鑓水商人の子孫達

ハリマオ65

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3話:生糸の活況相場の終わり

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 その年、1887年に安田亀吉は47歳であったが、以前通りに稼いだ資産を全部、亀屋に投資して資産総額が9千円となった。その年何故か生糸相場も、もう終わりかなと感じて亀屋を退職し退職金も千円いただき亀屋を後にした。その時、18歳で気立ての良くて綺麗な同じ八王子出身の貧農の娘、内田衣子と仲良くなって亀屋を一緒に退職した。

 退職当時、安田亀吉は約1万円・現在の価値で5500万円の大金持ちになっていて橫浜の貸家を借りて2人で暮らすようになり商売を始め、タバコ屋を始めて、金物、書物、衣類、多くの製品を商う様になった。 その他に、生糸の商売をしている時に、知り合ったフランクリン商事のジェームズ加藤という日系人と親しくなり、ガム、チョコレート、ウイスキー、ブランデー、ワインの他、舶来のお菓子、雑貨も取り扱うようになって、商売も繁盛していた。

 その3年後、安田亀吉50歳、衣子21歳で男の子を授かり1894年5月15日、安田勝一が生まれた。安田商事での儲けは借家、店の賃料と不自由なく、食べられる程度で資産を増やすほどでもなかった。それから約2年後の1896年3月19日に次男、安田勝二が生まれ4人家族になった。

 そして明治32・1899年、後事を原富太郎に託して、恩人の原善三郎が72歳でこの世を去った。亀屋・原商事の実質的二代目となった富太郎は、生糸売込業のほか、明治33・1900年には絹物輸出業を兼営して、原商事を「原合名会社」に改組する。翌34(1901)年には生糸輸出業を始める。

 そして明治35・1902年9月には三井家が経営していた、富岡製糸場・名古屋製糸場・大島製糸場、三重製糸場を引き継いだ。原富太郎が製糸家として生きた20世紀前半は、日本製糸業にとって、波乱に満ちた時代であった。

 アメリカ向け輸出の比重を高めつつ成長をとげた日本製糸業は、人造絹糸レーヨンの実用化にともない、もっとも低廉な原料糸供給先である洋服の裏地や織物の縦糸からしめだされる。このことを背景に、1900~10年代には在来の手工業によって生み出される座繰糸が輸出品として適合しなくなり、日本の生糸相場の活況も完全に終わりを告げた。

 1900年になり息子の安田勝一、勝二が読み書きできる頃には自宅によく遊びに来たジェームス加藤に、お願いして、子供たちに簡単な英会話を教えてもらい英語の歌も覚えさせた。一方、日本の経済の歴史について振り返ってみると、明治維新後の1880年代後半に、日本で第一次産業革命が起こり、鉄道業と紡績業が中心の好景気が巻き起こり、企業勃興で株式会社の設立が流行った。

 日清戦争の時にどれくらいの賠償金がとれたかというと二億両と遼東半島還付金の三千万両、合わせて二億三千万両・約三億六千万円で、これはその頃の全国の会社の時価総額以上の金額。それを使用して前から、やりたいと思っていた金本位制を導入したり造船奨励法、航海奨励法によって造船業、航海業を推進していき、多くの銀行が設立され、積極的に融資が行われた。例えば各地の農工銀行が地域銀行として設立され、日本勧業銀行や日本興行銀行などの政府系金融機関もつくられました。そこが民衆に融資する事で日本の産業は育ち発展していった。

 しかし日露戦争では全く賠償金がとれなかったので国内の景気が落ち込み、日清戦争の賠償金を使って融資した会社がつぶれたり貸したお金の回収が困難になったりして1907年に米国から始まった恐慌が日本でも始まった。日本では日露戦争の後だったので戦後恐慌と呼ばれた。一方、退職後の安田家では1909年、安田亀吉の長男、勝一が元町中学2年、と次男の勝二が元町小学校の5年生になって、いたずら盛りで、喧嘩して生傷が絶えなかった。それでもジェームズ加藤に、英語の手ほどきを受けて、簡単な英会話をマスターし、算数は親譲りで2人共、計算が速かった。

 勝二は絵が上手で、山下公園やホテルニューグランドの絵を描いては、小学校で張り出されているようだった。1910年頃、フランクリン商事のジェームズ加藤が安田亀吉にヨーロッパでドイツとイギリスが対立して、何かあれば、戦争になるかも知れないと当時の世界情勢を教えてくれた。

 すると亀吉が戦争になれば、物資がいる、もし不足する物と言ったら、何かと聞くと、ジェームズ加藤が戦艦、つまり、船が足らなくなると答え、安田亀吉も確かにと相槌を打った。安田亀吉がジェームズ加藤に橫浜商人で船を売ってくれそうな人はいないかと聞くと、しばらく考えて、浅野総一郎が多くの船を持っていると言い、ぼろ船でも良いから1隻、2~3千円出すから買う交渉してくれないかと言った。彼は、わかったと言い、この話に乗ってきたら安田亀吉さんを浅野総一郎に会える様に手はずを整えると
言ってくれた。

 数日後、ジェームズ加藤が安田亀吉の所へ来て、この恐慌で、値段次第では2-3隻の船なら売っても良いと話したと連絡してきた。3日後1910年12月12日に安田亀吉が正装してジェームズ加藤と一緒に浅野セメントへ乗り込んだ。ノックをして部屋に入り、安田亀吉が挨拶をした後、浅野総一郎が安田亀吉の顔を見るなり、君、もしかして原善三郎の亀屋で働いていた番頭だろと言った。すると、はい、その通りですと答えると、それなら話は早い、ところで今日は何しに来たと聞くので使っていない船があったら買いたいというと、この不況のさなか、何故、船なんか買いたいのかと聞いたので、不況で安く手に入れる機会だからと言うと、生糸と同じで、暴落の時に買えと言うことかと笑った。

 いくら金を用意できるのかと聞いてたので、逆に浅野に、いくらなら売ってくれますかと迫った。何隻欲しいのかと聞くので2-3隻というと言うと何とかなるが1隻7千円と言うと冗談じゃないですよ、景気の良い時ならいざ知らず、今の不況では高過ぎます、5千円なら買うと言うと手形は何日かと聞くので、今、亀屋を辞めていますので手形は使えないので現金ですと、言うと、浅野の顔色が変わり現金かと、ほくそ笑んだのを見逃さなかった。
 
 安田亀吉は、もちろん船員もつけて下さるんでしょうねと言うと、大笑いして亀屋の番頭はきつい商売する男だと聞いていたが厳しいなと言い、わかった人助けだと思って、その条件を飲もうと言った。その後、すぐに契約書を交わして3隻の船と航海士3人と3人の船乗りをつけてくれた。今年中に入金しろと浅野が言うと、きつい商売しても約束は絶対破りませんと啖呵を切って、固い握手を交わし、浅野セメントを後にした。
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