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第3夜、憑き物落とし
16、憑きもの落とし①
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早歩きで一気に通り抜ける気満々なわたしと違って、体調が悪いためか紫苑の足どりは重い。
ジェンダーフリーな印象は、容姿のかわいさはもちろんのこと、わたしとおなじぐらいの身長に、わたしより体重が軽いのではないかと思われるほど柳腰で、薄い身体からきている。
おんぶすることもよぎる。
見た目よりも重かったり、女子に背負われて運ばれると男子としてのプライドを傷つける可能性があるかもしれないので、わたしから言い出すのはやめた。
このあたりの女子扱いのバランスは、個々人で違いそうで難しそうだ。
夕刻の繁華街を、スピーカーがけたたましくまくし立てていた。
ところどころ音が割れて聞き取れないところがあるが、言っていることはほとんど毎回同じことである。
オレオレ詐欺に気をつけて。
市の職員を名乗る電話は全て詐欺ですから気をつけて。
暗証番号を聞くことはありません。
森もすべては吸収しきれない。
スピーカー音は次第に遠のいていく。
わたしは気を紛らわそうと口を開いた。
「ああいうのっていつも疑問なのよね。一方的に高齢者側にむけて言っているところが。欺されないようによくよくご注意くださいって。もう一方側への働きかけは皆無なのよね」
「……もう一方って?」
「オレオレ詐欺の受け子や強盗で捕まるのは、生活苦だったり、安易な気持ちで犯罪組織に荷担してしまった若者だったり、若者じゃなくても思慮の足りないヤツだったりするじゃない」
今度は合いの手がない。
紫苑の歩みは遅れがちである。
歩幅をせばめた。
暗がりの茂みの中から、いきなり小動物が飛び出してきそうだ。
猫ぐらいなら耐えられそうなんだけれども。
「被害者は加害者がいるから生まれる。だから、同時に、加害者になるかもしれない方にむけて、もっと積極的に呼びかけないと駄目だと思うのよね。たとえば、割のいい仕事には裏があります。仕事の内容がおかしいと思ったら警察にご連絡を。ちょっと待て、その行為は犯罪だ。思い直すは一瞬、前科は一生、とかそんな感じで。生活や悩みを抱える方はこちらにご連絡をくださいとか、犯罪を犯す前に、踏みとどまらせるための警告だったり、積極的な救済策を提示するの」
「ああ……」
気のない返事だった。
だけど、わたしは自分の言葉に勢いつく。
「この遊歩道に設置したあの看板だって、『不審者注意』じゃなくて、『犯罪行為を許さない』とか、『痴漢をするな』というような、加害者側になろうとする側に警告するべきだと思うのよね」
同意を求める間。
だけど、紫苑にとって全く関心のない話題なのか、見当違いの問いが返された。
「あの男は事務所にいなかったんだけど………」
「えっと、誰のこと?」
「神坂晴海、なんでも屋をやってるあんたの雇い主」
その言葉で、紫苑はもしかしてわたしを待っていたのかもしれないとよぎる。
闇に目をこらせば、誰にも気が付かれずに陵辱されて打ち捨てられた遺体をみつけそうな気がする。
話題はなんでもいい。
話すことで気をまぎらわせてくれるのならば。
「彼には、最近わたしも会えていないのよ。やることがあるようで。連絡や報告はメールでするんだけれど。えっと、何かお悩みごとでも?メールで問い合わせしてみた?神坂さんから返事はなかった?」
「メールにすれば、ずっと記録として残ってしまうだろ?だから、その、その、悩み事をきいて欲しかっただけなんだ。不思議なことがあって。あの男、仕事をより分けているんだろ?誰も引き受け手のない不可思議なことを積極的に受けていると噂があるし、僕の悩みのことも、こんなこと誰に相談しても勘違いなんじゃない?とか言われそうだし……」
「えっと、どんなこと?」
「ミーナ先輩はあの男じゃないから、今言えばもう一度あの男にいわなくてはならなくなるから面倒だ」
