藤本喜久雄の海軍

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戦力増強

和田の現状

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藤本と和田の2人はすぐに意気投合した。
「藤本さんのような方が居られれば、幾分か気持ちも楽です」
海軍航空技術廠の廠長室。
そこのソファーで藤本と和田は向かい合って座っていた。
傍らには和田が淹れた緑茶がある。
「それはなによりです。ですが私は少しかじっただけなのですが」
そう言うと和田は首を横に振る。
「藤本さんは各国の航空機の情報を探して、それを分析されていたんですよね?それで”少しかじっただけ”と言ってしまうのは末恐ろしいです」
藤本は苦笑いを浮かべる。
「あの戦闘機の有用性に気付いたのは今のところ、私とあなただけです」
これには藤本も頷く。
「欧米ではすでに格闘戦から一撃離脱へと航空戦の戦術が変化していると聞きます。そのために欧米は陸上戦闘機に関しては高速が狙える水冷エンジンを搭載しています。ですが、我が国には水冷エンジンを作る技術は無いとは言いませんが乏しいと言わざるを得ません。そこで私はあの空冷エンジンを積んだFw190に興味を持ったのです」
藤本の言葉に和田は大きく頷く。
「まさにその通りです。もはや航空戦は名人芸の格闘戦より誰でも行える一撃離脱へ変わってきております。我々は一刻も早く高速戦闘機を開発しなければならないのです」
そこまで言い終えると和田は少し遠い目をした。
「ですが、今の搭乗員連中の気の荒い奴らばかりで格闘戦を好んでいます。彼らが反対する限り、高速戦闘機は生まれ憎いでしょうな」
藤本は和田の言った事に既視感を感じた。
(まるで用兵側の要求に応えるだけだったあの頃の艦政本部ではないか…)
すると藤本は黙っていられなくなった。
「例え現場が難色を示しても、もはや戦いは一撃離脱が基本になることは確定的です!今のうちに開発しておかねば手遅れになります!」
和田は少し渋い顔をする。
「おっしゃっていることは痛いほどよくわかります。と言うよりかは私も同じ気持ちです。ですが、我々空技廠は海軍航空本部の従属組織です。上は”下が了解していないのなら開発するわけには行かない”と言い、下は”上が開発しなくていいと言っているのだからなおさらする必要がない”と我々は板挟みにあっているのです」
藤本はこの現状を知らなかった。
藤本の場合は元々が艦政本部という組織のトップであったためにこのような問題は生じなかった。
だが、和田の場合はそうはいかなかったのである。
「…今の航空本部長は誰でしたか?」
藤本は腹を決めてそう和田に聞いた。
「山本五十六中将です。どうかされましたか?」
和田が不思議そうに聞く。
「話を、つけに行きましょう」
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