8 / 79
序章は単なる
しおりを挟む
カランカラン
「いらっしゃいませ。」
「いらっしゃいま...ええ...。」
ここは悩みを抱えるお客様が来店される喫茶店。今日も悩みを抱えるお客様が来店されました。
「うう...こんな僕にでも『いらっしゃいませ』と言ってくれる世界、眩しすぎる...。」
本日のお客様は、ひげも髪も伸ばしっぱなし、服もよれよれで表情も暗く、顔色も悪い、ふらふらな男性でした。年齢はまだ若いようで、身なりを整えれば清潔な青年に見えそうです。
「ええっと、とりあえずこちらの席へどうぞ。」
お客様の癖の強い言動に戸惑いながらも、いちごが席へ案内します。
「あぁ~ありがとう、優しい、人間が優しくて泣く...。」
「ここで泣かないでくださいね?」
お客様の言動に、高すぎる適応力で適応したいちごは冷静に対応します。
「えーっと、それで、お客様はなんでそんなに人間の優しさに飢えているんですか?」
「別に優しさに飢えてるわけじゃないけど、よく聞いてくれたね、店員さん。僕は実は作家なんだ。駆け出しだけど本は出してる。聞いたことない?夏目莇って名前。」
「自分本あんまり読まないので...というか莇ってかわいい名前ですね。」
「女性っぽい名前だけど、僕は気に入ってるよ、親がつけてくれた大事な名前だからね。あとなんか珍しい名前って格好いいから!」
莇は表情、というよりも情緒をコロコロ変えながらいちごと話します。
「それで、えーっと、編集の人からの締め切り地獄のせいで参ってる、とかですか?」
「君は適応力だけじゃなくて理解力まで優れてるんだね!そう、そうなんだよ!担当編集からの進捗確認や締め切りの圧力がしんどくて...でも、問題はそれだけじゃないんだ...。」
「書きたいと思うお話そのものが考えられないのではないですか?」
薔薇紳士が莇の前に紅茶をコトリと置きながら話に入ります。
「そう...そうなんですよ!もう僕の頭の中の夢物語は終焉を迎えた!新しい世界を一から作ることは砂漠の中でオアシスを探すがごとくロマンはあるが、同時に見つかるか分からない恐怖も伴う!」
「作家ってそういう物語を作る職業なんじゃないんですか?それが無理ならどうして作家になったんですかぁ。」
「ふはは、僕は元々小説投稿サイトで自由気ままに書きたい話だけを書いていたのだよ。ただ、たまたま才能があったらしく小説ランキングは常に上位!いいね評価をくれるファンは三桁を超えた!だから編集者の方が目をつけてくれてね。大学卒業控えてて、特に就職してやりたいこともなかったから作家の道に入ったがいいものの、駆け出しとはいえ、出版されたのはたった一冊。そしてそれから書きたい話が思いつかなくなったのだよ...。あぁ!僕の物語の序章はすでに破滅へと向かっている!」
悲しんだかと思えば高笑いをし、莇は自分の悩みを打ち明けます。それを黙って聞いていた薔薇紳士は高ぶっている莇の手を優しく取り、まっすぐに見つめて言います。
「夏目様、今のあなたの物語の序章は破滅に向かっているのかもしれません。ですが、序章というのは単なるプロローグに過ぎない。エピローグまで、まだ物語は続くのですよ。」
薔薇紳士の言葉を聞いた莇はハッとした顔をするとスクッと立ち上がりました。
「店主さん...僕書きたいことを思いついたので帰ります。それと、すみません、ボーっと家を出たので紅茶の代金持ってないです。」
「え!?お金ないのに喫茶店に入ったんですか!?」
いちごが驚きのあまり大きな声を上げます。ですが薔薇紳士はどこか笑いながら莇の言葉を聞いています。
「これから書く話、絶対本にします。そして本が出版されたら、紅茶代と一緒にここに持ってきます。だから...」
「はい、お待ちしております。」
莇の言葉を優しく遮り、薔薇紳士は返事をします。そしてその返事を聞いた莇は笑顔で走り去っていきました。
物語の序盤が悲劇でも、終盤にはハッピーエンドになることもあります。物語とは終始何があるか分からないのです。最初の辛い展開だけを見て、悲劇と決めつけてしまうのは少しもったいないと思いませんか。どこでハッピーエンドに繋がるかなんて、作者にだって分からないのですから。
「いらっしゃいませ。」
「いらっしゃいま...ええ...。」
ここは悩みを抱えるお客様が来店される喫茶店。今日も悩みを抱えるお客様が来店されました。
「うう...こんな僕にでも『いらっしゃいませ』と言ってくれる世界、眩しすぎる...。」
本日のお客様は、ひげも髪も伸ばしっぱなし、服もよれよれで表情も暗く、顔色も悪い、ふらふらな男性でした。年齢はまだ若いようで、身なりを整えれば清潔な青年に見えそうです。
「ええっと、とりあえずこちらの席へどうぞ。」
お客様の癖の強い言動に戸惑いながらも、いちごが席へ案内します。
「あぁ~ありがとう、優しい、人間が優しくて泣く...。」
「ここで泣かないでくださいね?」
お客様の言動に、高すぎる適応力で適応したいちごは冷静に対応します。
「えーっと、それで、お客様はなんでそんなに人間の優しさに飢えているんですか?」
「別に優しさに飢えてるわけじゃないけど、よく聞いてくれたね、店員さん。僕は実は作家なんだ。駆け出しだけど本は出してる。聞いたことない?夏目莇って名前。」
