薔薇紳士の興じ事

世万江生紬

文字の大きさ
19 / 79

イルミネーションの前に立つ君は

しおりを挟む
 カランカラン

 「いらっしゃいませ。」

「いらっしゃいませ~。」

ここは悩めるお客様が来店される喫茶店。本日はサラリーマンでしょうか、スーツを来た若い男性が来店されました。少しだけ頼りないような、それでいていざという時には男らしさを見せてくれそうな、優しい顔の男性です。

「こっちの席へどうぞ。」

「あ、ありがとうございます。」

この店のバイトの野崎いちごは男性をカウンター席に案内します。男性は席に座るやいなや、真剣な顔で雑誌を見つめました。

「お兄さんそんな真剣な顔で何見てるんですか?」

「え?ああ、実はね、僕今気になってる女性がいてね、今度その女性と出かけることになったんだ。だから行く場所を決めたいと思って。」

「え!それってデートですか!?デートの場所を調べてるんですね!素敵です!自分もその雑誌見てもいいですか?」

「もちろん、あ、なら君みたいな若い子の意見も聞かせてくれる?」

「いいですよ!君、じゃなくて、自分はいちごって言います。野咲いちごです。」

「いちごちゃん。あ、僕は江口浩と言います。それで、場所なんだけど…。」

いちごと浩は楽しそうにデートスポットを探します。その様子を見ながら紅茶を淹れていた薔薇紳士は2人の会話の邪魔をしないようにそっと紅茶を差し出します。

「あ、薔薇紳士さん!薔薇紳士さんも意見ください~。」

「おや、お邪魔しないようにしていたのですが…。」

「店主さんも何かオススメの場所とかあったら教えて欲しいです!」

2人に期待に満ちた目を向けられ、薔薇紳士は真剣に考えます。

「そうですね…ではこの時期ですし、イルミネーションはどうでしょう?イルミネーションの前に立つ女性は、きっといつもより眩しく見えるはずですよ。」

「なるほど、確かにイルミネーションスポットとか女性は好きなイメージあります!」

「いつもより眩しく見えちゃったら…浩さんその方のこともっと好きになっちゃうかもですね!」

いちごは少し意地悪に笑います。

「っ…!い、いや、彼女のこともっと好きになれば…こ、告白とかも考えたり…」

「わぁぁ!甘酸っぱいー!」

浩は素直に顔を赤くし照れます。その顔を見たいちごも顔を赤くしてピンクの声を上げます。

「ふふ…お出かけ、素敵なものになるといいですね。」

薔薇紳士は、2人の楽しそうな様子を、笑顔でゆっくりと見守るのでした。



 好きな人を見ると、いつもより眩しく見える。そんな甘酸っぱい経験。でもそんな、好きな人と楽しい経験を共にすれば、もっともっと自分の中で眩しく感じてしまうのではないでしょうか。
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

吊るされた少年は惨めな絶頂を繰り返す

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

課長と私のほのぼの婚

藤谷 郁
恋愛
冬美が結婚したのは十も離れた年上男性。 舘林陽一35歳。 仕事はできるが、ちょっと変わった人と噂される彼は他部署の課長さん。 ひょんなことから交際が始まり、5か月後の秋、気がつけば夫婦になっていた。 ※他サイトにも投稿。 ※一部写真は写真ACさまよりお借りしています。

敗戦国の姫は、敵国将軍に掠奪される

clayclay
恋愛
架空の国アルバ国は、ブリタニア国に侵略され、国は壊滅状態となる。 状況を打破するため、アルバ国王は娘のソフィアに、ブリタニア国使者への「接待」を命じたが……。

Husband's secret (夫の秘密)

設楽理沙
ライト文芸
果たして・・ 秘密などあったのだろうか! むちゃくちゃ、1回投稿文が短いです。(^^ゞ💦アセアセ  10秒~30秒?  何気ない隠し事が、とんでもないことに繋がっていくこともあるんですね。 ❦ イラストはAI生成画像 自作

秋月の鬼

凪子
キャラ文芸
時は昔。吉野の国の寒村に生まれ育った少女・常盤(ときわ)は、主都・白鴎(はくおう)を目指して旅立つ。領主秋月家では、当主である京次郎が正室を娶るため、国中の娘から身分を問わず花嫁候補を募っていた。 安曇城へたどりついた常盤は、美貌の花魁・夕霧や、高貴な姫君・容花、おきゃんな町娘・春日、おしとやかな令嬢・清子らと出会う。 境遇も立場もさまざまな彼女らは候補者として大部屋に集められ、その日から当主の嫁選びと称する試練が始まった。 ところが、その試練は死者が出るほど苛酷なものだった……。 常盤は試練を乗り越え、領主の正妻の座を掴みとれるのか?

おじさん、女子高生になる

一宮 沙耶
大衆娯楽
だれからも振り向いてもらえないおじさん。 それが女子高生に向けて若返っていく。 そして政治闘争に巻き込まれていく。 その結末は?

お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます

菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。 嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。 「居なくていいなら、出ていこう」 この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

処理中です...