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21.後顧の憂い
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「リアン国、アーザス国の宣戦布告により、
間もなくこの国は開戦となるだろう。
後顧の憂いはなるべく絶っておきたくてな」
表情を改めるウォルフに、
ルークが意味ありげな視線をくれる。
「っていうか、一番の憂いが、
解決してないと思うんですけど?」
ルークの言葉に、
ウォルフが心底減り込む。
「確かにこれが一番の大問題だ。
本当にどうしたらいいと思う? ルーク」
軽く本気でウォルフに泣きが入る。
「それは……まあ、
土下座して詫びるしかない……っていうか、
そういう感じかな?」
ルークが気まずそうに、人差し指で頬を掻いた。
「ユウラが許してくれるのなら、
俺りゃあ土下座でも女装でもなんでもするぞ?」
勢いづくウォルフに、
ルークががっくりと肩を落とし、
「やめな、ウォルフ。
母上の墓石の前で……」
やるせない表情を見せる。
「母は必ず俺とユウラを祝福してくれるはずだ。
なんせ、俺の母だからな」
ウォルフはそう言って自信満々に、
ニカっと笑って見せた。
ルークは墓石に目礼する。
18年前、レッドロライン王家に、
待望の男女の双子の赤子が産まれた。
しかしその夜、
王妃シャルロットとオリビアと名付けられた女の赤子が、
何者かによって惨殺された。
世継ぎとなる男児は、ユウラの父、将軍ハルマ・エルドレッドの機転により、
逃がされて事なきを得たが、
標的は明らかに、世継ぎとなる男児であった。
そのことを悟ったレッドロライン王は、
世継ぎの男児を、殺された女児の赤子とすり替えて、
シャルロット王妃の実家であるアルフォード家に託した。
ゆえにウォルフは、ウォルフ・フォン・アルフォードと、
オリビア第一皇女という、二つの顔を持っている。
「とはいえ、本当にどうしたらいいと思う? ルーク」
ウォルフが頼りなげに、自身の腕を抱いた。
「婚約者が女装皇女とか……、絶対引くよな?」
虚ろな視線を宙に漂わせる。
「そうでもないんじゃない?
ユウラも結構好きそうだよ?
君の女装姿」
ルークが目を瞬かせる。
「俺の正体をユウラに明かしていいのか悪いのか」
ウォルフがため息を吐く。
ウォルフの苦悩は深い。
「で、お前はどうすんの? ルーク」
ウォルフが矛先をルークに向ける。
その問いに、ルークは口を噤む。
「ユウラは血縁上は、お前の妹なわけだろ?
このまま黙ってるつもりなのかよ?」
ルークが苦い表情をする。
「だからお前がユウラにロザリオを渡してやるのが、
一番いいんじゃないかなと俺は思うわけよ」
ウォルフがそう言って腕を組む。
「いや、まあ、うちも大概ややこしい事情がありまして……」
ルークが言葉を切る。
「僕ひとりで決めちゃっていい局面じゃないんだなぁ。
それこそ父上の考えもあるだろうし」
困ったように眉根を寄せる。
「あっ、でも軍事指導はさ、僕が引き受けるよ。
ユウラだけじゃなくって、
赤服みんなまとめて面倒見てあげてもいいよ?
ああ、腕が鳴るわー!」
そう言ってルークは喜々として、
腕をグルグルとまわして見せる。
「お……お前の軍事指導とか……、
ついてこれる奴いるの? っていうか、
生き残れる奴いるの?」
ウォルフが青い顔をして、ルークを窺う。
「僕の軍事指導についてこれなくて、
どうやって戦場で生き残るつもりなのさ?
おかしなことを言うね」
ルークが不思議そうに目を瞬かせた。
「でもね、僕はユウラにロザリオは渡さないつもりだよ」
口調を変えて、ルークは微笑んだ。
「じゃあ、一体誰がユウラにロザリオを渡すんだよ?
俺はお前以外の奴に、ユウラを任せるつもりはないぞ?」
ウォルフの眼差しに剣呑な光が満ちる。
「お前以外の誰かが、ユウラに近づいたら、
俺は迷わずそいつをぶちのめす」
ウォルフの瞳孔が開き、
禍々しい殺気を身に纏う。
「だから、ひとりだけいるんじゃない?
