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55.目覚めの口づけ
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その剣の軌道に、ウォルフは鳥肌が立った。
(これは……っ!)
そして同時にこの身体に馴染むものがある。
(いや……あり得ねぇ)
その脳裏に、プラチナブロンドに濃紫の瞳の乙女が過るが、
ウォルフは首を横に振って、自らの思考を打ち消す。
(そんなわけはねぇけども、
コイツが相当の手練れであるということは事実だ)
ウォルフはシェバリエの頭部に仕込まれたバルカン砲で、
相手を威嚇し距離を取り、ビームサーベルを構える。
「来るか?」
まほろばに乗る仮面の女騎士も、
ウォルフの乗るラルクアンシェルに身構える。
そこに一機のシェバリエが割り込んできた。
「その辺にしておけ、セレーネ!
カルシアの乗る船はとっくに戦線を離脱した。
これ以上の戦闘は報酬に含まれてねぇし」
特別仕様でもなければ、特殊装甲があるわけでもない、
アーザス国のごく一般の兵卒が乗りこなすシェバリエからの通信が入った。
「って、ゼノア、この状況でどう引けというのだ?」
通信モニター越しに、セレーネが苦々しく言葉を発する。
「オリビア様ーーーー!
お逃げくださいませぇーーーー!!!」
刹那、オレンジ色にカラーリングされたシェバリエ部隊が、
ウォルフの機体のまわりを取り囲んだので、
その混乱に乗じて、セレーネは戦線を離脱した。
「あれは……?」
通信機越しに、思わず呟いたセレーネに、
「ありゃあ、ミレニス公国のシェバリエだ。
中立の小国と侮るなかれ、下手に手出ししようものなら、
手痛い目にあうぜ?」
くわばらくわばらと、唱えながらゼノアも戦線を離脱する。
ゼノアの予感は的中し、
その後、この少数精鋭のミレニス公国のシェバリエ部隊によって、
アーザス・リアンの連合軍は壊滅的な状態に追い込まれた。
それに加えて、戦艦『Black Princess』の有事に、
レッドロラインの軍事要塞『Shem』から
ハルマ・エルドレッドの部隊が駆け付けたので、
アーザス・リアンの連合は戦線の離脱を余儀なくされた。
戦艦『雷神』に収容されたウォルフは、シェバリエから降り立つと、
ハルマ・エルドレッドに抱き留められるようにして意識を失った。
◇◇◇
「うん……なんか寝苦しい……」
夜中にウォルフがぱっちりと目を覚ました。
「ここは……?」
どうやらここは戦艦内の個室らしい。
(なんで……戦艦?)
そう思いめぐらしたところで、記憶が繋がった。
(そうだ、俺、戦場で危うく死にかけたんだっけ?)
味方の裏切りから、25000対1のムリゲーを強いられて、
愛機のシェバリエを起動させたは良かったものの、
さすがにオートロックシステムやら、分離式レーザー放射器やらを、
多用したせいで、身体に負荷がかかったらしい。
(つうか、なんで身体が動かねぇ?)
怪我をした記憶はない。
「これが金縛りという奴なのか?」
まるで身体に何かが乗っているかのようだ。
「本物じゃん……」
ウォルフの背中を冷たい汗が伝う。
何かが自分の身体に突っ伏している。
「突っ伏して? え?」
ウォルフが高速で目を瞬かせる。
「嫌だ……うぇっ……ひっく……
ウォルフ……死んじゃヤダ……」
その物体が泣きじゃくりながら、
ひしと自分のシーツを掴んで離さない。
「ユ……ユウラ?」
ユウラが泣き疲れて、
自分の上に突っ伏して眠っている。
「あいつか……」
ウォルフの脳裏にルークが過った。
恐らく戦局を読み切ったルークが、
こうなることを予想して、ハルマの援軍と共に
ユウラをこちらに寄越したのだ。
「ったく、俺の許可もなくユウラを勝手に戦場に連れて来るな!
