運命の子【5】~古き血族の少年の物語

藤雪花(ふじゆきはな)

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水かけ祭

23、パリスの王都パリス

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リリアスたちは豊かな穀倉地帯を抜けていく。
樹海を水源とする小川をいくつも越える。
小川は合流しながら大きくなっていき、やがて運河になる。
パリスの王都を突き抜けて流れ海にそそぐ、海の都市との交易の要になる運河である。

彼らの目的地は、パリスの王都パリスである。
バラモン国の王弟ムハンマドは、既に王都パリスに到着していた。

途中、馬から定期船に乗り変える。
こちらの方が速かった。

「どえらい人ですね、、」
レッドは乗り換える都度、同じように感心している。
その度に船は大きくなり、多くの人が乗り込んできた。

船から見える外の景色も田畑から、田舎町へ、さらに大きく賑やかな街へ、みるみる変容していく。

「明日は水かけ祭があるからね!」
同船していた若夫婦は、レッドの言葉に笑顔を返した。
「水かけ祭??」
ズインもリリアスも会話に加わる。
二人は道中、アルフとレッドに挟まれてほぼ自由のない状態である。
見えない縄に繋がれているようで、どこにいても付かず離れずであった。

水かけ祭はパリス国最大の新年のお祭りである。昨年一年間の罪や汚れを、花や花びらを浮かべた薫水を浴びて流し落とす。
そして、綺麗な身になり新年を迎えるのである。

実際は、知っている人も知らない人も、水をかけあって楽しむ、無礼講のお祭りである。
王都のみならず、小さな町でも行われている。
これが三日間続き、今年はパリス建国300年の節目の式典が開かれるとあって、諸外国から王族などが呼ばれている。
王都はかつてなく盛り上がりをみせていた。

世紀の祭を楽しもうと、パリス中から人々が押し寄せて、花も人も溢れかえる大変な事態になっていた。
外国からの観光客も多く、肌色、髪色、晴れ着の民俗衣装や旅人たちが入り乱れ、異国の香りがするリリアスたちの一行は目立たない。

「おまえさんたちも祭を楽しみにいくのかい?」
「もちろん!」
リリアスは元気に返事をする。
引きずられてまで、ムハンマドに会いたいとは思わないのだが、パリスの水かけ祭は、思いがけず楽しそうであった。

運河には、細長い二人乗りの店を兼ねた船が沢山浮かぶ。祭の花やフルーツ、水をかけるひしゃくや手桶を売る店、他にも食材や日用品を売る店から、売り子の元気な声が飛び交っている。
観光客や地元民も船に乗り買い物を楽しんでいて、まるで運河がひとつの大きな市場のような状態になっていた。
リリアスたちが乗船する王都行きの定期船にも声がかかる。

「あれ、欲しい!!」
リリアスとズインはすっかり祭に参加するつもりで、手を伸ばして桶とひしゃくの一式を購入している。
アルフとレッドは自然体を装いながらも周囲に気を配る。
リリアスを無事にムハンマドに届けることが、彼らに課せられた唯一の仕事である。

「レッド、わかっているな。リリアスさまの護送には我々の命がかかっていると思え!」
アルフは言う。
彼らは大まじめである。
ここまできて、ムハンマドの最愛の恋人を取り逃がしました、すみませんでは済まないのだ。
その旅もそろそろ終わりだった。
パリスの中心部で彼らは降り立った。
この先に、平原最大の国の、水の都の王宮がある。
白い壁の美しい宮殿である。

「リリアスさま本日中にムハンマド様の元に参りますよ!(そのお道具はつかえせんよ)」
アルフは言っても無駄のような気がしつつも、寄り道はしないことを言っておくのだった。


王宮へ入るためは許可証がいる。
アルフの誤算は、ムハンマドのいる王宮へ直ぐにいけないということだった。
許可証申請には多くの人たちが待っていた。必要な書類がなくて門前払いをされているものも多いと言う。

水かけ祭の三日間、および引き続く建国祭は各国の要人が招待されていることもあり、普段の何倍も警備が厳しくなっているようだった。

「なんということだ、、」
がっくりとしたアルフとレッドは、今度は宿を取らねばならなくなった。
直前で押さえられるところは、人気がない怪しいところか、かなり高額なところだった。

「そんなに予算はありませんよ、どこも普段の三倍値段になっています」
アルフが怪しいところに決めかけると、リリアスが介入する。

「せっかくなので、素敵なところが良いな!お金ならここにある」

リリアスは大変なお金持ちである。
ムハンマドと付き合う前に、現王バーライトの専属マッサージ師であり、お金持ちの奥様方にマッサージをして、ひと財産を築いたという噂であった。
そのあたりの話は、レッドたちは正確には知らない。
リリアスには、ムハンマドと出会った後、公けにされていない空白の一年間がある。
砂漠で蛮族に襲われた時に助けに入ったジャンバラヤ族の若き族長と関係がありそうだと、レッドは思っているのだが。


彼らは町の中心部の豪華な宿に、最悪の場合、祭の間中宿泊する予定で部屋を押さえた。
既に町は、前夜祭の様相である。
あちらこちらで、フライングの水の掛け合いが始まっていた。
部屋に籠っても面白くないということで、リリアスは服を買いにズインと町に繰り出した。
レッドには、「アルフと出るよ!」
と声をかけ、アルフには、「レッドと出るよ!」
と声をかける。

あれだけ、道中に神経をすり減らしていたアルフとレッドに、少し油断が生じたのかもしれなかった。
その言葉を信じてしまう。

リリアスとズインはこうして、監視なしの二人だけで、祭りを明日に控えたパリスの王都へ繰り出したのだった。




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