ユウラにロザリオを渡す適任者がさあ」
ルークはウォルフに意味深に笑いかける。
◇◇◇
「ユーウラ」
そう言って帰宅後、
ウォルフがユウラを背後から抱きしめる。
恐らく泣いていたのだろう、
目が赤くなっている。
「色々……ごめんな。
お前を傷つけているという自覚はあるんだ」
ウォルフがユウラの肩口に額をもたせ掛けた。
「今からでも、婚約指輪……買いに行かねぇ?」
ウォルフの問いに、ユウラが下を向く。
「どうして、そんなに急ぐの?」
ユウラの問いに、ウォルフが口を噤む。
暫くの沈黙の後で、
「間もなく、出征することになると思う」
ウォルフの言葉に、ユウラが身を固くし、震えた。
その頬に涙が伝う。
「ユウラ」
ウォルフがユウラの耳元に、囁く。
ユウラはウォルフから背を向けたまま、
必死に手の甲で涙を拭おうとするが、
どうにも涙が止まらない。
「ユウラ」
ウォルフはもう一度、ユウラの名を呼ぶ。
「ごめんなさい。見ないで。
泣いてはいけないと、分かっているのだけど、
ごめんなさい」
軍人を父に持つユウラは、
幼い頃から出征のときに泣くことを禁じられて育った。
涙は不吉であると、
ずっとそう言い気かされてきたのである。
「いいんだ。ユウラ。
それはお前が俺を思ってくれているという証拠だから」
ウォルフがユウラを抱きすくめた。
間もなくこの国は開戦となるだろう。
後顧の憂いはなるべく絶っておきたくてな」
表情を改めるウォルフに、
ルークが意味ありげな視線をくれる。
「っていうか、一番の憂いが、
解決してないと思うんですけど?」
ルークの言葉に、
ウォルフが心底減り込む。
「確かにこれが一番の大問題だ。
本当にどうしたらいいと思う? ルーク」
軽く本気でウォルフに泣きが入る。
「それは……まあ、
土下座して詫びるしかない……っていうか、
そういう感じかな?」
ルークが気まずそうに、人差し指で頬を掻いた。
「ユウラが許してくれるのなら、
俺りゃあ土下座でも女装でもなんでもするぞ?」
勢いづくウォルフに、
ルークががっくりと肩を落とし、
「やめな、ウォルフ。
母上の墓石の前で……」
やるせない表情を見せる。
「母は必ず俺とユウラを祝福してくれるはずだ。
なんせ、俺の母だからな」
ウォルフはそう言って自信満々に、
ニカっと笑って見せた。
ルークは墓石に目礼する。
18年前、レッドロライン王家に、
待望の男女の双子の赤子が産まれた。
しかしその夜、
王妃シャルロットとオリビアと名付けられた女の赤子が、
何者かによって惨殺された。
世継ぎとなる男児は、ユウラの父、将軍ハルマ・エルドレッドの機転により、
逃がされて事なきを得たが、
標的は明らかに、世継ぎとなる男児であった。
そのことを悟ったレッドロライン王は、
世継ぎの男児を、殺された女児の赤子とすり替えて、
シャルロット王妃の実家であるアルフォード家に託した。
ゆえにウォルフは、ウォルフ・フォン・アルフォードと、
オリビア第一皇女という、二つの顔を持っている。
「とはいえ、本当にどうしたらいいと思う? ルーク」
ウォルフが頼りなげに、自身の腕を抱いた。
「婚約者が女装皇女とか……、絶対引くよな?」
虚ろな視線を宙に漂わせる。
「そうでもないんじゃない?
ユウラも結構好きそうだよ?
君の女装姿」
ルークが目を瞬かせる。
「俺の正体をユウラに明かしていいのか悪いのか」
ウォルフがため息を吐く。
ウォルフの苦悩は深い。
「で、お前はどうすんの? ルーク」
ウォルフが矛先をルークに向ける。
その問いに、ルークは口を噤む。
「ユウラは血縁上は、お前の妹なわけだろ?
このまま黙ってるつもりなのかよ?」
ルークが苦い表情をする。
「だからお前がユウラにロザリオを渡してやるのが、
一番いいんじゃないかなと俺は思うわけよ」
ウォルフがそう言って腕を組む。
「いや、まあ、うちも大概ややこしい事情がありまして……」
ルークが言葉を切る。
「僕ひとりで決めちゃっていい局面じゃないんだなぁ。
それこそ父上の考えもあるだろうし」
困ったように眉根を寄せる。
「あっ、でも軍事指導はさ、僕が引き受けるよ。
ユウラだけじゃなくって、
赤服みんなまとめて面倒見てあげてもいいよ?
ああ、腕が鳴るわー!」
そう言ってルークは喜々として、
腕をグルグルとまわして見せる。
「お……お前の軍事指導とか……、
ついてこれる奴いるの? っていうか、
生き残れる奴いるの?」
ウォルフが青い顔をして、ルークを窺う。
「僕の軍事指導についてこれなくて、
どうやって戦場で生き残るつもりなのさ?
おかしなことを言うね」
ルークが不思議そうに目を瞬かせた。
「でもね、僕はユウラにロザリオは渡さないつもりだよ」
口調を変えて、ルークは微笑んだ。
「じゃあ、一体誰がユウラにロザリオを渡すんだよ?
俺はお前以外の奴に、ユウラを任せるつもりはないぞ?」
ウォルフの眼差しに剣呑な光が満ちる。
「お前以外の誰かが、ユウラに近づいたら、
俺は迷わずそいつをぶちのめす」
ウォルフの瞳孔が開き、
禍々しい殺気を身に纏う。
「だから、ひとりだけいるんじゃない?
ユウラにロザリオを渡す適任者がさあ」
ルークはウォルフに意味深に笑いかける。
◇◇◇
「ユーウラ」
そう言って帰宅後、
ウォルフがユウラを背後から抱きしめる。
恐らく泣いていたのだろう、
目が赤くなっている。
「色々……ごめんな。
お前を傷つけているという自覚はあるんだ」
ウォルフがユウラの肩口に額をもたせ掛けた。
「今からでも、婚約指輪……買いに行かねぇ?」
ウォルフの問いに、ユウラが下を向く。
「どうして、そんなに急ぐの?」
ユウラの問いに、ウォルフが口を噤む。
暫くの沈黙の後で、
「間もなく、出征することになると思う」
ウォルフの言葉に、ユウラが身を固くし、震えた。
その頬に涙が伝う。
「ユウラ」
ウォルフがユウラの耳元に、囁く。
ユウラはウォルフから背を向けたまま、
必死に手の甲で涙を拭おうとするが、
どうにも涙が止まらない。
「ユウラ」
ウォルフはもう一度、ユウラの名を呼ぶ。
「ごめんなさい。見ないで。
泣いてはいけないと、分かっているのだけど、
ごめんなさい」
軍人を父に持つユウラは、
幼い頃から出征のときに泣くことを禁じられて育った。
涙は不吉であると、
ずっとそう言い気かされてきたのである。
「いいんだ。ユウラ。
それはお前が俺を思ってくれているという証拠だから」
ウォルフがユウラを抱きすくめた。
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