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80.シェバリエ『アンクルウォルター』
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「へぇー、さすがは赤服のトップガンだ」
ルークの部下、エルライド・アンダーソンは縦横無尽に動き回るシェバリエを、
その目で追いながら驚嘆した。
工場区にある試験場で、赤服の乙女たちがシェバリエに試乗している。
上階のガラスに張り付いて、エルライドは目を細めた。
安全第一のヘルメットを被り、
黒のジャンパーを羽織り、エルライドは
今日もデニムのカーゴパンツを少しずらしてはいている。
「エルライド、どうでもいいけど、お前パンツ見えてるぞ?」
ルークが顔を顰める。
「見せてるんスよ、っていうかそういうファッションなんスけど?」
お決まりのやり取りの後で、ルークがもう諦めたというように、
小さくため息を吐いた。
「いや、でもマジな話、彼女たち才能ありますよ。
アカデミーの卒業生たちを数多く見ましたが、
みんなのろくさ動かすのがやっとで、
初乗りでここまで乗りこなしているのは初めて見ました」
エルライドが腕を組んで唸った。
ルークは隣に立つエルライドに、
チラリと視線を送る。
アカデミーがテロ組織に襲撃を受けたとき、
シェバリエに乗り込もうとしたルークは、
カルシア第二王妃の雇ったサイファリアの殺し屋、
イザベラ・ウェラルドによって深手を負った。
そこにかけつけたユウラを、自身の愛機『エクレシア』に搭乗させたところを、
エルライドも目の当たりにした。
そこで聞いたエルライドの出自に、ルークは思いを馳せる。
『俺ですか? 俺はエルライド・アンダーソン。
ヒノボリの一族の生き残りです』
『ヒノボリの一族』とは、いわゆる隠語であり、
初代シェバリエを開発したとされる富豪の一族を指す。
もともとは優秀な技術者の一族で、
宇宙空間で作業ができるパワースーツを開発したのだが、
それが軍事転用されるのに、時間はかからなかった。
やがてこの一族が所有する特許の数々が、莫大な利益を生むようになると、
それに目を付けた王侯貴族の一部が、レッドロラインの民を扇動し、
この一族を激しく迫害した。
屋敷は焼かれ、不条理な殺戮が繰り返されるようになる。
そんな中ある者は地下に潜り、ある者は国外に亡命し、
なんとかその命を紡いだのだという。
「エルライド、お前はこの国を、
レッドロラインを、恨んではいないのか?」
エルライドが自身の出自を明かしたとき、
ルークは思わずエルライドにそう問うた。
「そりゃあ、恨みましたよ。
最初はね。
理不尽に色んなものを奪われて、
声なき声を上げて、泣き叫んでいました。
だけど、あなたと、ウォルフ様に出会って、
少しずつ、考えが変わってきたんですよ」
ルークがエルライドと出会ったのは、今からちょうど二年前となる。
ルークはセナ・ユリアスを失った直後で、
エルライドは大戦で、その身体に銃創を負って、
騎士としての生命線が絶たれた時だった。
絶望に自ら命を絶とうとしたエルライドをぶん殴り、
ひどく荒れていたエルライドを根気よく
ルークが厚生させて今に至る。
「あなたも、ウォルフ様も、大概色んなものを奪われてしまったのに、
全然何かを恨もうとしなかったじゃないですか。
一切まわりの所為とか、環境の所為にしないで、
勇敢に自分の運命に立ち向かい続けたじゃないですか。
そんな中で、あなたは俺の手を取った。
そしてどうしようもなかったこの俺の手を、
決して離しはしなかった」
ルークは灌漑深げに、エルライドの言葉を思い出した。
「俺もね、今は俺の出来ることを、
精一杯やらやきゃって思うです」
エルライドはもともと工学系の学校で学んでいたこともあり、
騎士としての生命線が絶たれた後は
一心に技術者としてのスキルを磨いてきたが、
ようやくその努力が実を結ぼうとしているのである。
自身もその開発に携わってきた『シェバリエ』という名の
全長20メートル、本体重量45トンの鉱物の塊が、
レッドロラインのトップガンたちの力量により、
今その力が最大限に引き出されている。
その光景にエルライドは身震いをした。
「やっと、ここまできたんスね」
そして感慨深げに呟く。
「ああ、そうだな」
ルークも頷いた。
この人型起動兵器の開発に至るまでには、
あまりにも多くの血が流されてきた。
2年前の大戦では、多くの同胞が命を散らした。
机を並べてアカデミーで学んだ仲間たちは、
誰も気さくで、自国のレッドロラインを強く想ういい奴ばかりだった。
誰もが軽く扱われていい命ではない。
エルライドにとってはその同胞の死が、
この機体の開発の動機となっている。
生き残るにはどうすればいいのか。
負けないためにはどうすればいいのか。
そんな単純な問いを突き詰めていけば、
結局シンプルかもしれないが『強くあること』に繋がる。
「装備をソードタイプに切り替えられるかな?