何かあったらどうしてくれるんだ」
そう言って眉を顰めて、ため息を吐くが、
ユウラの身体を自身のベッドに寝かせて抱きしめる。
「心配かけて悪かったな。
俺りゃあ、ちゃんと生きてるから、大丈夫だぞ?」
そう言って聞かせて、ユウラの髪を優しく撫でてやるが、
ユウラは泣き止まない。
泣きながら眠っている。
「泣くな……。泣くなってば、ユウラ」
ウォルフは困ったようにそう言って、
ユウラの眦に口づけて、涙を拭ってやる。
幼い頃からユウラが泣く度に、
こうやってユウラを抱きしめて眠ったものだ。
世界で一番愛おしい存在が、
この胸の中にある。
こみ上げてくる甘やかな疼きと共に、
ユウラを抱くウォルフの手が微かに震えている。
(震えるほどに……愛おしい存在……か。
バカだな俺も……)
そんなことを思ってウォルフは自嘲する。
そんな存在を守るために戦いに出て、
また泣かせてしまう。
(大切過ぎて、ユウラを傍に置けない……とかさ……)
そんな呟きを呑み込んで、ウォルフはため息を吐く。
◇◇◇
「ウォルフ嫌だ……死んじゃ嫌だ……」
ユウラがそう呟いて目覚めると、
温かな腕が伸びてきて、その胸に抱きすくめられる。
「俺りゃあ、生きてるぞ! ユウラ」
まだ眠さの滲む、気怠い声色だ。
「んな可愛いことを言って、
お前は俺を萌え殺す気ですか?
コノヤロー」
そう言ってウォルフが闇色の双眸をぱっちりと開いて、
ユウラを見つめる。
ユウラの頬が朱に染まって、頭からシーツを被る。
「なに? なんで隠れるの?」
ウォルフが不服そうに口を尖らせて、
自身もシーツに潜り、ユウラに深く口付けた。
(これは……っ!)
そして同時にこの身体に馴染むものがある。
(いや……あり得ねぇ)
その脳裏に、プラチナブロンドに濃紫の瞳の乙女が過るが、
ウォルフは首を横に振って、自らの思考を打ち消す。
(そんなわけはねぇけども、
コイツが相当の手練れであるということは事実だ)
ウォルフはシェバリエの頭部に仕込まれたバルカン砲で、
相手を威嚇し距離を取り、ビームサーベルを構える。
「来るか?」
まほろばに乗る仮面の女騎士も、
ウォルフの乗るラルクアンシェルに身構える。
そこに一機のシェバリエが割り込んできた。
「その辺にしておけ、セレーネ!
カルシアの乗る船はとっくに戦線を離脱した。
これ以上の戦闘は報酬に含まれてねぇし」
特別仕様でもなければ、特殊装甲があるわけでもない、
アーザス国のごく一般の兵卒が乗りこなすシェバリエからの通信が入った。
「って、ゼノア、この状況でどう引けというのだ?」
通信モニター越しに、セレーネが苦々しく言葉を発する。
「オリビア様ーーーー!
お逃げくださいませぇーーーー!!!」
刹那、オレンジ色にカラーリングされたシェバリエ部隊が、
ウォルフの機体のまわりを取り囲んだので、
その混乱に乗じて、セレーネは戦線を離脱した。
「あれは……?」
通信機越しに、思わず呟いたセレーネに、
「ありゃあ、ミレニス公国のシェバリエだ。
中立の小国と侮るなかれ、下手に手出ししようものなら、
手痛い目にあうぜ?」
くわばらくわばらと、唱えながらゼノアも戦線を離脱する。
ゼノアの予感は的中し、
その後、この少数精鋭のミレニス公国のシェバリエ部隊によって、
アーザス・リアンの連合軍は壊滅的な状態に追い込まれた。
それに加えて、戦艦『Black Princess』の有事に、
レッドロラインの軍事要塞『Shem』から
ハルマ・エルドレッドの部隊が駆け付けたので、
アーザス・リアンの連合は戦線の離脱を余儀なくされた。
戦艦『雷神』に収容されたウォルフは、シェバリエから降り立つと、
ハルマ・エルドレッドに抱き留められるようにして意識を失った。
◇◇◇
「うん……なんか寝苦しい……」
夜中にウォルフがぱっちりと目を覚ました。
「ここは……?」
どうやらここは戦艦内の個室らしい。
(なんで……戦艦?)
