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第6話 顔のない女
56、記憶の上書き②(第6夜完)
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国文の、いくつかのクラスで一緒になった山口先輩で、特別ハンサムというわけではないけれど、後輩の面倒見がよくて、これどうしたらいいんだろう、と思う時に、さりげなく手助けしてくれる優しい先輩だった。
映画に誘われ、カフェでパフェを食べ、合同クラスの飲み会で、一緒に抜け出した。
まじめな田舎の高校生が、大学に入ってデビューする、どこにでもいるような、よくありがちな、新入生だった。
けだるい午後、ひとり暮らしの先輩の部屋に、わたしはどきどきして足を踏み入れた。
新たな世界に足を踏み入れる期待感からくる高揚感なのか、不安なのか。
たぶん渾然一体となったもので緊張する。
「コーヒーでも淹れようか。海外旅行してきたヤツからの土産。櫻木君と一緒に飲みたいな、と思って」
ベッドと机とテレビと、コンロ二つのキッチンと。
小さなワンルームの部屋は、モノトーンで統一され、図書館で借りた本が床に積み重ねられていた。
彼が入れてくれた淹れ立てのドリップコーヒーをすする。
味も香りもわからない。
次第に不安感が増していく。
わたしだけではなくて、みんなに優しい人。
もう就職も決まっているという。
世間知らずの田舎からでてきた国文の新入生は、ちょっと優しくすれば、ころりと胸に転がり込んでくるのだろう。わたしのように。
そんな彼は、本当に優しい人だったのだろうか。
わたしの後も、すぐに他の子と噂になった。
わたしのことは、問題があれば、病院にいってみてもらったら、と突き放してしまえるぐらいのなんの意味もない関係で……。
わたしは馬鹿だ。
こんなわたしを愛してくれる人はこの世に存在しないかもしれないという不安と絶望に、押しつぶされそうになる。
「……櫻木君?……ミナ、ここに集中して。記憶が未来に飛んでいマス……」
目の前には夕日を背にした山口先輩がいた。
柔らかな髪が淡く金色に輝いている。
マグカップがそっと両手から抜き取られた。
ベッドに腰掛けたわたしのその横に膝をつく。
先輩の重みでベッドが微かに沈み、おしりがわずかにはねあがる。
妙にリアルな視界に体感。
わたしはあの時にいた。
こんなにもクリアに思い出せるものなのだろうか。
映画に誘われ、カフェでパフェを食べ、合同クラスの飲み会で、一緒に抜け出した。
まじめな田舎の高校生が、大学に入ってデビューする、どこにでもいるような、よくありがちな、新入生だった。
けだるい午後、ひとり暮らしの先輩の部屋に、わたしはどきどきして足を踏み入れた。
新たな世界に足を踏み入れる期待感からくる高揚感なのか、不安なのか。
たぶん渾然一体となったもので緊張する。
「コーヒーでも淹れようか。海外旅行してきたヤツからの土産。櫻木君と一緒に飲みたいな、と思って」
ベッドと机とテレビと、コンロ二つのキッチンと。
小さなワンルームの部屋は、モノトーンで統一され、図書館で借りた本が床に積み重ねられていた。
彼が入れてくれた淹れ立てのドリップコーヒーをすする。
味も香りもわからない。
次第に不安感が増していく。
わたしだけではなくて、みんなに優しい人。
もう就職も決まっているという。
世間知らずの田舎からでてきた国文の新入生は、ちょっと優しくすれば、ころりと胸に転がり込んでくるのだろう。わたしのように。
そんな彼は、本当に優しい人だったのだろうか。
わたしの後も、すぐに他の子と噂になった。
わたしのことは、問題があれば、病院にいってみてもらったら、と突き放してしまえるぐらいのなんの意味もない関係で……。
わたしは馬鹿だ。
こんなわたしを愛してくれる人はこの世に存在しないかもしれないという不安と絶望に、押しつぶされそうになる。
「……櫻木君?……ミナ、ここに集中して。記憶が未来に飛んでいマス……」
目の前には夕日を背にした山口先輩がいた。
柔らかな髪が淡く金色に輝いている。
マグカップがそっと両手から抜き取られた。
ベッドに腰掛けたわたしのその横に膝をつく。
先輩の重みでベッドが微かに沈み、おしりがわずかにはねあがる。
妙にリアルな視界に体感。
わたしはあの時にいた。
こんなにもクリアに思い出せるものなのだろうか。
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