彼女たちは槍術よりも剣術を得意とするものでね」
ルークが満足そうに微笑んだ。
「もちろんです。ですが艦長、彼女たちにならすぐに
戦艦『White Wing』の主力シェバリエを任せられそうですね」
エルライドが弾んだ声を出した。
「ああ、そのつもりだ。
君が開発した最新シェバリエのRシリーズを彼女たちに託したい」
ルークが強い意志を込めて、エルライドを見つめると、
エルライドが何かに気づいたかのように、あっと声を上げた。
「でも、艦長の妹さんには、お母さんの形見のシェバリエが……」
エルライドの言葉に、ルークは小さく首を横に振った。
「今はまだ時ではないよ、エルライド。
あのときは感情の高ぶりによって、『アルビレオ』を動かすことができたけど、
今のあの子じゃ無理だ」
ルークの言葉に、エルライドが腕を組んで唸る。
「う~ん、今はまだ、あなたが乗る運命にあるシェバリエ『アルビレオ』の
青宝玉タイプも見つかっていないことですしね」
そう言ってチラリと寄越した、エルライドの視線に、
ルークが小さく肩を竦めた。
「わかりました。
ではこちらにどうぞ」
カードキーを翳すと、その扉が開いた。
ルークが歩みを進めるその先に、機体が姿を現す。
エルライドがライトのスイッチをいれると、
その機体にスポットライトが当てられる。
「こちらが最新鋭の機体、シェバリエ、Rシリーズです」
従来のシェバリエよりも、少しシャープな作りで、
関節に赤のカラーリングが施されている。
「美しい機体だな。崇高な志を持つ彼女たちに相応しい機体だ」
ルークが機体を見上げた。
「戦場に咲く気高き赤薔薇、アンクル・ウォルターの名を捧げよう」
刹那、工場区にけたたましいサイレンの音が鳴り響いた。
ルークの顔つきが変わる。
「何事だっ!」
ルークがきつい眼差しを、モニター越しの兵卒に送ると、
兵卒は敬礼した。
「申し上げますっ!
只今何者かが、コロニー内に侵入し、
居住区が攻撃を受けている模様です」
ルークの部下、エルライド・アンダーソンは縦横無尽に動き回るシェバリエを、
その目で追いながら驚嘆した。
工場区にある試験場で、赤服の乙女たちがシェバリエに試乗している。
上階のガラスに張り付いて、エルライドは目を細めた。
安全第一のヘルメットを被り、
黒のジャンパーを羽織り、エルライドは
今日もデニムのカーゴパンツを少しずらしてはいている。
「エルライド、どうでもいいけど、お前パンツ見えてるぞ?」
ルークが顔を顰める。
「見せてるんスよ、っていうかそういうファッションなんスけど?」
お決まりのやり取りの後で、ルークがもう諦めたというように、
小さくため息を吐いた。
「いや、でもマジな話、彼女たち才能ありますよ。
アカデミーの卒業生たちを数多く見ましたが、
みんなのろくさ動かすのがやっとで、
初乗りでここまで乗りこなしているのは初めて見ました」
エルライドが腕を組んで唸った。
ルークは隣に立つエルライドに、
チラリと視線を送る。
アカデミーがテロ組織に襲撃を受けたとき、
シェバリエに乗り込もうとしたルークは、
カルシア第二王妃の雇ったサイファリアの殺し屋、
イザベラ・ウェラルドによって深手を負った。
そこにかけつけたユウラを、自身の愛機『エクレシア』に搭乗させたところを、
エルライドも目の当たりにした。
そこで聞いたエルライドの出自に、ルークは思いを馳せる。
『俺ですか? 俺はエルライド・アンダーソン。
ヒノボリの一族の生き残りです』
『ヒノボリの一族』とは、いわゆる隠語であり、
初代シェバリエを開発したとされる富豪の一族を指す。
もともとは優秀な技術者の一族で、
宇宙空間で作業ができるパワースーツを開発したのだが、
それが軍事転用されるのに、時間はかからなかった。
やがてこの一族が所有する特許の数々が、莫大な利益を生むようになると、
それに目を付けた王侯貴族の一部が、レッドロラインの民を扇動し、
この一族を激しく迫害した。
屋敷は焼かれ、不条理な殺戮が繰り返されるようになる。
そんな中ある者は地下に潜り、ある者は国外に亡命し、
なんとかその命を紡いだのだという。
「エルライド、お前はこの国を、
レッドロラインを、恨んではいないのか?」
エルライドが自身の出自を明かしたとき、
ルークは思わずエルライドにそう問うた。
「そりゃあ、恨みましたよ。
