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101.死闘
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「泣いているのか?」
セレーネ・ウォーリアはユウラの頬を伝う涙をその指の腹で拭ってやる。
「死はやはり悲しいな」
そういってセレーネは下を向いた。
しばらくの沈黙の後で、セレーネはその懐から金の懐中時計を取り出した。
「だが、時間だ。我々は行かねばならん」
セレーネが優しくユウラの手を取ると、ユウラは従順にそれに従う。
まるで屠り場に引いて行かれる悲しい子羊のように、
無言のままにセレーネの後をついていく。
涙はもう、乾いてしまっている。
◇◇◇
「レーダーに強力な電波妨害を感知!」
そう告げるオペレーターの声に緊張が走ると、
ウォルフの表情がにわかに険しくなった。
「場所は?」
ルークが極めて冷静に問う。
「セイラン宙域、N24ポイント、デブリ帯の手前に戦艦二隻の艦影を確認!
識別コードは……」
オペレーターが言葉を切り、驚いたように息をのんだ。
「リアン国、主力艦『カイザー』と、
アーザス国、主力艦『イカロス』です!」
オペレーターの言葉に、さすがのルークも目を瞬かせた。
「うわっちゃー! マジで?」
映像を確認したルークの声色には、驚きと呆れが混在する。
「たかだか他国の謀反人の逃亡に二か国の主力艦を寄越すとか、
あり得ないんですけど?」
ルークが柳眉を顰めて、不快感を露わにする。
「内政干渉も甚だしいというか、どんだけ面の皮厚いの?」
ウォルフもその目を半眼にして、モニターを見つめる。
「悪い子にはお仕置き、だな」
頬杖をつきながらそういった、ウォルフの言葉を汲んで、
ルークが専用回線を開いて何事かの指示を飛ばした。
刹那、オペレーターが敵艦からの入電を告げた。
「ごきげんよう、ウォルフ・レッドロライン第一皇子」
正面の巨大モニターに敵将の顔の映像が映し出される。
アーザス・リアンの連合総司令官を務めるハワード・タイラーだ。
「これはこれは、タイラー閣下!
ご無沙汰しております」
ウォルフもそういって食えない笑みを浮かべる。
「よもや閣下自らが、若輩者の私などに、
このように手厚くもてなしをしてくださるとは思いもよりませんでしたよ」
笑みを絶やさないウォルフに、ハワードがわずかに眉根を寄せる。
「わっはっはっ! そうであろう、そうであろう。
今宵は宴ぞ! 無礼講と参ろうぞ!」
ハワードは無駄に大声で笑い、そしてBlack Princessに照準を合わせた、
戦艦『カイザー』の主砲をモニターに映し出した。
「作用でございますか。
それでは僭越ながらこの私も閣下にお礼の祝砲などを」
そういって、ウォルフはどこまでも優雅に微笑んだ。
モニターには、リアン国、アーザス国のコロニーを取り囲む
レッドロライン軍の軍艦と、シェバリエ部隊が展開している。
その数、およそ数万。
コロニーのみならず、国そのものを制圧できる兵力である。
敵将の顔色が一気に変わった。
「馬鹿なっ! これほどの兵力を一体どこに……」
ハワードの声が震えている。
「こういうことを想定して、
事前に回廊を開いておいて正解だよね」
そういてルーク・レイランドがにっこりと笑って見せる。
◇◇◇
「リアン国、アーザス国の部隊が引いていくな」
パイロットの待機室で、
モニターを見ていたセレーネ・ウォーリアは
寂しげに呟いた。
「悲しいが、お前ともここでさよならだ」
パイロットスーツを身に纏い、セレーネとユウラは
格納庫へと歩みを進める。
王族専用船『クレア』の格納庫に、シェバリエが二体鎮座している。
一体は濃紺に三日月のエンブレムを頂いた、解放戦線『暁の女神』の隊長機『まほろば』。
そしてもう一体はユウラの愛機、『アンクル・ウォルター』だ。
「ユウラ・エルドレッド。
お前が生き残る方法がただひとつだけある」
幼子に言って聞かせるように、セレーネがユウラに語りかける。
「それはお前がこのシェバリエで私を撃つことだ」
そう言いながら、セレーネがキーを操作すると、
シェバリエからロープが下りてくる。
