女のフリして某企業の社長と見合いをしたのだが、どうやらそいつが俺に一目惚れして、正体知らずにめっちゃ俺に惚気てくるのが、正直うぜぇ。

萌菜加あん

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第二十一話 初めての告白はライラックの花とともに

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「わぁっ! 恥ずかしいもん見られちゃったな」

俺は知らず赤面してしまった。

「ごっ……誤解しないでね、水無月さん
別に俺に女装癖があるとかじゃないんだ」

いや、そこもなんか色々後ろ暗いことは後ろ暗いんだけど、
俺の意志じゃないからな!

決して好きでやってるわけじゃないからな!

「母親が子供服のデザイナーをやっていて、
たまたまモデルの子が熱を出しちゃって、
急遽俺が代役に抜擢されて……だな」

俺は焦ってしどろもどろになって説明するのだけど、
水無月さんは呆けている。

懐かしむような、慈しむような、
それでいて今にも泣き出しそうな、

無防備な顔。

結局会社に着くまで水無月さんは
ずっと黙ったままだった。

会社から、水無月さん家までは
ふたりで歩いて帰ることになった。

不意に水無月さんに手を繋がれた。

「うぉっ!」

ちょっとびっくりしたけど、
俺はそれを振り払わなかった。

「もう……どこにも行くなよ、瑞樹」

少し思いつめたような表情でそう言われたから、

「えっ? あ……うん」

俺はいつものように憎まれ口を叩くことが出来なかった。

◇◇◇

それから数週間たって、
水無月さんの腕も順調に回復しているそうだ。

「もう少しでギブス取れるって、
病院の先生言ってたな」

今日は水無月さんの通院に付き添って、
それから直帰を許された。

水無月さんの回復に、心底安堵して、
ほうっと息を吐いた。

「ちっ、当初の予想より随分早いな」

一方、水無月さんは小さく舌打ちをして、
眉間に皺を寄せている。

「なんでそこで舌打ちなんだよ。
喜ばしいことじゃないか」

俺は水無月さんの着替えを手伝いながら、
首を傾げた。

「だって……腕が治ったら瑞樹に甘えられないじゃないか」

水無月さんの言葉に

「あほか……」

俺はそう呟いて、頭に手刀をかます。

「痛てぇな! っつうかお前、どうすんの?」

そう問われて、

「どうって?」

俺は目を瞬かせる。

「お前、私の気持ちはちゃんと伝えただろうが、
それでお前は……どうなんだ?
なんやかんやとはぐらかしやがって」

少し怒ったような水無月さんの口調に
俺は押し黙る。

「っていうかさ、
水無月さんのあんなゲスな思いを伝えられても、
俺、どうしようもないじゃない。
むしろどうしろと?」

逆に聞きたいよ、俺は。

『瑞樹、私はね、瑞樹のことも、
花子さんのことも……両方好きなんだ』

葵旅館で告げられた、最低な告白を思い出して、
俺は頭を抱える。

「ゲスって言うな! ゲスってっ!!
この想いはなぁ、100パーセント純愛なんだよっ!」

もう、キレ方が意味わかんねぇ。

まあ、真相としては、
水無月さんが言っている『花子さん』の正体っていうのも、
実は俺だったりするんだけどな。

心中は複雑だ。

「ああクソッ! なんだって俺はこんなゲス野郎のことを
好きになっちまったんだよ!」

涙目になって頭を抱えた瞬間に俺は悟った。

今俺、なんつった?

ひょっとして、うっかりと心の声が漏れちまったんじゃねえか???

俺はその場で、高速で目を瞬かせた。
そして恐る恐る、隣の人物に視線を向ける。

「へぇ~、あっ、そうなんだ。
瑞樹は……私のことを……
あっ、うん。わかった」

金髪が完全に調子に乗っている。

「いやっ、違う。そうじゃない。
言い間違えだし。
うん、単なる言い間違いだし。
っていうか、そもそも水無月さんって言ってねぇしっ!」

死相を浮かべて全否定する俺に、


「お前いい加減に認めろよな。
私のことを好きだって。
じゃないと、なんも進まねぇぞ!」

水無月さんが口を尖らせる。

「うっ……う……ん……」

俺は今、多分めちゃくちゃ赤面して、
挙動不審気味に視線を彷徨わせているはずだ。

「俺は‥‥‥そういうのを言葉にするのが……
あまり得意じゃ……ないっていうか」

ああ、くそっ!
俺なんか今死ぬほど恥ずかしいんですけど。

「だけどあんたの想いに……ちゃんと応えなきゃって……
それはずっと思ってて……だから……あのっ!」

俺はそう言って、小さな紙袋を水無月さんに差し出した。

水無月さんは無言のままに、
紙袋からブーケを取り出した。

「それ……ライラックの花なんだ」

俺の言葉に水無月さんが、きょとんとしている。

そりゃ、そうだよな。
男が男に花とか貰ってもだなぁ……。

当然そういう反応になるよなぁ。

今俺の背中に変な汗が噴き出している。

「は……花言葉は‥‥‥『淡い恋心』で……」

声が震えて、微妙に裏返ってるし。

ああ、俺、今、水無月さんをまともに見れねぇっ!!!

「俺の……心……です。受け取って……下さい」

ガラにもねぇのは分かっている。

だけど……だけど……。

それは俺の……決死の告白だったんだ。
そりゃあもう、清水の舞台から飛び降りるどころの騒ぎじゃなくてだな、

それこそ心臓が飛び出るくらいの、決死の告白だったんだ。

「瑞樹…‥ありがとう。すごくうれしい」

俺の頬に触れて、水無月さんが俺の耳朶に甘く囁く。

「だが、お前の私への想いは『淡い』のか?」

水無月さんのアクアブルーの瞳が、
射貫くように俺を見つめている。

「私のお前への想いは、そんなものではない」

そう言って水無月さんは、俺の手を取って自身の胸に導く。

「触れてみろ、瑞樹。そして知れ。
この滾る血潮が、お前を求める情愛の色なのだと」


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