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62.アルビレオ
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刹那、轟音が鳴り響き、
シェバリエの格納庫の天井にミサイルの雨が撃ち込まれ、
一瞬のうちにその場は炎に包まれてしまう。
シェバリエ『エクレシア』のコクピットの中で、
ユウラ・エルドレッドが、
その光景を食い入るように見つめた。
兄の血の色は、その視界の中で
紅蓮の炎へと姿を変えた。
その激しさは、ユウラの怒りにも似ている。
「許さ……な……い」
ユウラの唇が渇いた言葉を紡ぐ。
ユウラは『エクレシア』の起動画面に自身の掌を翳す。
『システムエラー』と、
赤字で表示される。
当然であろう。
シェバリエ『エクレシア』はルークの機体だ。
その生態認証もルークにしか反応しない。
「決して許しは……しない……」
しかしユウラは、なおもその掌を機体の起動画面に翳す。
するとコクピットの計器が不自然な動きを示し、
OSが書き換わっていく。
ユウラの意識が機体に取り込まれると、
『平和の鳩よ、このレッドロラインに
恒久の平和をもたらさんことを……』
そんな祈りのメッセージが、ユウラの脳裏に響く。
紅蓮の炎を身に纏い、一体のシェバリエが目覚める。
しかしその装甲はさきほどのシェバリエ『エクレシア』のものから、
どんどん変形を繰り返していく。
関節部分が、メタリックブルーから、鮮やかな黄色へと色を変えて、
輝きを増していくと、頭部に十字架を模したアンテナが姿を現す。
◇◇◇
爆音と共に炎に包まれた格納庫に、
エルライドが駆け込んだ。
「ルーク隊長!」
エルライドが、声の限り絶叫すると、
「ここだよ……、エルライド……」
破壊されたシェバリエの隅に蹲るルークが、
エルライドにひらひらと手を振った。
「ちょっ! あんた、
何やってるんですか、
結構な深手ですよ?」
ルークの血に染まったパイロットスーツを見て、
エルライドが顔色を変える。
「急所は外してるから、問題はないよ」
ルークが悪びれもせずに、肩をそびやかした。
「まあ、これぐらいやんないと……。
何せあの子はウォルフに甘やかされて育ったからなあ」
そんな呟きに、
エルライドがピクリと眉を寄せる。
「って、ルーク隊長……
あんたまさかっ! わざと???
それよりもまず、手当を……」
エルライドがルークを軽々と持ち上げる。
それはちょうどお姫様抱っこの体制である。
「わっ! ちょっ! 降ろせってば、エルライド!
自分で歩ける!」
ルークがその腕の中で抗議の声を上げるが、
エルライドはそれを許さない。
「医務室に運びますので、
少しだけじっとしていて下さいね」
そう言って、
エルライドは、にっこりとルークに笑いかけた。
紅蓮の炎の中で、一体のシェバリエが目覚める。
ルーク・レイランドの愛機、シェバリエ『エクレシア』だ。
「『エクレシア』が……変形していく?」
エルライドが、驚きに目を見開いた。
「美しい機体だろ?
あれはレイランド家に伝わる伝説のシェバリエなんだ」
ルークが眩し気に、シェバリエを見上げた。
「僕が乗る前は、母の愛機だったらしいよ?」
ルークの眼差しの中に、悲しみが過る。
◇◇◇
思い出話と共に、昔、母親が自分と、
生まれたばかりのユウラを抱いて、
シェバリエ『エクレシア』のコクピットに
乗せてくれたことがあった。
「どうして? どうして僕には乗れないの?」
搭乗する者を選ぶ機体だと聞いていたので、
母の血を濃く引く自分なら、きっと乗りこなせると、
信じて疑っていなかった。
しかし、実際にいくら自分がその起動画面に触れても、
何も起こらなかった。
「僕は……選ばれなかったの?」
母は自分の問いには答えてくれなかった。
ただ曖昧に笑っている。
そしてふと、何気ない拍子に
ユウラがその起動画面に触れてしまった。
その瞬間にアラーム音がけたたましく鳴り響いて、
『アルビレオ』のシステムが起動し始めたのだ。
「いい? ルーク。
あなたが選ばれなかったわけではないわ。
この機体『アルビレオ』は双星なの。
それはルークだけでもダメで、ユウラだけでもダメなの。
二人が一つの心になったときに、初めてその真価を発揮するのよ」
そう言って母が自分に言って聞かせた。
◇◇◇
「僕が搭乗していたシェバリエ『エクレシア』は、
第一形態に過ぎない。
その真価は今ユウラが乗る、
第二形態シェバリエ『アルビレオ』の中にこそある」
ユウラの搭乗する機体が、
その背からビームサーベルを引き抜いて、
目の前に立ちはだかるシェバリエを、
目にもとまらぬ速さで次々と屠っていく。
「『アルビレオ』とは……
白鳥座の双星のことですか?」
エルライドの問に、ルークが頷いた。
「そうだ、青宝玉と、黄色玉の
双星だ。そして白鳥は十字架を背負う者にしか、
駆ることができない。
平和の鳩として、神が選んだのは僕ではなくてユウラだったんだ」
ルークが寂し気に呟いた。
「それは違いますね。
ルーク隊長がアルビレオの真価を正確にご存じでないだけです。
いいですか? アルビレオは双星なんです。
レイランド家に伝わったこの機体が、
たまたま黄色玉タイプの機体だっただけです。
そしてアルビレオの機体はもう一体存在する。
あなたが騎乗する青宝玉タイプがね」
そう言ってエルライドが、目を細めてルークに笑いかける。
「エルライド、教えてくれ!
君は……なぜ、アルビレオのことを知っているの?
