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10.『私、騎士になりたいんだ』~ウォルフの追憶1
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そもそもウォルフがユウラを好きになったのは、
10年前の婚約のときに、『ユウラに興味ないや』と言われたことに由来する。
(無駄に負けず嫌いでプライドの高い俺は、そのとき、
『意地でもこいつを自分に惚れさせてやる』と決意したのだが、
そっから妙にユウラの事が気になって気になって、
初等部の頃から構いまくっていたな……そういえば)
初等部に入学したての頃のユウラはとにかく忘れ物をして、よく先生に怒られていた。
たまたま1年生の教室を通りかかったときに、
ユウラがそうやって怒られてべそをかいていたものだから、
もう気になって気になって、
「こいつ何かありましたか? 俺、こいつの保護者なんですけど」
っていって、一年生の教室に入っていった。
「保護者ってアルフォード君、君は彼女の兄ではないし、そもそもまだ初等科の3年生だろ?」
先生がてんでお話にならないといった体で、こちらを見ているが気にしない。
「ええ、そうです。ですが、俺と彼女はこの国の宰相家と将軍家の子弟です。
国王陛下の立会いのもとに、すでに先日両家が婚約を交わしていますので、
この国においては、俺がユウラの保護者として法的権利と
義務を有するものであると理解しています」
国王陛下のくだりで、先生は顔色を変えた。
「そ……そうだったのかね、これは失敬。
しかしそれにしてもユウラ・エルドレッドの忘れ物はひどい」
先生の言葉にウォルフは少し目を細め、ユウラを見る。
目に一杯涙を溜めて、ひどく悲し気な、そしてそこに深い孤独が漂う。
(これは元気いっぱいのピカピカの一年生が見せる顔じゃねぇわな)
ウォルフは直感的にそう思った。
後からユウラに事情を聞いても、決して口を割らずに、
ただ曖昧に笑っている。
放課後、ウォルフはアルフォード家の車でユウラをエルドレッド家まで送り届け、
エルドレッド家に上がり込んだ。
「宿題と時間割、俺が見ててやるから、今やってみ」
ウォルフがそう言うと、ユウラは難なく宿題と時間割をその場でやって見せた。
「ちゃんとできたじゃねぇか。偉いぞ」
そういってウォルフがユウラの頭を撫でてやると、ユウラは嬉しそうに笑った。
そのとき、メイドが悲痛な声を上げた。
「おやめください、アミラ様! それはユウラお嬢様の大切な髪飾りでございます。
亡き母上様の大切な形見なんです」
その声にユウラが廊下に飛び出した。
「おだまり! メイドごときがこの私に口答えする気かっ!」
手と口が同時にでたらしく、渇いた音がメイドの頬で鳴って、
メイドはよろけて床に膝をついた。
「メアリーっ!」
ユウラがメイドに駆け寄る。
「ユウラ、お前のお母さんの形見を借りるよ」
そういってアミラと呼ばれる婦人は、ひどく冷たい視線をユウラに向けた。
アミラが廊下の角を曲がって見えなくなると、
ユウラは耐え切れずメアリーを抱きしめて泣き崩れた。
「申し訳ございません、ユウラお嬢様。大切な母上様の髪飾りを……」
メアリーが感極まったように、ユウラを抱きしめて咽び泣く。
「髪飾りなど……。それよりもメアリー、あなたは大丈夫なの?
ひどく痛むのではなくて? 唇が切れていてよ?」
ユウラが心配そうにメアリーの顔を覗き込む。
「大丈夫ですよ、ユウラお嬢様。
こんな傷、何でもありません」
そう言ってメアリーは、ユウラを励ますために気丈に振舞って見せる。
「ごめんなさい、メアリー……。ごめんなさい。
私にもう少し力があったなら……。
私があなたたちを守ってあげなくてはならない立場なのに」
そう言ってその場に泣き崩れたユウラを、ウォルフが立たせた。
「ユウラ、今すぐ荷物をまとめろ。
俺の家に行くぞ!」
ユウラがキョトンとした顔をする。
「心配しなくていい。俺たちは婚約者として正式に国王陛下より認められた者だ。
ゆえに以後は俺がお前の後見となる。メアリーとやらお前も一緒に来い!
