薔薇紳士の興じ事

一人より二人の方が

　カランカラン　　

「いらっしゃいませ。」

「いらっしゃいま...ってあれ？瑞希ちゃん？」

ここは悩めるお客様が来店される喫茶店。本日のお客様はアルバイトの野咲いちごの知り合いのようです。学生服を着ているので同じ学校の生徒のようですが、学生服とは不釣り合いな大きな袋を三つも持っています。余程重いのでしょう、持っていた手は赤くなっていますし、服も髪も軽く乱れています。

「いちご君、お知合いですか？」

「はい！自分の通う学校の生徒会長さんです！あと同じクラスのお友達です。」

「あ、どうも、私は神崎瑞希です。いちごちゃん、この喫茶店で働いてたの？」

瑞希は荷物をよっこいしょと重たそうに置き、自分も席に座りながらいちごに話しかけます。

「うん、生活費稼がなきゃだから。あはは。そういう瑞希ちゃんはどうしてここに？」

「私は生徒会のおつかい。先生に頼まれて備品とか色々買ってきたんだけど、さすがに重いから休憩しようと思って。」

薔薇紳士はいちごと話す瑞希の前に、疲れをいやす紅茶をコトリと置きました。

「神崎様は学校のために献身的なのですね。ですがその荷物、一人で運ぶにはいささか多すぎるような気がするのですが。」

「そうかもしれないですね...。でも先生に頼まれた時、生徒会の他のメンバーはどこにいるか分からなかったし、人数多いと移動も買い物プランもまとまらないから、一人の方が早いんですよね。」

そう言うと瑞希は薔薇紳士の淹れた紅茶をこくりと飲みます。薔薇紳士はそんな疲れた様子の瑞希を見て、ゆっくりと口を開きます。

「神崎様、確かに神崎様はお一人で何でもこなせてしまう、優秀な方だと思います。ですが、何をする時も一人より二人の方が人数が多いんですよ。...生徒会のメンバーはあなたの頼れる仲間なのでしょう？」

「そうだよ瑞希ちゃん、こんなに重たい荷物を一人で運ぶなんて...。生徒会のみんなは瑞希ちゃんが困ってたら手貸してくれると思うよ？」

瑞希は薔薇紳士といちごの言葉を聞き、少し迷ったような顔をしていましたが、いちごの熱意に負け「分かった」と生徒会のメンバーの一人に電話を掛けました。

『もしもし会長？どうしたの？』

「あ、あのね今先生に頼まれた備品買いに来たんだけど、その、荷物が結構重くて。今一旦喫茶店で一休みしてるんだけど、もしよければ手伝ってくれないかなって...。」

『え！？もっと早く言ってよ！他のメンバー連れてすぐ行くから！場所教えて！』

電話から漏れ聞こえるほど大きな声に、薔薇紳士といちごは少し笑いました。そして場所を伝え電話を切った瑞希も、思わず笑っていました。

「なんか、何のためらいもなくすぐ行くって言われちゃいました...。あはは。こんなにすぐ反応してくれるなら、最初から頼めばよかったのに、私馬鹿ですね。」

「普段から神崎様は一人で頑張ろうとしてしまうんでしょうね。そしてそれに生徒会の方々も気づいている。だから神崎様に頼ってもらえたことが純粋に嬉しかったんじゃないですかね。」


その後、瑞希は迎えに来た生徒会のメンバーと大きな袋を分け合い、一人一つ小さな袋を持って帰っていきました。薔薇紳士といちごはそんな後ろ姿を見送りながら話します。

「瑞希ちゃん、生徒会長になってから、なんでも頑張らなきゃってすごく切り詰めてたんですよねー。でも、明日からは生徒会のみんなと一緒に頑張ってる気がします。何となくですけど。」

「ふふ。そうですね。私もそう思います。」


　一人より二人の方が人数が多い。だから一人では重たいものも、二人なら軽くなる。一人で頑張っている人も、ふと周りを見てみてください。自分のことを見ていてくれる人は、いませんか？