薔薇紳士の興じ事

世万江生紬

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夢の中で笑う君は

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 カランカラン

「いらっしゃいませ。」

ここは悩みを抱えるお客様が来店される喫茶店。今日も浮かない顔をされたお客様が来店されました。

「どうぞこちらのお席へ。」

「あ、ありがとうございます。」

この喫茶店の店主、薔薇紳士はお客様をカウンター席に案内します。
本日のお客様は四十代後半くらいの女性。家族の分でしょうか、かなり大きな買い物袋を持っています。髪は短く清潔に、服装は動きやすさ重視といった生活感溢れる女性です。

「お子様がおられるのですか?」

薔薇紳士は買い物袋を見て問いました。

「あ、そうなんです子どもは3人いて…ふふ、毎日賑やかなんです。」

女性は柔らかく笑います。家族との生活に幸せを感じているようです。

「ご家族と幸せに暮らしているようですね。しかし、失礼ながら少し浮かない顔をしているように見えるのですが…。」

「あら、分かるんですか、凄いですね。なんというか大したことないんですけど…。」

「口に出すとすっきりするかもしれません。私めで宜しければ、お話聞かせていただけませんか?それから…お名前、お聞きしても?」

薔薇紳士は女性の前に紅茶を置きながらそう言いました。その声色は決して強要する訳ではなく、ただ優しさから出た言葉のようで、女性もなんの躊躇いもなく口を開きます。

「私の名前、高橋百合と言います。その、私2年前に母を亡くしてまして…。そこそこ高齢だったのでそこまで悲しくはなかったんですけど。その、今日夢で母に会いまして。夢の中とはいえ笑ってる母に会えたので、なんかボーッとしちゃったというか、あはは。」

「なるほど、夢の中でお母様に会えたのですね。」

「えぇ、でもなんか死んだ人に会っちゃうと離れがたくなるっていうか、逆に辛いっていうか…なんか変な感じで。」

百合はそこまで話すと紅茶を一口飲みました。まるで自分の気持ちを整理するかのように。

「差し出がましいようですが…一言、よろしいですか?」

「?はい?」

黙って百合の話を聞いていた薔薇紳士はそう言うと百合の目を真っ直ぐに見つめました。

「夢の中で笑っていたお母様は、笑顔だったんじゃないですか?」

薔薇紳士の言葉を聞いた百合は下を向きカップに入った紅茶を見つめました。

「笑顔…そうですね、母は笑顔でした。笑顔だったんです…。」

「それはきっと愛する娘に夢の中でも会うことが出来た喜びの現れだと思いますよ。」

「…ふふ、そうですね、お母さんも私に会いたかったんですかね。店主さんありがとうございます。私、帰ります。無性に子どもたちに会いたくなったので。」

そう言うと百合は足早に帰っていきました。
母親として、愛する子どもに会うために。



 笑っていれば笑顔になれます。その笑顔はきっと誰かを幸せに出来ます。さぁ笑って見てください。きっと幸せに感じる笑顔になれます。

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