君は……誰?」
ルークがエルライドに真剣な眼差しを向けた。
「俺ですか? 俺はエルライド・アンダーソン……。
ヒノボリの一族の生き残りです」
シェバリエの格納庫の天井にミサイルの雨が撃ち込まれ、
一瞬のうちにその場は炎に包まれてしまう。
シェバリエ『エクレシア』のコクピットの中で、
ユウラ・エルドレッドが、
その光景を食い入るように見つめた。
兄の血の色は、その視界の中で
紅蓮の炎へと姿を変えた。
その激しさは、ユウラの怒りにも似ている。
「許さ……な……い」
ユウラの唇が渇いた言葉を紡ぐ。
ユウラは『エクレシア』の起動画面に自身の掌を翳す。
『システムエラー』と、
赤字で表示される。
当然であろう。
シェバリエ『エクレシア』はルークの機体だ。
その生態認証もルークにしか反応しない。
「決して許しは……しない……」
しかしユウラは、なおもその掌を機体の起動画面に翳す。
するとコクピットの計器が不自然な動きを示し、
OSが書き換わっていく。
ユウラの意識が機体に取り込まれると、
『平和の鳩よ、このレッドロラインに
恒久の平和をもたらさんことを……』
そんな祈りのメッセージが、ユウラの脳裏に響く。
紅蓮の炎を身に纏い、一体のシェバリエが目覚める。
しかしその装甲はさきほどのシェバリエ『エクレシア』のものから、
どんどん変形を繰り返していく。
関節部分が、メタリックブルーから、鮮やかな黄色へと色を変えて、
輝きを増していくと、頭部に十字架を模したアンテナが姿を現す。
◇◇◇
爆音と共に炎に包まれた格納庫に、
エルライドが駆け込んだ。
「ルーク隊長!」
エルライドが、声の限り絶叫すると、
「ここだよ……、エルライド……」
破壊されたシェバリエの隅に蹲るルークが、
エルライドにひらひらと手を振った。
「ちょっ! あんた、
何やってるんですか、
結構な深手ですよ?」
ルークの血に染まったパイロットスーツを見て、
エルライドが顔色を変える。
「急所は外してるから、問題はないよ」
ルークが悪びれもせずに、肩をそびやかした。
「まあ、これぐらいやんないと……。
何せあの子はウォルフに甘やかされて育ったからなあ」
そんな呟きに、
エルライドがピクリと眉を寄せる。
「って、ルーク隊長……
あんたまさかっ! わざと???
それよりもまず、手当を……」
エルライドがルークを軽々と持ち上げる。
それはちょうどお姫様抱っこの体制である。
「わっ! ちょっ! 降ろせってば、エルライド!
自分で歩ける!」
ルークがその腕の中で抗議の声を上げるが、
エルライドはそれを許さない。
「医務室に運びますので、
少しだけじっとしていて下さいね」
そう言って、
エルライドは、にっこりとルークに笑いかけた。
紅蓮の炎の中で、一体のシェバリエが目覚める。
ルーク・レイランドの愛機、シェバリエ『エクレシア』だ。
「『エクレシア』が……変形していく?」
エルライドが、驚きに目を見開いた。
「美しい機体だろ?
あれはレイランド家に伝わる伝説のシェバリエなんだ」
ルークが眩し気に、シェバリエを見上げた。
「僕が乗る前は、母の愛機だったらしいよ?」
ルークの眼差しの中に、悲しみが過る。
◇◇◇
思い出話と共に、昔、母親が自分と、
生まれたばかりのユウラを抱いて、
シェバリエ『エクレシア』のコクピットに
乗せてくれたことがあった。
「どうして? どうして僕には乗れないの?」
搭乗する者を選ぶ機体だと聞いていたので、
母の血を濃く引く自分なら、きっと乗りこなせると、
信じて疑っていなかった。
しかし、実際にいくら自分がその起動画面に触れても、
何も起こらなかった。
「僕は……選ばれなかったの?」
母は自分の問いには答えてくれなかった。
ただ曖昧に笑っている。
そしてふと、何気ない拍子に
ユウラがその起動画面に触れてしまった。
その瞬間にアラーム音がけたたましく鳴り響いて、
『アルビレオ』のシステムが起動し始めたのだ。
「いい? ルーク。
あなたが選ばれなかったわけではないわ。
この機体『アルビレオ』は双星なの。
それはルークだけでもダメで、ユウラだけでもダメなの。
二人が一つの心になったときに、初めてその真価を発揮するのよ」
そう言って母が自分に言って聞かせた。
◇◇◇
「僕が搭乗していたシェバリエ『エクレシア』は、
第一形態に過ぎない。
その真価は今ユウラが乗る、
第二形態シェバリエ『アルビレオ』の中にこそある」
ユウラの搭乗する機体が、
その背からビームサーベルを引き抜いて、
目の前に立ちはだかるシェバリエを、
目にもとまらぬ速さで次々と屠っていく。
「『アルビレオ』とは……
白鳥座の双星のことですか?」
エルライドの問に、ルークが頷いた。
「そうだ、青宝玉と、黄色玉の
双星だ。そして白鳥は十字架を背負う者にしか、
駆ることができない。
平和の鳩として、神が選んだのは僕ではなくてユウラだったんだ」
ルークが寂し気に呟いた。
「それは違いますね。
ルーク隊長がアルビレオの真価を正確にご存じでないだけです。
いいですか? アルビレオは双星なんです。
レイランド家に伝わったこの機体が、
たまたま黄色玉タイプの機体だっただけです。
そしてアルビレオの機体はもう一体存在する。
あなたが騎乗する青宝玉タイプがね」
そう言ってエルライドが、目を細めてルークに笑いかける。
「エルライド、教えてくれ!
君は……なぜ、アルビレオのことを知っているの?
君は……誰?」
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