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第一話 もうひとりを追いかけて
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第一話 もうひとりを追いかけて
<前編>
2025年8月6日 水曜日 18時00分
東京都江東区亀戸 明治通り…
「私が死ぬ。それじゃあ、もうひとりの私は?」
三好玲香は“もうひとりの私”に再会するため、シャッター通りへ向かった。江戸時代から栄え続けている街に、シャッター通りは無いはずだが…
場所は亀戸駅から亀戸梅屋敷へ向かって左側を5分歩いた所、右側のコンビニを通り過ぎて梅屋敷がすぐ右手前にある場所だ。そこを左に向けば、シャッター通りがある、はずだったが…
そこには道路など無く、一昨日、8月4日に閉店した美容室があった。店の看板は消され、閉じたシャッターには「長年のご愛顧ありがとうございました。サロン・ミヤビスタッフより」と貼り紙があるだけだった。
玲香は"もうひとりの私"に会うために、彼女と出会った19時よりも早く現地に着き、再会を待つ予定だった。しかし"もうひとりの私"がいた場所へ繋がるシャッター通りが消えている。右斜は亀戸梅屋敷という観光地だ。玲香の立つ場所に間違いはない。一晩で道路を塞ぎ、閉店した美容室を作るなど誰も得をしない工事はしない。しかしあり得ない事が起きている。自分の経験は記憶違いなのか?玲香は戸惑う。
並行世界とかパラレルワールドってやつ?
同じ時間になれば会えるのか?
何か条件があるのか?
その兆候があるのか?
昨晩スマホでドッペルゲンガーについて調べられるだけ調べた。ユング心理学でいう「自分のシャドウ」かもしれないが、たった一人で解決出来る問題ではない。自分が経験したドッペルゲンガーを、第三者として分析出来る人物が必要だ。カウンセラー、しかも学生の悩みを聞くようなスクールカウンセラーではなく研究者としての臨床心理士が良い。
「ユング派 臨床心理士」
玲香は閉店した美容室の前で、スマホを使い検索をした。検索結果がスマホの画面に沢山表示された。
「カウンセラー、精神科クリニック、悩み相談の案内ばかりね。ちゃんとした専門家はいないの?」玲香は画面を下へ下へと動かし、次のページへと辿るが心理学どころか霊感商法のサイトまで出て来た。
無理もない。
現在の日本ではユング派心理学自体が少数派で、日本の臨床心理士の多くは、ロジャース派、認知行動療法派が主流だからだ。更にドッペルゲンガーを臨床概念として扱う文献は極めて少ない。ユング派心理学の講義で「シャドウ」という視点で物事を解釈する話があっても医療現場で直接「ドッペルゲンガー」を扱う事例は非常に稀だからだ。
しかし玲香は検索情報からドッペルゲンガーという言葉を拾った。それはネット通販のサイトで扱う本のタイトルだったが、高校生の玲香には意味がわからない言葉の集まりだ。
「ドッペルゲンガー シャドウと主体の分裂」
しかし本の作者なら何か答えを持つかもしれない。玲香は迷わず通販サイトをタップして移動した。そこは玲香も使う大手通販サイトなので、自動的にログイン出来る。そしてスマホの画面にはタイトルの活字と青い台紙のみの、地味な表紙に日本書籍と知らない出版社が書かれている。作者は寺山 輪という人物だ。スマホの画面には「在庫無し」と表示されているが、今の時代は関係ない。玲香は「寺山 輪」をコピーして、スマホを検索画面に戻して調べた。
「寺山 輪ね…輪廻転生?」変わった名前だからか、寺山 輪は直ぐに見つかった。
心理学者としては有名人だった様だが、彼は2018年に他界している。会うにも会えない人物だが、玲香は諦めなかった。
「有名人なんでしょ?なら都内の心療内科でカウンセリングを希望するわ」
時間は19時30分を過ぎていた。病院はとっくに閉まっている時間だ。都内の病院、クリニックを調べて、オーケストラ部も夏期講習も休んでも受診する。玲香は方針を決めた。
