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第六十七話影武者の言い分『セシリアの弱点』
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「この人と晩餐を共にする。支度を」
イリオスが執事にそう指示するのを、私が制しました。
「すいません。この人こんなこと言っていますけど、
昨日意識を取り戻したばっかりで、
普通食なんてとても食べられる状態じゃないです」
私がそう執事に言いますと、
イリオスが私を睨みつけてきます。
なんでしょう。
私はこの人と相性が悪いのでしょうか。
「お前はいちいち、余計なことをっ!」
そう言ってイリオスが舌打ちしました。
余計なこと?
そのワードにさすがの私もカチンときます。
素知らぬ顔をして、イリオスの傷口を指で弾いてやりましたら、
イリオスは無言でその場に蹲りました。
いくらチキン星人といえど、私を舐めてはいけません。
こう見えて、いや、見たまんまなのですが、
これでも私はゼノアの双子の妹なんですからね。
拷問の極意もちゃんと教育されていますよ?
「まあ、イリオス様。
どうかなさって? 傷口が痛むのですか?」
大仰にそう言ってやりますと、イリオスが涙目で
こちらを恨みがましく見つめております。
「もしお許しくださるのなら、厨房をお借りしてもいいですか?
私がイリオス様の体調に合わせたものをお作りします」
執事さんには少し驚いたような顔をされてしまいましたが、
気前よく厨房とエプロンを貸して下さいました。
これはもしかして執事さんの私物でしょうか、
『俺の料理』と縦に厳めしいロゴが入っています。
それをつけて料理をしていますと、
背後でイリオスが天を仰いで額を手で覆っています。
「このシチエーションでお前……。
絶望的に色気がないな」
ちょっとそこのあなたっ!
しれっと真剣な声色で、
人の心を抉ることを言わないでくれる?
私は無言で微笑を浮かべて、包丁を握りしめました。
「ん? なんだ? ヤンデレの妹のコスプレか?」
イリオスもにっこりと微笑みます。
なんで? なんでこの人ちょっと嬉しそうなの?
「ブッブー! 違いますぅ。
甘いです。甘酢あんかけよりも甘いですよ、
いいですか? イリオス。
今は師走です。
時期的にこれはどう考えても秋田県発祥の
なまはげのポーズでしょう」
そう言いますと、イリオスががっくりと肩を落としました。
「お前、そういうところだぞ?
この後、ミシェルに求婚されて、女に戻るとして
手料理を振舞うところを想像してみろ。
このエプロンをつけたお前を見て、ミシェルはどう思うよ?」
イリオスの言葉が私の心を抉りました。
私は私が身に着けているコスチュームを改めて
見つめました。
『俺の料理』確かにこれでは色気がないです。
「しかもその後のなまはげのポーズってどうよ?
一体誰が喜ぶんだ?」
ぐっ……確かにっ!
私はその場に膝をつきたい衝動に駆られました。
その間に鍋に湯が沸いたようなので、
昆布を引き出して、かつおだしを取ります。
「お前、料理手慣れてんな」
一方では関心したようにイリオスが私の料理の手際を褒めました。
「ゼノアがね、請けから帰ったときに
お腹を空かせてたらいけないって思って、
練習したんです」
そういうと、イリオスが何とも言えない表情をしました。
どうしたんだろう? 寂しかったのかな?
少し心配になりました。
乾麺タイプのうどんを湯がいて、その間にかまぼこを切って……と。
「ねぇ、イリオス。
力持ちにしようと思うのだけれど、
おうどんにお餅入れても平気?」
冷蔵庫からお餅を取り出しながらそう問うと、
イリオスが少し面食らっているようでした。
「お……おう……」
◇◇◇
「どうよっ!」
差し出したなべ焼きうどんを食べたイリオスが、
沈黙します。
「意外だ……。
結構うまい」
イリオスが目を白黒させています。
「そう、良かった。
じゃあ、私はそろそろ帰るわね」
私はそう言ってエプロンを外しました。
なんやかんや言いいながらも、イリオスは私の作った鍋焼きうどんを
完食していました。
どうやら食欲も出てきたようですね。
これで一安心です。
「お前さ、もしミシェルに振られたら、
俺のところに来いよ」
イリオスが帰ろうとする私の背中に
不意にそう言って寄こしました。
私は無意識にミシェル様に貰ったネックレスに触れました。
「そんなおっかないところには行きませんよーだ。
それこそエルダートンのいいように使われるだけでしょう」
所詮私には行くところなんてないのです。
今夜は特に冷えるからでしょうか。
そのことが随分と身にこたえます。
「エルダートンのいいようにはさせないっ!
俺がお前を守るっ!
俺は子供のころからずっとお前のことっ……」
なんかイリオスが顔を真っ赤にして怒鳴っています。
そのとき、絶妙のタイミングで執事さんが
兄のゼノアを部屋に通しました。
「セシリア、帰るぞ」
そういってゼノアが私の手を取りました。
「それとな、ミシェルのお前への求婚の件、
あれ、破談になったわ」
兄、ゼノアがしれっと私にそう告げました。
ブリザード到来っ!
私が幻の吹雪の中で蹲っていると、
「よっしゃーーーーーー!!!」
なぜだかイリオスが背後でガッツポーズをしてやがります。
腹立つ、本当に腹立つっ!
