薔薇紳士の興じ事

努力を続ければ

　カランカラン

「いらっしゃいませ。」

　ここは悩めるお客様が来店される喫茶店。本日のお客様は女子高校生。スカートは短く折り、薄くメイクをし、シュシュで髪を結っている、少し派手な印象のある女の子です。

「店主さーん、ここって居座っちゃって大丈夫な感じですかー？」

「構いませんよ、ごゆっくりなさって下さい。」

「ありがとーございまーす。」

女の子はそう言うと薔薇紳士の前のカウンター席にドカッと座りました。そして席に着くや否や

「ああぁぁぁぁぁぁぁ！」

とどこか疲れ切ったような声を上げました。

「どうかされたのですか？」

「店主さーん聞いてくださいよー。今日中間テストだったんですよー。」

今の時期、学生はテスト真っ盛りです。この喫茶店のアルバイトの野咲いちごも、高校生であるためテスト休みをしています。

「おや、自信がないのですか？」

「そう、そうなの。けっこー頑張ったと思ってたのになぁ...。あ、そうだアタシ東堂さゆりって言うんですけど、ちょっと話きいてくれませーん？」

「ええ、お聞きしましょう。」

「あはっ、店主さん優しー。あのね、アタシ別に将来やりたいことか無いし、なんかつまらなくてちょっと前まで結構馬鹿やっててね。でも最近お母さんが倒れたんだー。別に大したことなかったんだけど、その時なんかすごい怖くなっちゃって。このまま馬鹿やってていいのかなって思って。だから心機一転、勉強いっちょ頑張ろ！って思って。」

薔薇紳士は紅茶を淹れながら、さゆりの話を黙って聞いています。

「でもさ、そう急には頭よくなんてならないよね。これでも毎日結構頑張ってるんだよ。授業真面目に聞いて、分からないとこあったら先生に聞いて、家に帰ったら予習復習...。でも結果が出ないんだー。努力しても結果が出ないとさすがに凹む。」

さゆりは明るい口調で話してはいますが、心が参っている様子が隠しきれません。その様子を見た薔薇紳士は、さゆりの前にコトリと淹れたばかりの紅茶を置きました。

「東堂様、私は学生ではないのでその辛さを分かってあげることはできません。ですが、一言だけ、良いですか？」

「ん？どうぞです。」

「努力を続けていれば、努力家になれます。結果はすぐに出なくても、あなたは頑張れる人になれる。やれば出来ることがすごいんじゃないんです。やろうと思える、頑張ろうと思えることが大事なんです。頑張ろうと思えなければ絶対に伸びることなんてありませんから。」

薔薇紳士はそう言うとさゆりの目を見つめました。

「頑張ろうと思える努力家...アタシ、努力家になれてますか？」

「ええ、あなたは努力をしようとしている、そして結果が出ないことに心の底から悔しいと思えている。努力家になれたあなたはこれから確実に伸びると、私は思いますよ。」

「...へへ。店主さん、アタシ今日のテストのとこ復習する。ここで勉強していー？」

「ええ、もちろんです。勉強を頑張れる紅茶を淹れましょう。」


　努力をしても100％成果が出るとは限りません。頑張っても頑張っても結果にならないこともあるでしょう。でも、頑張ったという経験は確実に自分の力になっています。頑張ることすら諦めた人は絶対に伸びることは無いのですから、頑張れる努力家の人はこれから伸びる力を、確実に身につけているのです。