まったく生意気である。
「そうだけど、受けてくれるかどうかはある程度判断できるかも」
ジェンダーフリーな印象は、容姿のかわいさはもちろんのこと、わたしとおなじぐらいの身長に、わたしより体重が軽いのではないかと思われるほど柳腰で、薄い身体からきている。
おんぶすることもよぎる。
見た目よりも重かったり、女子に背負われて運ばれると男子としてのプライドを傷つける可能性があるかもしれないので、わたしから言い出すのはやめた。
このあたりの女子扱いのバランスは、個々人で違いそうで難しそうだ。
夕刻の繁華街を、スピーカーがけたたましくまくし立てていた。
ところどころ音が割れて聞き取れないところがあるが、言っていることはほとんど毎回同じことである。
オレオレ詐欺に気をつけて。
市の職員を名乗る電話は全て詐欺ですから気をつけて。
暗証番号を聞くことはありません。
森もすべては吸収しきれない。
スピーカー音は次第に遠のいていく。
わたしは気を紛らわそうと口を開いた。
「ああいうのっていつも疑問なのよね。一方的に高齢者側にむけて言っているところが。欺されないようによくよくご注意くださいって。もう一方側への働きかけは皆無なのよね」
「……もう一方って?」
「オレオレ詐欺の受け子や強盗で捕まるのは、生活苦だったり、安易な気持ちで犯罪組織に荷担してしまった若者だったり、若者じゃなくても思慮の足りないヤツだったりするじゃない」
今度は合いの手がない。
紫苑の歩みは遅れがちである。
歩幅をせばめた。
暗がりの茂みの中から、いきなり小動物が飛び出してきそうだ。
猫ぐらいなら耐えられそうなんだけれども。
「被害者は加害者がいるから生まれる。だから、同時に、加害者になるかもしれない方にむけて、もっと積極的に呼びかけないと駄目だと思うのよね。たとえば、割のいい仕事には裏があります。仕事の内容がおかしいと思ったら警察にご連絡を。ちょっと待て、その行為は犯罪だ。思い直すは一瞬、前科は一生、とかそんな感じで。生活や悩みを抱える方はこちらにご連絡をくださいとか、犯罪を犯す前に、踏みとどまらせるための警告だったり、積極的な救済策を提示するの」
「ああ……」
気のない返事だった。
だけど、わたしは自分の言葉に勢いつく。
「この遊歩道に設置したあの看板だって、『不審者注意』じゃなくて、『犯罪行為を許さない』とか、『痴漢をするな』というような、加害者側になろうとする側に警告するべきだと思うのよね」
同意を求める間。
だけど、紫苑にとって全く関心のない話題なのか、見当違いの問いが返された。
「あの男は事務所にいなかったんだけど………」
「えっと、誰のこと?」
「神坂晴海、なんでも屋をやってるあんたの雇い主」
その言葉で、紫苑はもしかしてわたしを待っていたのかもしれないとよぎる。
闇に目をこらせば、誰にも気が付かれずに陵辱されて打ち捨てられた遺体をみつけそうな気がする。
話題はなんでもいい。
話すことで気をまぎらわせてくれるのならば。
「彼には、最近わたしも会えていないのよ。やることがあるようで。連絡や報告はメールでするんだけれど。えっと、何かお悩みごとでも?メールで問い合わせしてみた?神坂さんから返事はなかった?」
「メールにすれば、ずっと記録として残ってしまうだろ?だから、その、その、悩み事をきいて欲しかっただけなんだ。不思議なことがあって。あの男、仕事をより分けているんだろ?誰も引き受け手のない不可思議なことを積極的に受けていると噂があるし、僕の悩みのことも、こんなこと誰に相談しても勘違いなんじゃない?とか言われそうだし……」
「えっと、どんなこと?」
「ミーナ先輩はあの男じゃないから、今言えばもう一度あの男にいわなくてはならなくなるから面倒だ」
まったく生意気である。
「そうだけど、受けてくれるかどうかはある程度判断できるかも」
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