで途切れてしまったのだ。
いきなり突きつけられた現実を、ユウラは受け入れられない。
感極まったユウラは、書斎を飛び出して階段を駆け下りた。
その階下に一人の青年が佇んでいた。
漆黒の髪に闇色の瞳を持つ、
この青年の視線を気にする余裕は、
今のユウラにはない。
すれ違いざまに銀の髪飾りが床に落ちたことさえ、
ユウラは気付かない。
「お父様の、バカーーーー!」
そう叫んで、ユウラは一心不乱に駆けていく。
しかし少女が一体どこに向かって駆けているのかは、謎だ。
青年はユウラが落とした銀の髪飾りを拾った。
銀の櫛に真珠の愛らしい小花が揺れている。
そして感慨深げにその髪飾りに魅入った。
そもそもこの髪飾りは10年前に、青年が少女に贈ったものなのだ。
青年の名はウォルフ・フォン・アルフォード。
レッドロラインの宰相家にして、筆頭貴族の次期当主だ。
10年前の今日。
つまりユウラの誕生日に、二人の婚約が国王直々の声掛けにより取り決められた。
◇◇◇
「ねぇ、僕たち大人になったら結婚するんだって」
ウォルフは少し顔を赤らめて、無垢な笑顔をユウラに向けた。
そんなウォルフに、ユウラはきょとんとした表情をして言った。
「は? ケッコン? なにそれ、おいしいの?」
ユウラは不思議そうに小首を傾げた。
ユウラが根本的に色々なことを理解していないのだろうなということは、
ウォルフにもある程度予想がついた。
ユウラはまだ6歳だ。
無理もない。
2歳年上である自分がここは大人にならなけれならない局面なのだと、
ウォルフは自身に必死に言い聞かせた。
「結婚っていうのはね、食べ物ではないんだよ。ユウラ」
務めてにっこりとウォルフはユウラに微笑んだ。
「えー? じゃあ、ユウラ興味ないや」
そういってその場を立ち去ろうとしたユウラに、ウォルフはブチ切れた。
「待てや、コラ!」
ウォルフはユウラの肩を掴んだ。
ウォルフの表情からは微笑みが消えて、その声のトーンが一オクターブ低くなった。
「結婚の味、知りたいっつったのはお前だよな」
そう言ってウォルフはユウラに王宮の紫宸殿の裏で、壁ドンを炸裂させた。
そしてユウラの唇にその唇を強引に重ねると、ユウラが白目を剥いてその場に倒れた。
ウォルフはその唇を拳で拭って言った。
「この雌豚がっ! 調子に乗ってるんじゃねぇぞ!
まあいい。この俺がお前を嫁として立派に教育してやる! 覚えておけ」
この時、ウォルフの瞳孔が若干開いていたことをユウラは知らない。
◇◇◇
それから10年の歳月が流れた。
レッドロラインの筆頭貴族にして宰相を務めるアルフォード家と、
将軍職を司るエルドレッド家が交わした両家の婚約の効力が、
今日この時からきっちりと発生するのである。
「お父様のバカーーーー!」
そう言って家出のための荷造りを終えたユウラは、
何食わぬ顔でウォルフの前を通り過ぎようとしたが、
ウォルフはにっこりと微笑んで、ユウラの襟首をしっかりと引っ掴んだ。
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