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89.ウォルフの決心
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「どうやらエドガーの近衛隊が到着したようだな」
ウォルフは外の様子を伺いながら、そう言った。
少し前にテロリストたちが撤退したので、
この場所での戦闘行為にはならなさそうだ。
「エマはもう大丈夫だ」
ウォルフはそういって、ユウラの頭をポンポンと叩いた。
ユウラが複雑な顔をする。
「んな不細工な顔すんなよな」
ウォルフが少しむくれたユウラの頬をムニっと掴む。
「いひゃい、いひゃいっってば、ウォルフ」
頬を引っ張られたユウラが涙目になる。
そんなユウラを見つめるウォルフの眼差しに、
愛おしさが募る。
ユウラが先ほど自分のことを死んでも守るといってくれたことは、
正直嬉しかった。
しかしそれ以上にユウラに何かあることが、
ウォルフは怖くて仕方がない。
戦場でなくともコロニー内が安全かと問われれば、一概にそういうわけでもなく、
自分の置かれた立場が立場なだけに、自身の正体を周りに気づかれれば、
政敵にアルフォード家が襲撃されないとも限らない。
現にウォルフはすでに実母と姉を失っている。
しかもこの国で最も安全とされている王宮でだ。
「ごめんな、婚約者が女装皇女とか色々ややこしくって」
ウォルフがそういってしょんぼりと肩を落とす。
「戦争はちゃんと終わらせるし、
状況が落ち着いたら飛んでお前のそばに戻ってくるから、
もう少しだけ……待ってて」
欲しいんだと、言葉を続けようとしたウォルフの手を、
ユウラがしっかりと掴んだ。
「大丈夫です! 待つ必要なんてないわ。
私は女装のウォルフ込みで、
あなたのことが好きです。
だから専属騎士として私をあなたのそばに置いてください」
ユウラがキラキラとした瞳で、ウォルフに哀願する。
「確かにお前を国に置いといて安全という保障はない。
ならばもういっそうのこと、お前の言う通りお前を俺の専属騎士として
四六時中俺の監視下に置いとくか?
幸いにしてお前、女装プレーも好きそうだし」
そういってウォルフが額をユウラの額にくっつけると、ユウラが赤面した。
「べっ……別に、女装プレーは……」
ユウラが口ごもる。
「ちなみにお前が部下になったら、俺はお前にセクハラしまくるぞ?
公私混同なんてクソっくらえだ。
軍の規律も何のその、一日中お前に愛を囁き、エロいことしまくるぞ?
お前は果たしてそれに耐えられるか? お前も知っているだろう?
俺の愛情表現は濃いぞ? 軽く変態入っているぞ?」
ウォルフが黒い笑みを浮かべてユウラに詰め寄る。
「そ……それは……ちょっと……困る……かも」
ユウラがたじろぐ。
そんなユウラの様子に、ウォルフが微笑を浮かべた。
「だろ? だからもうちょっとだけ待ってて」
そういってウォルフがユウラを抱きしめた。
そしてその肩口に頭をもたせ掛ける。
「お前が……好きなんだ。
考えて、考えて、多分頭がバカになるくらい考えてる。
いい加減、自分でも呆れてるよ。
お前が大切過ぎてそばに置けないとか、
お前にそんな顔をさせて、ほんとバカだよな。
でもな、この戦いが終わったら、俺は直接国王陛下に会いに行って、
正式にお前と結婚しようと思ってる。
お前にはオリビアじゃなくて、
ウォルフ・フォン・アルフォードの妻になってほしいんだ」
それは小さな声だった。
小さくて、少し掠れて、震えた声。
実力に裏打ちされた強気で自信家のウォルフの、
それはひどく繊細な部分だった。
ユウラはそんなウォルフを、その胸に抱きしめ、
幼子をいつくしむかのように何度もその髪を撫でる。
「心はもうとっくに、
ウォルフ・フォン・アルフォードの妻なんだけどな」
そう言ってユウラが寂しげな眼差しをウォルフに向ける。