ユウラの乳母はどこにいる? 連れて来い。ハルマ様には後ほど俺から話す」
ウォルフの言葉に、メアリーの顔が輝いた。
「はい、かしこまりました」
メアリーはスカートの端を少し持ち上げて、ウォルフに会釈して走っていった。
「こうけん?」
ユウラが目を瞬かせながら、ウォルフに尋ねた。
ウォルフは優しくユウラを見つめる。
「ユウラ、いいか? 後見っていうのはな、
これからは俺がお前の家族になるってこと。
そうだな……。俺がお前のお母さまになってやろう」
ウォルフは母親を失った少女の心に寄り添いたい一心で、そう言ってしまった。
「ウォルフがお母さまなの? なんだかヘンテコだわ」
そういってユウラはぷっと噴出した。
「お母さまは変か? そうか……。だったらお兄様はどうだ?」
ウォルフがそういうと、ユウラが満面の笑みを浮かべた。
「ウォルフお兄様……素敵ね」
そういったユウラの頭をウォルフは愛おしそうに撫でた。
「本当は婚約者っていうんだ。
まあ、今はまだわからなくてもいいか……」
そう呟いたウォルフの顔を、ユウラが不思議そうに見つめている。
そんなユウラの視線に、ウォルフが苦笑する。
そして少し考えてから、
「婚約者っていうのはな、大切な、大切な人ってことだ」
そう言ってウォルフがユウラを抱きしめた。
10年前の婚約のときに、『ユウラに興味ないや』と言われたことに由来する。
(無駄に負けず嫌いでプライドの高い俺は、そのとき、
『意地でもこいつを自分に惚れさせてやる』と決意したのだが、
そっから妙にユウラの事が気になって気になって、
初等部の頃から構いまくっていたな……そういえば)
初等部に入学したての頃のユウラはとにかく忘れ物をして、よく先生に怒られていた。
たまたま1年生の教室を通りかかったときに、
ユウラがそうやって怒られてべそをかいていたものだから、
もう気になって気になって、
「こいつ何かありましたか? 俺、こいつの保護者なんですけど」
っていって、一年生の教室に入っていった。
「保護者ってアルフォード君、君は彼女の兄ではないし、そもそもまだ初等科の3年生だろ?」
先生がてんでお話にならないといった体で、こちらを見ているが気にしない。
「ええ、そうです。ですが、俺と彼女はこの国の宰相家と将軍家の子弟です。
国王陛下の立会いのもとに、すでに先日両家が婚約を交わしていますので、
この国においては、俺がユウラの保護者として法的権利と
義務を有するものであると理解しています」
国王陛下のくだりで、先生は顔色を変えた。
「そ……そうだったのかね、これは失敬。
しかしそれにしてもユウラ・エルドレッドの忘れ物はひどい」
先生の言葉にウォルフは少し目を細め、ユウラを見る。
目に一杯涙を溜めて、ひどく悲し気な、そしてそこに深い孤独が漂う。
(これは元気いっぱいのピカピカの一年生が見せる顔じゃねぇわな)
ウォルフは直感的にそう思った。
後からユウラに事情を聞いても、決して口を割らずに、
ただ曖昧に笑っている。
放課後、ウォルフはアルフォード家の車でユウラをエルドレッド家まで送り届け、
エルドレッド家に上がり込んだ。
「宿題と時間割、俺が見ててやるから、今やってみ」
ウォルフがそう言うと、ユウラは難なく宿題と時間割をその場でやって見せた。
「ちゃんとできたじゃねぇか。偉いぞ」
そういってウォルフがユウラの頭を撫でてやると、ユウラは嬉しそうに笑った。
そのとき、メイドが悲痛な声を上げた。
「おやめください、アミラ様! それはユウラお嬢様の大切な髪飾りでございます。
亡き母上様の大切な形見なんです」
その声にユウラが廊下に飛び出した。
「おだまり! メイドごときがこの私に口答えする気かっ!」
手と口が同時にでたらしく、渇いた音がメイドの頬で鳴って、
メイドはよろけて床に膝をついた。
「メアリーっ!」
ユウラがメイドに駆け寄る。
「ユウラ、お前のお母さんの形見を借りるよ」
そういってアミラと呼ばれる婦人は、ひどく冷たい視線をユウラに向けた。
アミラが廊下の角を曲がって見えなくなると、
ユウラは耐え切れずメアリーを抱きしめて泣き崩れた。
「申し訳ございません、ユウラお嬢様。大切な母上様の髪飾りを……」
メアリーが感極まったように、ユウラを抱きしめて咽び泣く。
「髪飾りなど……。それよりもメアリー、あなたは大丈夫なの?
ひどく痛むのではなくて? 唇が切れていてよ?」
ユウラが心配そうにメアリーの顔を覗き込む。
「大丈夫ですよ、ユウラお嬢様。
こんな傷、何でもありません」
そう言ってメアリーは、ユウラを励ますために気丈に振舞って見せる。
「ごめんなさい、メアリー……。ごめんなさい。
私にもう少し力があったなら……。
私があなたたちを守ってあげなくてはならない立場なのに」
そう言ってその場に泣き崩れたユウラを、ウォルフが立たせた。
「ユウラ、今すぐ荷物をまとめろ。
俺の家に行くぞ!」
ユウラがキョトンとした顔をする。
「心配しなくていい。俺たちは婚約者として正式に国王陛下より認められた者だ。
ゆえに以後は俺がお前の後見となる。メアリーとやらお前も一緒に来い!
ユウラの乳母はどこにいる? 連れて来い。ハルマ様には後ほど俺から話す」
ウォルフの言葉に、メアリーの顔が輝いた。
「はい、かしこまりました」
メアリーはスカートの端を少し持ち上げて、ウォルフに会釈して走っていった。
「こうけん?」
ユウラが目を瞬かせながら、ウォルフに尋ねた。
ウォルフは優しくユウラを見つめる。
「ユウラ、いいか? 後見っていうのはな、
これからは俺がお前の家族になるってこと。
そうだな……。俺がお前のお母さまになってやろう」
ウォルフは母親を失った少女の心に寄り添いたい一心で、そう言ってしまった。
「ウォルフがお母さまなの? なんだかヘンテコだわ」
そういってユウラはぷっと噴出した。
「お母さまは変か? そうか……。だったらお兄様はどうだ?」
ウォルフがそういうと、ユウラが満面の笑みを浮かべた。
「ウォルフお兄様……素敵ね」
そういったユウラの頭をウォルフは愛おしそうに撫でた。
「本当は婚約者っていうんだ。
まあ、今はまだわからなくてもいいか……」
そう呟いたウォルフの顔を、ユウラが不思議そうに見つめている。
そんなユウラの視線に、ウォルフが苦笑する。
そして少し考えてから、
「婚約者っていうのはな、大切な、大切な人ってことだ」
そう言ってウォルフがユウラを抱きしめた。
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