薔薇紳士の興じ事

世万江生紬

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朝起きると

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 カランカラン

「わー薔薇紳士さん、お疲れ様でーす!」

本日元気に店の扉を開けたのは悩みを抱えるお客様、ではなく、このお店のバイト店員です。

「うーん!テスト終わったし解放感!今日からバイトで稼ぐぞー!」

バイトの野咲いちごは田舎出身ですが高校進学に合わせて一人暮らしをしており、生活費のために当店で働いています。今日までテスト週間だったのでバイトをお休みしていましたが、今日からバイトも再開です。

「薔薇紳士さん、自分いなくても大丈夫でしたか?」

「ふふ、やはり君がいないと活気がなかったですかね。」

「嬉しいこと言ってくれますね。」

いちごはバイトの制服に着替えながら楽しそうに談笑します。いちごは紅茶やコーヒーを淹れることは出来ないので、主な仕事は配膳や掃除です。しかし今日はお客様も来店されていないので特にすることもありません。

「うーん、お客様が来ないとすることもないですね。そうだ、薔薇紳士さん、何かお話してください。」

「おやおや、随分な無茶ぶりですね。急に話をしろ、だなんて。」

「ええー、お願いしますよ。薔薇紳士さんのお話好きなんですよ。」

「ふむ...。では今日の夢の話など。とても穏やかな夢でしたよ。あたり一面に綺麗な花々が咲いているのです。天国かと見間違うほど綺麗な場所でした。蝶々や小鳥など美しい生き物たちも自由に過ごしていて、天気も心地よく花畑なのに微かに香るコーヒーの匂いが何とも癒されるのです。」

「なんか本当に天国みたいな場所ですね。薔薇紳士さん死んでないですよね?」

「ふふっ、死んでいませんよ。でも死ぬならこういった場所で息を引き取りたいと思うほどには美しく心地よい場所でした。私は花の上に寝転がり、鼻歌なんかを歌いながらぼんやりと雲を眺めていました。ずっとこの時間が続けばいいな、と思いながら...。」

「それで、どうなったんですか。」

「ふふ、いちごくん、朝起きると、夢から覚めているものなんですよ。」

そう言うと薔薇紳士はいつの間にか淹れていた良い香りのする紅茶をいちごの前にコトリと置きました。いちごは紅茶をゆっくりと飲むと、フーッと息を吐きました。

「そうですよね、どんなに素敵な夢も、朝起きると覚めちゃうんですよね。」

「確かに夢からは覚めてしまいますが、いつまでも夢の中の素敵な世界だけを見るわけにはいきませんから。今日もお客様のためにこのお店を開けなければいけないですしね。」

「...そうですね。よし、自分店の外掃除してきます!」

 今日はお客様も来店されず穏やかな一日でした。しかしいちごとのちょっとした談笑も、とても楽しい時間の過ごし方だと思うのでした。
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