帰りは都市伝説ユーチューバーのリズ・ホワイトの動画を見た。怖いもの見たさではない。リズの発信する何かが、解決のヒントになるかもしれないからだ。
三好玲香の心には「死ぬ恐怖」よりも「真実を知る」ことの方が強い。
<後編>
2025年8月6日 水曜日 18時00分
東京都江東区亀戸 明治通り…
「本当だって、マジよ」三善 麗華は友人の坂口 由佐とシャッター通りのあったはずの、閉店した美容室サロン・ミシマの前に居た。
「シャッターのお店一軒で、それがズラ~ッて?」由佐は首をかしげる。
「じゃあ、写真見せるわよ」麗華はクラウドに保存した写真を開くと、確かにシャッターが降りた店が並び、その先に麗華と同じ制服に同じ体格、同じビオラケースを背負う女の子が居た。
「確かにあんたね。けどウチらの学校にあんたのそっくりさんなんて居ないもんね。それにビオラなんて少数派も居ないし~」由佐はバイオリンよりも大きな物を抱えて、弓を動かす仕草をした。彼女はバイオリンを習っている。
「何~またバイオリニストの優越感出してるよ!!」麗華が怒ると由佐は駆け足でシャッターの降りた元美容室から離れて行き、麗華も後を追っていった。麗華は既に昨日出会った”もうひとりの私“など、どうでも良くなっていた。
由佐と挨拶をして家路につく麗華は、いつも視聴するユーチューバー、リズ・ブラックの動画を見た。
「はぁい、リズ・ブラックよ。今日も生きてまぁす!!さて、ちょっと髙尾山に来ていま~す。時々行方不明者が出るんだよね。私が目を閉じるとさ、見えるのよぉ。地面に裂け目があって、そこに落ちちゃう男の子がさっ…」
リズ・ブラックは霊への畏敬など考えずに、いつも訳ありスポットを訪ねる。そして毎回霊障が起きない事をユーチューブで流し、自分の霊感が災いよりも強いと誇示している。
「心霊スポットにズカズカ行くなんて、毎回やってくれんじゃん。けど地面に裂け目?男の子が落ちるのが見えるなんて、ウソくさっ」麗華はスピリチュアルな話には疑いを持つ。しかしただそれだけで、科学的にどうおかしいのか?などの根拠はどうでも良い。ただ罰当たりな行為が面白いのだ。
「髙尾山夜襲作戦完了!!やっぱ私の霊感って最強よ。んじゃ次は、もうひとりの私に会える場所に奇襲かけるね。どこかは秘密だよ」リズ・ブラックの動画は終了した。
「もうひとりの私?そんなの私だって会ったわよ。ただの錯覚だって、まあリズにも教えとこう」麗華はリズ・ブラックの動画にコメントを書いた「私、東京人だけど一昨日にもうひとりの私に会ったよ。普通ネタ!?」そう書きながらも麗華はリズの動画が楽しみだ。他にも経験した人がいるんだと思うと会ってみたい。しかしリズ・ブラックの動画は週1回のペースだ。気長に待つしか無い。
<前編>
2025年8月6日 水曜日 18時00分
東京都江東区亀戸 明治通り…
「私が死ぬ。それじゃあ、もうひとりの私は?」
三好玲香は“もうひとりの私”に再会するため、シャッター通りへ向かった。江戸時代から栄え続けている街に、シャッター通りは無いはずだが…
場所は亀戸駅から亀戸梅屋敷へ向かって左側を5分歩いた所、右側のコンビニを通り過ぎて梅屋敷がすぐ右手前にある場所だ。そこを左に向けば、シャッター通りがある、はずだったが…
そこには道路など無く、一昨日、8月4日に閉店した美容室があった。店の看板は消され、閉じたシャッターには「長年のご愛顧ありがとうございました。サロン・ミヤビスタッフより」と貼り紙があるだけだった。
玲香は"もうひとりの私"に会うために、彼女と出会った19時よりも早く現地に着き、再会を待つ予定だった。しかし"もうひとりの私"がいた場所へ繋がるシャッター通りが消えている。右斜は亀戸梅屋敷という観光地だ。玲香の立つ場所に間違いはない。一晩で道路を塞ぎ、閉店した美容室を作るなど誰も得をしない工事はしない。しかしあり得ない事が起きている。自分の経験は記憶違いなのか?玲香は戸惑う。
並行世界とかパラレルワールドってやつ?
同じ時間になれば会えるのか?
何か条件があるのか?
その兆候があるのか?