ユウラもまた人形のような虚ろな眼差しのままに、愛機へと乗り込む。
「セレーネ・ウォーリア『まほろば』出るぞ!」
管制塔への通信の後で、セレーネが駆る『まほろば』が宇宙へと飛び立つと、
ユウラの乗る『アンクル・ウォルター』もそれに続く。
王族専用船『クレア』はすでに、
ウォルフの乗る戦艦Black Princessの射程距離に捕らえられ、
Black Princessの主砲が『クレア』を捉えている。
すでに勝負はあったのだと、この戦域にいる誰もがそう思った。
しかしその間を二体のシェバリエが遮る。
突如モニターに映し出された映像に、ウォルフが戦慄を覚える。
「あれは……アンクル・ウォルター……」
さらに映像が送られてくる。
操縦席に座わる赤髪の少女。
「ユ……ウラ……?」
震えながらそう呟くウォルフの唇がひどく乾いている。
セレーネの機体『まほろば』がユウラの機体『アンクル・ウォルター』に切りかかる。
「やめろ……」
ウォルフの震えが止まらない。
ユウラの機体の左腕が落とされる。
腕の付け根で切り落とされた部分がショートして、火花を散らしている。
「旗艦最大出力全速前進っ! リアン国へ突っ込めぇぇぇぇっ!」
王族専用船『クレア』の操縦室で、ハイネスが絶叫した。
『クレア』は目前と迫るリアン国へと舵を切るが、ウォルフは動けない。
そんなウォルフを尻目に、セレーネは今度はユウラの機体の右腕を切り落とした。
「やめろっ!」
モニターを見つめるウォルフが、現実を受け止めることができずに、
小さく横に首を振る。
「頼むっ! やめてくれっ!」
ウォルフの頬に涙が伝った。
しかしそんなウォルフの願いは届かない。
セレーネは無慈悲な死神のように、今度はユウラの機体の左足を奪った。
機体は推進力を保てずに、不格好にバランスを崩している。
「俺のっ……命をやる! だからっ! 頼むっ」
涙とともにウォルフが、悲痛な声色で呟いた。
崩れ落ちそうになるウォルフを、ルークが支えた。
死神の剣が、ユウラの機体の右足に振り下ろされる。
四肢を失ったユウラの機体が頼りなく宙域を漂うと、
そのコクピットに向けて、『まほろば』のビーム・ライフルが突き付けられた。
その直後にモニターの画面は砂嵐に切り替わり、
『Lost』という赤文字が表示されている。
セレーネ・ウォーリアはユウラの頬を伝う涙をその指の腹で拭ってやる。
「死はやはり悲しいな」
そういってセレーネは下を向いた。
しばらくの沈黙の後で、セレーネはその懐から金の懐中時計を取り出した。
「だが、時間だ。我々は行かねばならん」
セレーネが優しくユウラの手を取ると、ユウラは従順にそれに従う。
まるで屠り場に引いて行かれる悲しい子羊のように、
無言のままにセレーネの後をついていく。
涙はもう、乾いてしまっている。
◇◇◇
「レーダーに強力な電波妨害を感知!」
そう告げるオペレーターの声に緊張が走ると、
ウォルフの表情がにわかに険しくなった。
「場所は?」
ルークが極めて冷静に問う。
「セイラン宙域、N24ポイント、デブリ帯の手前に戦艦二隻の艦影を確認!
識別コードは……」
オペレーターが言葉を切り、驚いたように息をのんだ。
「リアン国、主力艦『カイザー』と、
アーザス国、主力艦『イカロス』です!」
オペレーターの言葉に、さすがのルークも目を瞬かせた。
「うわっちゃー! マジで?」
映像を確認したルークの声色には、驚きと呆れが混在する。
「たかだか他国の謀反人の逃亡に二か国の主力艦を寄越すとか、
あり得ないんですけど?」
ルークが柳眉を顰めて、不快感を露わにする。
「内政干渉も甚だしいというか、どんだけ面の皮厚いの?」
ウォルフもその目を半眼にして、モニターを見つめる。
「悪い子にはお仕置き、だな」
頬杖をつきながらそういった、ウォルフの言葉を汲んで、
ルークが専用回線を開いて何事かの指示を飛ばした。
刹那、オペレーターが敵艦からの入電を告げた。
「ごきげんよう、ウォルフ・レッドロライン第一皇子」
正面の巨大モニターに敵将の顔の映像が映し出される。
アーザス・リアンの連合総司令官を務めるハワード・タイラーだ。
「これはこれは、タイラー閣下!