そう思いめぐらしたところで、記憶が繋がった。
(そうだ、俺、戦場で危うく死にかけたんだっけ?)
味方の裏切りから、25000対1のムリゲーを強いられて、
愛機のシェバリエを起動させたは良かったものの、
さすがにオートロックシステムやら、分離式レーザー放射器やらを、
多用したせいで、身体に負荷がかかったらしい。
(つうか、なんで身体が動かねぇ?)
怪我をした記憶はない。
「これが金縛りという奴なのか?」
まるで身体に何かが乗っているかのようだ。
「本物じゃん……」
ウォルフの背中を冷たい汗が伝う。
何かが自分の身体に突っ伏している。
「突っ伏して? え?」
ウォルフが高速で目を瞬かせる。
「嫌だ……うぇっ……ひっく……
ウォルフ……死んじゃヤダ……」
その物体が泣きじゃくりながら、
ひしと自分のシーツを掴んで離さない。
「ユ……ユウラ?」
ユウラが泣き疲れて、
自分の上に突っ伏して眠っている。
「あいつか……」
ウォルフの脳裏にルークが過った。
恐らく戦局を読み切ったルークが、
こうなることを予想して、ハルマの援軍と共に
ユウラをこちらに寄越したのだ。
「ったく、俺の許可もなくユウラを勝手に戦場に連れて来るな!
何かあったらどうしてくれるんだ」
そう言って眉を顰めて、ため息を吐くが、
ユウラの身体を自身のベッドに寝かせて抱きしめる。
「心配かけて悪かったな。
俺りゃあ、ちゃんと生きてるから、大丈夫だぞ?」
そう言って聞かせて、ユウラの髪を優しく撫でてやるが、
ユウラは泣き止まない。
泣きながら眠っている。
「泣くな……。泣くなってば、ユウラ」
ウォルフは困ったようにそう言って、
ユウラの眦に口づけて、涙を拭ってやる。
幼い頃からユウラが泣く度に、
こうやってユウラを抱きしめて眠ったものだ。
世界で一番愛おしい存在が、
この胸の中にある。
こみ上げてくる甘やかな疼きと共に、
ユウラを抱くウォルフの手が微かに震えている。
(震えるほどに……愛おしい存在……か。
バカだな俺も……)
そんなことを思ってウォルフは自嘲する。
そんな存在を守るために戦いに出て、
また泣かせてしまう。
(大切過ぎて、ユウラを傍に置けない……とかさ……)
そんな呟きを呑み込んで、ウォルフはため息を吐く。
◇◇◇
「ウォルフ嫌だ……死んじゃ嫌だ……」
ユウラがそう呟いて目覚めると、
温かな腕が伸びてきて、その胸に抱きすくめられる。
「俺りゃあ、生きてるぞ! ユウラ」
まだ眠さの滲む、気怠い声色だ。
「んな可愛いことを言って、
お前は俺を萌え殺す気ですか?
コノヤロー」
そう言ってウォルフが闇色の双眸をぱっちりと開いて、
ユウラを見つめる。
ユウラの頬が朱に染まって、頭からシーツを被る。
「なに? なんで隠れるの?」
ウォルフが不服そうに口を尖らせて、
自身もシーツに潜り、ユウラに深く口付けた。
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