昨晩スマホでドッペルゲンガーについて調べられるだけ調べた。ユング心理学でいう「自分のシャドウ」かもしれないが、たった一人で解決出来る問題ではない。自分が経験したドッペルゲンガーを、第三者として分析出来る人物が必要だ。カウンセラー、しかも学生の悩みを聞くようなスクールカウンセラーではなく研究者としての臨床心理士が良い。
「ユング派 臨床心理士」
玲香は閉店した美容室の前で、スマホを使い検索をした。検索結果がスマホの画面に沢山表示された。
「カウンセラー、精神科クリニック、悩み相談の案内ばかりね。ちゃんとした専門家はいないの?」玲香は画面を下へ下へと動かし、次のページへと辿るが心理学どころか霊感商法のサイトまで出て来た。
無理もない。
現在の日本ではユング派心理学自体が少数派で、日本の臨床心理士の多くは、ロジャース派、認知行動療法派が主流だからだ。更にドッペルゲンガーを臨床概念として扱う文献は極めて少ない。ユング派心理学の講義で「シャドウ」という視点で物事を解釈する話があっても医療現場で直接「ドッペルゲンガー」を扱う事例は非常に稀だからだ。
しかし玲香は検索情報からドッペルゲンガーという言葉を拾った。それはネット通販のサイトで扱う本のタイトルだったが、高校生の玲香には意味がわからない言葉の集まりだ。
「ドッペルゲンガー シャドウと主体の分裂」
しかし本の作者なら何か答えを持つかもしれない。玲香は迷わず通販サイトをタップして移動した。そこは玲香も使う大手通販サイトなので、自動的にログイン出来る。そしてスマホの画面にはタイトルの活字と青い台紙のみの、地味な表紙に日本書籍と知らない出版社が書かれている。作者は寺山 輪という人物だ。スマホの画面には「在庫無し」と表示されているが、今の時代は関係ない。玲香は「寺山 輪」をコピーして、スマホを検索画面に戻して調べた。
「寺山 輪ね…輪廻転生?」変わった名前だからか、寺山 輪は直ぐに見つかった。
心理学者としては有名人だった様だが、彼は2018年に他界している。会うにも会えない人物だが、玲香は諦めなかった。
「有名人なんでしょ?なら都内の心療内科でカウンセリングを希望するわ」
時間は19時30分を過ぎていた。病院はとっくに閉まっている時間だ。都内の病院、クリニックを調べて、オーケストラ部も夏期講習も休んでも受診する。玲香は方針を決めた。
帰りは都市伝説ユーチューバーのリズ・ホワイトの動画を見た。怖いもの見たさではない。リズの発信する何かが、解決のヒントになるかもしれないからだ。
三好玲香の心には「死ぬ恐怖」よりも「真実を知る」ことの方が強い。
<後編>
2025年8月6日 水曜日 18時00分
東京都江東区亀戸 明治通り…
「本当だって、マジよ」三善 麗華は友人の坂口 由佐とシャッター通りのあったはずの、閉店した美容室サロン・ミシマの前に居た。
「シャッターのお店一軒で、それがズラ~ッて?」由佐は首をかしげる。
「じゃあ、写真見せるわよ」麗華はクラウドに保存した写真を開くと、確かにシャッターが降りた店が並び、その先に麗華と同じ制服に同じ体格、同じビオラケースを背負う女の子が居た。
「確かにあんたね。けどウチらの学校にあんたのそっくりさんなんて居ないもんね。それにビオラなんて少数派も居ないし~」由佐はバイオリンよりも大きな物を抱えて、弓を動かす仕草をした。彼女はバイオリンを習っている。
「何~またバイオリニストの優越感出してるよ!!」麗華が怒ると由佐は駆け足でシャッターの降りた元美容室から離れて行き、麗華も後を追っていった。麗華は既に昨日出会った”もうひとりの私“など、どうでも良くなっていた。
由佐と挨拶をして家路につく麗華は、いつも視聴するユーチューバー、リズ・ブラックの動画を見た。
「はぁい、リズ・ブラックよ。今日も生きてまぁす!!さて、ちょっと髙尾山に来ていま~す。時々行方不明者が出るんだよね。私が目を閉じるとさ、見えるのよぉ。地面に裂け目があって、そこに落ちちゃう男の子がさっ…」
リズ・ブラックは霊への畏敬など考えずに、いつも訳ありスポットを訪ねる。そして毎回霊障が起きない事をユーチューブで流し、自分の霊感が災いよりも強いと誇示している。
「心霊スポットにズカズカ行くなんて、毎回やってくれんじゃん。けど地面に裂け目?男の子が落ちるのが見えるなんて、ウソくさっ」麗華はスピリチュアルな話には疑いを持つ。しかしただそれだけで、科学的にどうおかしいのか?などの根拠はどうでも良い。ただ罰当たりな行為が面白いのだ。
「髙尾山夜襲作戦完了!!やっぱ私の霊感って最強よ。んじゃ次は、もうひとりの私に会える場所に奇襲かけるね。どこかは秘密だよ」リズ・ブラックの動画は終了した。
「もうひとりの私?そんなの私だって会ったわよ。ただの錯覚だって、まあリズにも教えとこう」麗華はリズ・ブラックの動画にコメントを書いた「私、東京人だけど一昨日にもうひとりの私に会ったよ。普通ネタ!?」そう書きながらも麗華はリズの動画が楽しみだ。他にも経験した人がいるんだと思うと会ってみたい。しかしリズ・ブラックの動画は週1回のペースだ。気長に待つしか無い。
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