無頼・証券マン、哲二

ハリマオ65

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23話:信二と哲二の飲み会

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 そんな、夏の日、先日、偶然会った旧友の信二に会いたくなり電話をすると夜8時に池袋に来るというので指定した場所で会い、近くの混んでない居酒屋に入った。そして冷えたビールで乾杯し信二の近況を聞くと中学を出てから高校に入りそびれて哲二と店の近くにあった自宅の何でも屋みたいな店の店番を何となくやって生活していたという。

 これと言った浮いた話しもなく、かといってギャンブル、競輪、競馬、パチンコ、女にのめり込むこともなく、朝起きて店番して、両親に品物の買い出しを頼まれて運んで、たまに大口の店屋に配達したりの繰り返しをまるで義務のように続け、食べる事、住む事も両親と一緒なので困らずに、ただ何となく年を重ねてきたという。

 だた、最近、これからの人生これでい良いのかと思うようになり不安だといった。このまま、両親が亡くなって不景気になれば山谷暮らしに落ちぶれるのではないかと言う不安がよぎると話してくれた。いまだに冬になると、山谷、上野、御徒町、神田では行き倒れて、人知れず、なくなる貧乏老人が意外に多いと言い、その処理を手伝わされることが多いので、その惨めさは誰よりも良くわかると言った。

 最近は、子持ちの中年女が離婚して、その子供が戦後まもない頃の上野にいた戦災孤児のようにして学校給食だけを食べて腹が減って仕方なく万引きする場合もあるんだと教えてくれた。そう言う子供は一目見ると、わかるんだと言い、うちでは可哀想だからそう言う子を捕まえても警察に突き出さずに話を聞いてやるんだ。

 そして、もし、どうしても腹減ってしょうがなくなったら、うちに来い少しならタダで食わしてやると言うと、そう言う子が1人、2人と増え、もう10人以上いると打ち明けた。先日なんか、ある男の子が、荒川の河川敷のテント小屋に4人住んでるから大きいおにぎり4つくれと言われた時には、涙が止まらなくなったとしんみりと語った。

 生まれた所たところが悪かったとも言えず、そっと、大きなおにぎりを5つ持たせてやると、後日、その子が俺、何か手伝うよと言って5歳なのに店の荷物整理や店の前を掃いてくれてるようになったんだと話してくれた。哲二がそうかと言い、俺なんか、株という実際には確定していない札束を割安だ割高だと言って売買して金を稼ぐ商売。

 いわゆる株屋を生業にして、半番ダマシのようなことを言って売買させて、その手数料をいただいてきた。株で成功する人なんて、ほんの少し、ほとんどは普段。人の良さそうな人で、ある日突然、周りの人が株で儲かったと吹聴して歩くと、自分も金持ちになりたいという欲に駆られて株屋に言われるままに株を買って売って、少し儲かると、もう中毒になって離れられなくなり、身ぐるみはがされて無一文。

 それだけなら、まだましで先祖伝来の屋敷、田畑を売り払う事になったりして、気がつけば、奥さんに離縁されてぼろアパートに1人ぐらし。ひどい場合はサラ金に手を出して、ソープランドに売り飛ばされた女とか、自己破産した、良いスーツを着た老紳士なども多く見てきたと、しんみりと話した。そんな話を長々して哲二が株で儲けたので、そろそろ、神様に恩返ししないと罰が当たると思い始めてるというと言った。

 それなら山谷の食えない連中に飯を食わす手伝いをしてくれないかと信二が真面目な顔で言った。うちの店だけでは、とても無理だとこぼしていた。具体的に、どうすれば良いと哲二が聞くと、お前に金があるなら、うちの店に金だして俺が安い、賞味期限が短くなった物を仕入れてくるから、それを一般客には一定の利益を取って売り、その利益をさして、無料でできるだけ多くの食べ物を間違いなく食うに困ってる連中に分け与えてやるのさと言った。

 いくらくらいかかるかと聞くと月に30万円あれば、今、来てる連中を食わせて、うちの店も食っていけると言った。そうか考えて見ると哲二は答えた。そうして、飲み代を哲二が支払って、その話、面白そうなので、また連絡するよと別れた。
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