「自分本あんまり読まないので...というか莇ってかわいい名前ですね。」
「女性っぽい名前だけど、僕は気に入ってるよ、親がつけてくれた大事な名前だからね。あとなんか珍しい名前って格好いいから!」
莇は表情、というよりも情緒をコロコロ変えながらいちごと話します。
「それで、えーっと、編集の人からの締め切り地獄のせいで参ってる、とかですか?」
「君は適応力だけじゃなくて理解力まで優れてるんだね!そう、そうなんだよ!担当編集からの進捗確認や締め切りの圧力がしんどくて...でも、問題はそれだけじゃないんだ...。」
「書きたいと思うお話そのものが考えられないのではないですか?」
薔薇紳士が莇の前に紅茶をコトリと置きながら話に入ります。
「そう...そうなんですよ!もう僕の頭の中の夢物語は終焉を迎えた!新しい世界を一から作ることは砂漠の中でオアシスを探すがごとくロマンはあるが、同時に見つかるか分からない恐怖も伴う!」
「作家ってそういう物語を作る職業なんじゃないんですか?それが無理ならどうして作家になったんですかぁ。」
「ふはは、僕は元々小説投稿サイトで自由気ままに書きたい話だけを書いていたのだよ。ただ、たまたま才能があったらしく小説ランキングは常に上位!いいね評価をくれるファンは三桁を超えた!だから編集者の方が目をつけてくれてね。大学卒業控えてて、特に就職してやりたいこともなかったから作家の道に入ったがいいものの、駆け出しとはいえ、出版されたのはたった一冊。そしてそれから書きたい話が思いつかなくなったのだよ...。あぁ!僕の物語の序章はすでに破滅へと向かっている!」
悲しんだかと思えば高笑いをし、莇は自分の悩みを打ち明けます。それを黙って聞いていた薔薇紳士は高ぶっている莇の手を優しく取り、まっすぐに見つめて言います。
「夏目様、今のあなたの物語の序章は破滅に向かっているのかもしれません。ですが、序章というのは単なるプロローグに過ぎない。エピローグまで、まだ物語は続くのですよ。」
薔薇紳士の言葉を聞いた莇はハッとした顔をするとスクッと立ち上がりました。
「店主さん...僕書きたいことを思いついたので帰ります。それと、すみません、ボーっと家を出たので紅茶の代金持ってないです。」
「え!?お金ないのに喫茶店に入ったんですか!?」
いちごが驚きのあまり大きな声を上げます。ですが薔薇紳士はどこか笑いながら莇の言葉を聞いています。
「これから書く話、絶対本にします。そして本が出版されたら、紅茶代と一緒にここに持ってきます。だから...」
「はい、お待ちしております。」
莇の言葉を優しく遮り、薔薇紳士は返事をします。そしてその返事を聞いた莇は笑顔で走り去っていきました。
物語の序盤が悲劇でも、終盤にはハッピーエンドになることもあります。物語とは終始何があるか分からないのです。最初の辛い展開だけを見て、悲劇と決めつけてしまうのは少しもったいないと思いませんか。どこでハッピーエンドに繋がるかなんて、作者にだって分からないのですから。
0
あなたにおすすめの小説
課長と私のほのぼの婚
藤谷 郁
恋愛
冬美が結婚したのは十も離れた年上男性。
舘林陽一35歳。
仕事はできるが、ちょっと変わった人と噂される彼は他部署の課長さん。
ひょんなことから交際が始まり、5か月後の秋、気がつけば夫婦になっていた。
※他サイトにも投稿。
※一部写真は写真ACさまよりお借りしています。
敗戦国の姫は、敵国将軍に掠奪される
clayclay
恋愛
架空の国アルバ国は、ブリタニア国に侵略され、国は壊滅状態となる。
状況を打破するため、アルバ国王は娘のソフィアに、ブリタニア国使者への「接待」を命じたが……。
Husband's secret (夫の秘密)
設楽理沙
ライト文芸
果たして・・
秘密などあったのだろうか!
むちゃくちゃ、1回投稿文が短いです。(^^ゞ💦アセアセ
10秒~30秒?
何気ない隠し事が、とんでもないことに繋がっていくこともあるんですね。
❦ イラストはAI生成画像 自作
秋月の鬼
凪子
キャラ文芸
時は昔。吉野の国の寒村に生まれ育った少女・常盤(ときわ)は、主都・白鴎(はくおう)を目指して旅立つ。領主秋月家では、当主である京次郎が正室を娶るため、国中の娘から身分を問わず花嫁候補を募っていた。
安曇城へたどりついた常盤は、美貌の花魁・夕霧や、高貴な姫君・容花、おきゃんな町娘・春日、おしとやかな令嬢・清子らと出会う。
境遇も立場もさまざまな彼女らは候補者として大部屋に集められ、その日から当主の嫁選びと称する試練が始まった。
ところが、その試練は死者が出るほど苛酷なものだった……。
常盤は試練を乗り越え、領主の正妻の座を掴みとれるのか?
お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます
菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。
嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。
「居なくていいなら、出ていこう」
この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