「信頼してくれないんだ?」
そう問うとウォルフが顔を上げた。
「違う! そうじゃない。
お前の思いを疑っているわけでもない。
お前が命を懸けて俺を守ると言ってくれたことは、
正直嬉しかった。
だが敵が身内にいる以上、
俺がオリビアとしてお前を傍に置いたら、どういうことになるのかは、
火を見るよりも明らかだろう?」
ウォルフの表情が苦痛に歪む。
「ウォルフのためだったら……いいよ。
たとえどんな目にあったって。
覚悟はできてる」
そういってユウラはウォルフに微笑んで見せた。
「ユウラの……バカっ!」
たまらずウォルフの声が振るえて、涙声になる。
「私は……ちゃんと知ってるんだ。
ウォルフが泣くときは、いつも私の事を想ってくれてる。
あなたが傷つくときは、大概私を守ろうとしてくれたときだって」
そう言ったユウラの頬にも涙が伝った。
ユウラは微笑みながら、その頬を濡らす。
それはウォルフがよく知る、ユウラの泣き顔だった。
ユウラは本当に悲しいとき、周りを気遣って笑おうとする。
ウォルフはそれがたまらない。
あまりにも悲しい涙だと、ウォルフは思う。
ウォルフの指先がぎこちなくユウラの頬に触れて、その涙を拭う。
ユウラの涙を見た瞬間、ウォルフの中に何かのスイッチが入った。
「あーあーそうだ。思い出したわ。
お前が泣く度に俺は、思ったさ、
金輪際お前を泣かせないように絶っっっっ対に強くなろうと。
つうか、俺何やってんの?
俺、お前に何言わせてんの?
どんだけ俺、甲斐性ないの?
そもそもババアがなんぼのもんだ?
お前が俺のそばにいたいというなら、俺はお前の望みを全力で叶えるだけだ。
よし、3日待っていろ! その体制を整える。
俺はお前を傍に置いて、その上で必ず守り切る。
約束しよう。
誰にも何も言わせない。
よし、なんか吹っ切れた。
行くぞ! ユウラ」
そう言ってウォルフがその場所にすっくと立ちあがり、ユウラを横抱きにした。
「え? ちょっとウォルフ?」
バランスを崩したユウラが、ウォルフの首に抱き着いた。
ウォルフは外の様子を伺いながら、そう言った。
少し前にテロリストたちが撤退したので、
この場所での戦闘行為にはならなさそうだ。
「エマはもう大丈夫だ」
ウォルフはそういって、ユウラの頭をポンポンと叩いた。
ユウラが複雑な顔をする。
「んな不細工な顔すんなよな」
ウォルフが少しむくれたユウラの頬をムニっと掴む。
「いひゃい、いひゃいっってば、ウォルフ」
頬を引っ張られたユウラが涙目になる。
そんなユウラを見つめるウォルフの眼差しに、
愛おしさが募る。
ユウラが先ほど自分のことを死んでも守るといってくれたことは、
正直嬉しかった。
しかしそれ以上にユウラに何かあることが、
ウォルフは怖くて仕方がない。
戦場でなくともコロニー内が安全かと問われれば、一概にそういうわけでもなく、
自分の置かれた立場が立場なだけに、自身の正体を周りに気づかれれば、
政敵にアルフォード家が襲撃されないとも限らない。
現にウォルフはすでに実母と姉を失っている。
しかもこの国で最も安全とされている王宮でだ。
「ごめんな、婚約者が女装皇女とか色々ややこしくって」
ウォルフがそういってしょんぼりと肩を落とす。
「戦争はちゃんと終わらせるし、
状況が落ち着いたら飛んでお前のそばに戻ってくるから、
もう少しだけ……待ってて」
欲しいんだと、言葉を続けようとしたウォルフの手を、
ユウラがしっかりと掴んだ。
「大丈夫です! 待つ必要なんてないわ。
私は女装のウォルフ込みで、
あなたのことが好きです。
だから専属騎士として私をあなたのそばに置いてください」
ユウラがキラキラとした瞳で、ウォルフに哀願する。
「確かにお前を国に置いといて安全という保障はない。
ならばもういっそうのこと、お前の言う通りお前を俺の専属騎士として
四六時中俺の監視下に置いとくか?