人の不幸は蜜の味ってやつですかっ!
私は拳を握りしめて、この屈辱に耐えました。
イリオスが執事にそう指示するのを、私が制しました。
「すいません。この人こんなこと言っていますけど、
昨日意識を取り戻したばっかりで、
普通食なんてとても食べられる状態じゃないです」
私がそう執事に言いますと、
イリオスが私を睨みつけてきます。
なんでしょう。
私はこの人と相性が悪いのでしょうか。
「お前はいちいち、余計なことをっ!」
そう言ってイリオスが舌打ちしました。
余計なこと?
そのワードにさすがの私もカチンときます。
素知らぬ顔をして、イリオスの傷口を指で弾いてやりましたら、
イリオスは無言でその場に蹲りました。
いくらチキン星人といえど、私を舐めてはいけません。
こう見えて、いや、見たまんまなのですが、
これでも私はゼノアの双子の妹なんですからね。
拷問の極意もちゃんと教育されていますよ?
「まあ、イリオス様。
どうかなさって? 傷口が痛むのですか?」
大仰にそう言ってやりますと、イリオスが涙目で
こちらを恨みがましく見つめております。
「もしお許しくださるのなら、厨房をお借りしてもいいですか?
私がイリオス様の体調に合わせたものをお作りします」
執事さんには少し驚いたような顔をされてしまいましたが、
気前よく厨房とエプロンを貸して下さいました。
これはもしかして執事さんの私物でしょうか、
『俺の料理』と縦に厳めしいロゴが入っています。
それをつけて料理をしていますと、
背後でイリオスが天を仰いで額を手で覆っています。
「このシチエーションでお前……。
絶望的に色気がないな」
ちょっとそこのあなたっ!
しれっと真剣な声色で、
人の心を抉ることを言わないでくれる?
私は無言で微笑を浮かべて、包丁を握りしめました。
「ん? なんだ? ヤンデレの妹のコスプレか?」
イリオスもにっこりと微笑みます。
なんで? なんでこの人ちょっと嬉しそうなの?
「ブッブー! 違いますぅ。
甘いです。甘酢あんかけよりも甘いですよ、
いいですか? イリオス。
今は師走です。
時期的にこれはどう考えても秋田県発祥の
なまはげのポーズでしょう」
そう言いますと、イリオスががっくりと肩を落としました。
「お前、そういうところだぞ?
この後、ミシェルに求婚されて、女に戻るとして
手料理を振舞うところを想像してみろ。
このエプロンをつけたお前を見て、ミシェルはどう思うよ?」
イリオスの言葉が私の心を抉りました。
私は私が身に着けているコスチュームを改めて
見つめました。
『俺の料理』確かにこれでは色気がないです。
「しかもその後のなまはげのポーズってどうよ?
一体誰が喜ぶんだ?」
ぐっ……確かにっ!
私はその場に膝をつきたい衝動に駆られました。
その間に鍋に湯が沸いたようなので、
昆布を引き出して、かつおだしを取ります。
「お前、料理手慣れてんな」
一方では関心したようにイリオスが私の料理の手際を褒めました。
「ゼノアがね、請けから帰ったときに
お腹を空かせてたらいけないって思って、
練習したんです」
そういうと、イリオスが何とも言えない表情をしました。
どうしたんだろう? 寂しかったのかな?
少し心配になりました。
乾麺タイプのうどんを湯がいて、その間にかまぼこを切って……と。
「ねぇ、イリオス。
力持ちにしようと思うのだけれど、
おうどんにお餅入れても平気?」
冷蔵庫からお餅を取り出しながらそう問うと、
イリオスが少し面食らっているようでした。
「お……おう……」
◇◇◇
「どうよっ!」
差し出したなべ焼きうどんを食べたイリオスが、
沈黙します。
「意外だ……。
結構うまい」
イリオスが目を白黒させています。
「そう、良かった。
じゃあ、私はそろそろ帰るわね」
私はそう言ってエプロンを外しました。
なんやかんや言いいながらも、イリオスは私の作った鍋焼きうどんを
完食していました。
どうやら食欲も出てきたようですね。
これで一安心です。
「お前さ、もしミシェルに振られたら、
俺のところに来いよ」
イリオスが帰ろうとする私の背中に
不意にそう言って寄こしました。
私は無意識にミシェル様に貰ったネックレスに触れました。
「そんなおっかないところには行きませんよーだ。
それこそエルダートンのいいように使われるだけでしょう」
所詮私には行くところなんてないのです。
今夜は特に冷えるからでしょうか。
そのことが随分と身にこたえます。
「エルダートンのいいようにはさせないっ!
俺がお前を守るっ!
俺は子供のころからずっとお前のことっ……」
なんかイリオスが顔を真っ赤にして怒鳴っています。
そのとき、絶妙のタイミングで執事さんが
兄のゼノアを部屋に通しました。
「セシリア、帰るぞ」
そういってゼノアが私の手を取りました。
「それとな、ミシェルのお前への求婚の件、
あれ、破談になったわ」
兄、ゼノアがしれっと私にそう告げました。
ブリザード到来っ!
私が幻の吹雪の中で蹲っていると、
「よっしゃーーーーーー!!!」
なぜだかイリオスが背後でガッツポーズをしてやがります。
腹立つ、本当に腹立つっ!
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