ふたりの私の消失点

阿部敏丈

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ふたりの私の消失点

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2025年8月5日 火曜日 19時13分
東京都江東区亀戸 明治通り…

ビオラのレッスン時間は20分だが、自主練習は2時間行った。真夏でも暗い時間だ。昨日17歳になった三好 玲香は明るい商店街を歩くからか無防備にスマホで動画を見ていた。

都市伝説を扱う、リズ・ホワイトの動画を玲香は好む。夏は日本人にとって霊が故郷に帰るという、お盆の時期だ。イブの動画も透視、心霊スポットとオカルト話に毎日更新されていた。アップされて40分の最新動画を見る玲香の視界の端に、何か“奇妙なズレ”を感じて顔を上げて左を見る。

毎日歩く明治通り、亀戸駅から亀戸梅屋敷へ向かい左側を歩いて5分程だった。まだ夕食時間帯でこれから賑わう通りの交差点が古ぼけたシャッター通りと繋がっている。

そしてシャッター通りの先にいたのは、私。

髪の長さ、制服、ビオラケース、お気に入りのスマホカバーはキャンデイパープルのレアカラーだ。玲香以外は持っていない。少し遠くても分かる特徴だ。



玲香がもうひとりの私と目が合うと、向こうの“玲香?”はスマホのレンズをこちらへ向け、ピッと音を鳴らしフラッシュを光らせた。そして彼女は「スッゲー」と笑い、前を向くと駆け足となり玲香の視界から消えていった。

玲香は10秒ほど立ったまま、シャッター通りの向こう、もうひとりの私が立っていた場所を見ていた。そしてハッと我に返ると、検索窓に言葉を打ち込んだ。
『もうひとりの私』

検索結果
『ドッペルゲンガー』

‐その姿を見た者は死ぬ‐


ドッペルゲンガー(Doppelgänger)はドイツ語で「二重に歩く者」を意味し、自分と瓜二つの分身に遭遇する現象を指す。古くは18世紀の詩人ゲーテが、自身のドッペルゲンガーを見た体験を記しており、ロシアの作家ドストエフスキーも短編『分身』でこのテーマを扱っている。
ドッペルゲンガーを見た者は死ぬという迷信もあり、日本でも“影のない人”の怪談と結びつく例がある。
心理学ではカール・グスタフ・ユングが「シャドウ」の概念で、自己の抑圧された側面が具象化するものと捉えた。臨床心理学ではストレスや過労、乖離状態における幻視として説明されることが多い。
現代においては都市伝説やホラー作品の題材として扱われるが、科学的にはオカルトの範疇とされ、実在を支持する根拠はないとされている。
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