幸いにしてお前、女装プレーも好きそうだし」
そういってウォルフが額をユウラの額にくっつけると、ユウラが赤面した。
「べっ……別に、女装プレーは……」
ユウラが口ごもる。
「ちなみにお前が部下になったら、俺はお前にセクハラしまくるぞ?
公私混同なんてクソっくらえだ。
軍の規律も何のその、一日中お前に愛を囁き、エロいことしまくるぞ?
お前は果たしてそれに耐えられるか? お前も知っているだろう?
俺の愛情表現は濃いぞ? 軽く変態入っているぞ?」
ウォルフが黒い笑みを浮かべてユウラに詰め寄る。
「そ……それは……ちょっと……困る……かも」
ユウラがたじろぐ。
そんなユウラの様子に、ウォルフが微笑を浮かべた。
「だろ? だからもうちょっとだけ待ってて」
そういってウォルフがユウラを抱きしめた。
そしてその肩口に頭をもたせ掛ける。
「お前が……好きなんだ。
考えて、考えて、多分頭がバカになるくらい考えてる。
いい加減、自分でも呆れてるよ。
お前が大切過ぎてそばに置けないとか、
お前にそんな顔をさせて、ほんとバカだよな。
でもな、この戦いが終わったら、俺は直接国王陛下に会いに行って、
正式にお前と結婚しようと思ってる。
お前にはオリビアじゃなくて、
ウォルフ・フォン・アルフォードの妻になってほしいんだ」
それは小さな声だった。
小さくて、少し掠れて、震えた声。
実力に裏打ちされた強気で自信家のウォルフの、
それはひどく繊細な部分だった。
ユウラはそんなウォルフを、その胸に抱きしめ、
幼子をいつくしむかのように何度もその髪を撫でる。
「心はもうとっくに、
ウォルフ・フォン・アルフォードの妻なんだけどな」
そう言ってユウラが寂しげな眼差しをウォルフに向ける。
「信頼してくれないんだ?」
そう問うとウォルフが顔を上げた。
「違う! そうじゃない。
お前の思いを疑っているわけでもない。
お前が命を懸けて俺を守ると言ってくれたことは、
正直嬉しかった。
だが敵が身内にいる以上、
俺がオリビアとしてお前を傍に置いたら、どういうことになるのかは、
火を見るよりも明らかだろう?」
ウォルフの表情が苦痛に歪む。
「ウォルフのためだったら……いいよ。
たとえどんな目にあったって。
覚悟はできてる」
そういってユウラはウォルフに微笑んで見せた。
「ユウラの……バカっ!」
たまらずウォルフの声が振るえて、涙声になる。
「私は……ちゃんと知ってるんだ。
ウォルフが泣くときは、いつも私の事を想ってくれてる。
あなたが傷つくときは、大概私を守ろうとしてくれたときだって」
そう言ったユウラの頬にも涙が伝った。
ユウラは微笑みながら、その頬を濡らす。
それはウォルフがよく知る、ユウラの泣き顔だった。
ユウラは本当に悲しいとき、周りを気遣って笑おうとする。
ウォルフはそれがたまらない。
あまりにも悲しい涙だと、ウォルフは思う。
ウォルフの指先がぎこちなくユウラの頬に触れて、その涙を拭う。
ユウラの涙を見た瞬間、ウォルフの中に何かのスイッチが入った。
「あーあーそうだ。思い出したわ。
お前が泣く度に俺は、思ったさ、
金輪際お前を泣かせないように絶っっっっ対に強くなろうと。
つうか、俺何やってんの?
俺、お前に何言わせてんの?
どんだけ俺、甲斐性ないの?
そもそもババアがなんぼのもんだ?
お前が俺のそばにいたいというなら、俺はお前の望みを全力で叶えるだけだ。
よし、3日待っていろ! その体制を整える。
俺はお前を傍に置いて、その上で必ず守り切る。
約束しよう。
誰にも何も言わせない。
よし、なんか吹っ切れた。
行くぞ! ユウラ」
そう言ってウォルフがその場所にすっくと立ちあがり、ユウラを横抱きにした。
「え? ちょっとウォルフ?」
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