最初はね。
理不尽に色んなものを奪われて、
声なき声を上げて、泣き叫んでいました。
だけど、あなたと、ウォルフ様に出会って、
少しずつ、考えが変わってきたんですよ」
ルークがエルライドと出会ったのは、今からちょうど二年前となる。
ルークはセナ・ユリアスを失った直後で、
エルライドは大戦で、その身体に銃創を負って、
騎士としての生命線が絶たれた時だった。
絶望に自ら命を絶とうとしたエルライドをぶん殴り、
ひどく荒れていたエルライドを根気よく
ルークが厚生させて今に至る。
「あなたも、ウォルフ様も、大概色んなものを奪われてしまったのに、
全然何かを恨もうとしなかったじゃないですか。
一切まわりの所為とか、環境の所為にしないで、
勇敢に自分の運命に立ち向かい続けたじゃないですか。
そんな中で、あなたは俺の手を取った。
そしてどうしようもなかったこの俺の手を、
決して離しはしなかった」
ルークは灌漑深げに、エルライドの言葉を思い出した。
「俺もね、今は俺の出来ることを、
精一杯やらやきゃって思うです」
エルライドはもともと工学系の学校で学んでいたこともあり、
騎士としての生命線が絶たれた後は
一心に技術者としてのスキルを磨いてきたが、
ようやくその努力が実を結ぼうとしているのである。
自身もその開発に携わってきた『シェバリエ』という名の
全長20メートル、本体重量45トンの鉱物の塊が、
レッドロラインのトップガンたちの力量により、
今その力が最大限に引き出されている。
その光景にエルライドは身震いをした。
「やっと、ここまできたんスね」
そして感慨深げに呟く。
「ああ、そうだな」
ルークも頷いた。
この人型起動兵器の開発に至るまでには、
あまりにも多くの血が流されてきた。
2年前の大戦では、多くの同胞が命を散らした。
机を並べてアカデミーで学んだ仲間たちは、
誰も気さくで、自国のレッドロラインを強く想ういい奴ばかりだった。
誰もが軽く扱われていい命ではない。
エルライドにとってはその同胞の死が、
この機体の開発の動機となっている。
生き残るにはどうすればいいのか。
負けないためにはどうすればいいのか。
そんな単純な問いを突き詰めていけば、
結局シンプルかもしれないが『強くあること』に繋がる。
「装備をソードタイプに切り替えられるかな?
彼女たちは槍術よりも剣術を得意とするものでね」
ルークが満足そうに微笑んだ。
「もちろんです。ですが艦長、彼女たちにならすぐに
戦艦『White Wing』の主力シェバリエを任せられそうですね」
エルライドが弾んだ声を出した。
「ああ、そのつもりだ。
君が開発した最新シェバリエのRシリーズを彼女たちに託したい」
ルークが強い意志を込めて、エルライドを見つめると、
エルライドが何かに気づいたかのように、あっと声を上げた。
「でも、艦長の妹さんには、お母さんの形見のシェバリエが……」
エルライドの言葉に、ルークは小さく首を横に振った。
「今はまだ時ではないよ、エルライド。
あのときは感情の高ぶりによって、『アルビレオ』を動かすことができたけど、
今のあの子じゃ無理だ」
ルークの言葉に、エルライドが腕を組んで唸る。
「う~ん、今はまだ、あなたが乗る運命にあるシェバリエ『アルビレオ』の
青宝玉タイプも見つかっていないことですしね」
そう言ってチラリと寄越した、エルライドの視線に、
ルークが小さく肩を竦めた。
「わかりました。
ではこちらにどうぞ」
カードキーを翳すと、その扉が開いた。
ルークが歩みを進めるその先に、機体が姿を現す。
エルライドがライトのスイッチをいれると、
その機体にスポットライトが当てられる。
「こちらが最新鋭の機体、シェバリエ、Rシリーズです」
従来のシェバリエよりも、少しシャープな作りで、
関節に赤のカラーリングが施されている。
「美しい機体だな。崇高な志を持つ彼女たちに相応しい機体だ」
ルークが機体を見上げた。
「戦場に咲く気高き赤薔薇、アンクル・ウォルターの名を捧げよう」
刹那、工場区にけたたましいサイレンの音が鳴り響いた。
ルークの顔つきが変わる。
「何事だっ!」
ルークがきつい眼差しを、モニター越しの兵卒に送ると、
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