ご無沙汰しております」
ウォルフもそういって食えない笑みを浮かべる。
「よもや閣下自らが、若輩者の私などに、
このように手厚くもてなしをしてくださるとは思いもよりませんでしたよ」
笑みを絶やさないウォルフに、ハワードがわずかに眉根を寄せる。
「わっはっはっ! そうであろう、そうであろう。
今宵は宴ぞ! 無礼講と参ろうぞ!」
ハワードは無駄に大声で笑い、そしてBlack Princessに照準を合わせた、
戦艦『カイザー』の主砲をモニターに映し出した。
「作用でございますか。
それでは僭越ながらこの私も閣下にお礼の祝砲などを」
そういって、ウォルフはどこまでも優雅に微笑んだ。
モニターには、リアン国、アーザス国のコロニーを取り囲む
レッドロライン軍の軍艦と、シェバリエ部隊が展開している。
その数、およそ数万。
コロニーのみならず、国そのものを制圧できる兵力である。
敵将の顔色が一気に変わった。
「馬鹿なっ! これほどの兵力を一体どこに……」
ハワードの声が震えている。
「こういうことを想定して、
事前に回廊を開いておいて正解だよね」
そういてルーク・レイランドがにっこりと笑って見せる。
◇◇◇
「リアン国、アーザス国の部隊が引いていくな」
パイロットの待機室で、
モニターを見ていたセレーネ・ウォーリアは
寂しげに呟いた。
「悲しいが、お前ともここでさよならだ」
パイロットスーツを身に纏い、セレーネとユウラは
格納庫へと歩みを進める。
王族専用船『クレア』の格納庫に、シェバリエが二体鎮座している。
一体は濃紺に三日月のエンブレムを頂いた、解放戦線『暁の女神』の隊長機『まほろば』。
そしてもう一体はユウラの愛機、『アンクル・ウォルター』だ。
「ユウラ・エルドレッド。
お前が生き残る方法がただひとつだけある」
幼子に言って聞かせるように、セレーネがユウラに語りかける。
「それはお前がこのシェバリエで私を撃つことだ」
そう言いながら、セレーネがキーを操作すると、
シェバリエからロープが下りてくる。
ユウラもまた人形のような虚ろな眼差しのままに、愛機へと乗り込む。
「セレーネ・ウォーリア『まほろば』出るぞ!」
管制塔への通信の後で、セレーネが駆る『まほろば』が宇宙へと飛び立つと、
ユウラの乗る『アンクル・ウォルター』もそれに続く。
王族専用船『クレア』はすでに、
ウォルフの乗る戦艦Black Princessの射程距離に捕らえられ、
Black Princessの主砲が『クレア』を捉えている。
すでに勝負はあったのだと、この戦域にいる誰もがそう思った。
しかしその間を二体のシェバリエが遮る。
突如モニターに映し出された映像に、ウォルフが戦慄を覚える。
「あれは……アンクル・ウォルター……」
さらに映像が送られてくる。
操縦席に座わる赤髪の少女。
「ユ……ウラ……?」
震えながらそう呟くウォルフの唇がひどく乾いている。
セレーネの機体『まほろば』がユウラの機体『アンクル・ウォルター』に切りかかる。
「やめろ……」
ウォルフの震えが止まらない。
ユウラの機体の左腕が落とされる。
腕の付け根で切り落とされた部分がショートして、火花を散らしている。
「旗艦最大出力全速前進っ! リアン国へ突っ込めぇぇぇぇっ!」
王族専用船『クレア』の操縦室で、ハイネスが絶叫した。
『クレア』は目前と迫るリアン国へと舵を切るが、ウォルフは動けない。
そんなウォルフを尻目に、セレーネは今度はユウラの機体の右腕を切り落とした。
「やめろっ!」
モニターを見つめるウォルフが、現実を受け止めることができずに、
小さく横に首を振る。
「頼むっ! やめてくれっ!」
ウォルフの頬に涙が伝った。
しかしそんなウォルフの願いは届かない。
セレーネは無慈悲な死神のように、今度はユウラの機体の左足を奪った。
機体は推進力を保てずに、不格好にバランスを崩している。
「俺のっ……命をやる! だからっ! 頼むっ」
涙とともにウォルフが、悲痛な声色で呟いた。
崩れ落ちそうになるウォルフを、ルークが支えた。
死神の剣が、ユウラの機体の右足に振り下ろされる。
四肢を失ったユウラの機体が頼りなく宙域を漂うと、
そのコクピットに向けて、『まほろば』のビーム・ライフルが突き付けられた。
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