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君からもらったプレゼントは
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カランカラン
「いらっしゃいませ。」
「いらっしゃいませ~。」
ここは悩めるお客様が来店される喫茶店。本日のお客様は落ち着いた雰囲気のある女性。40代後半くらいでしょうか、目元や口元にしわが見られますが、服装もメイクも丁寧に整えられ見た目より年齢が高いかもしれません。
「こんにちは。…この席座って良いかしら?」
「はい、どこでもいいですよ!」
「ありがとう、可愛らしい定員さんね。」
「あはは、ありがとうございます。それでおば様は何を飲みますか?オススメは紅茶ですよ。」
「そうね、せっかくオススメされたし、紅茶頂こうかしら。」
いちごの人を絆す雰囲気や話し方に、女性はすぐに心を許します。いちごも女性の優しい雰囲気に親しみを持ちます。もっと女性とお近付きになろうと1歩踏み出すと、女性のもつ紙袋の中に、なにかプレゼントのようなものが入ってるのを見つけました。
「あれ?おば様その袋、プレゼントですか?」
「え?あぁ…これね、実は今日結婚記念日なの。それで主人とランチしてた時に、はいってね。ふふ、ぶっきらぼうに渡すんだから笑っちゃったわ。」
「えぇー!素敵!なんか、素直になれないけど気持ちだけは伝えたくてプレゼント渡すなんて理想の夫婦って感じです!ね、薔薇紳士さん!」
「ええ、私も素敵だと思います。結婚記念日のプレゼントは普段のものとは違う印象がありますから。…はい、結婚記念日を祝福してグランドウェディングティーというものを淹れてみました。よろしければ。」
「あら、ありがとう。」
女性はそう言うと、薔薇紳士がそっと差し出した紅茶を1口飲みました。女性が紅茶を楽しむ間いちごはふと疑問を感じました。
「あれ?でもまだ夕方だし…旦那さんは一緒じゃないんですか?」
「あら、気づいちゃった?…何でだと思う?」
「え…まさか喧嘩とか…」
いちごがそう呟いた時、カランカランとドアを開ける音がしました。
「美沙…先に注文したのか。」
「貴方、思ってたより早かったわね。 せっかく可愛らしい店員さんをからかっていたのに。」
悪戯っぽく笑う美沙に、いちごはハッとした顔をします。
「喧嘩別れしたのかと思ったのに!からかってたんですねおば様!…まあでもそういう訳じゃなくて良かったですけど。」
少し拗ねたいちごを不思議な顔で見ながらお店に入ってきたのは美沙の旦那さんです。旦那さんがお仕事の電話をしている間に、美沙は先にお店に入っていただけでした。
「ふふ、ごめんなさいね、店員さん。あんまり可愛らしかったものだから。」
「も~。」
「いちご君、拗ねていないで旦那様にこちらの紅茶をお出ししてください。」
美沙に向かって頬をふくらませるいちごに、薔薇紳士が紅茶を渡します。
「はーい、旦那さん、どーぞ。…旦那さんっていうのもあれだな…お名前なんて言うんですか?」
「これはこれは、美沙がからかいたくなるのも分かるな。俺は玉舘貴大って言います。」
「貴大さん、おば様は美沙って呼ばれてましたから美沙さんですね。そういえば、今日お2人結婚記念日だって聞きました、おめでとうございます!」
「美沙…お前そんなことまで喋ったのか。」
「あら、だって言わないとこれ開けられないじゃない。」
美沙はそう言うと紙袋に入ったプレゼントをカウンターに置きました。
「開けられないってどういうことですか?美沙さん。」
「恥ずかしい話なのだけど…これを主人と2人の時や1人でいる時に開けるのが少し怖くて。誰かと一緒に開けたいなって思ったの。だからこのお店に入ってみたのよ。」
「怖がるようなものは入ってないって言ったんだがな…。」
「あら、今までの結婚記念日にプレゼントなんてくれなかった夫が20年目で初めてくれたものよ?ありえないとは思っても離婚届とかだったら私ショックで寝込んでしまうわ。だから店員さん、一緒に開けてくださる?」
「分かりました!では!」
いちごはそう元気よく言うと、美沙と一緒にリボンを解きました。すると中には可愛らしいネックレスが入っていました。それは美沙くらいの年齢の女性が付けるには少し若々しい印象のあるものでした。
「…どんなのが良いとか分からないから、店員さんに言われるがままにそれにしたんだ。…離婚なんてするもんか。今度それつけて一緒に出かけるぞ。」
「あら…うふふ、ありがとう。昔からプレゼント選ぶセンスはなかったけど、今も変わらないわね。このデザイン可愛らしすぎ。」
「ほっとけ。…なんかすみませんね、店員さん。巻き込んでしまって…。」
「そんな!素敵な時間でしたよ!キュンキュンです!」
いちごはそういうと赤くした顔に手を当てます。
「私も、素敵な場面にご一緒させて貰いました。…旦那様からもらったプレゼントは、まるで贈り物のようですね、美沙様。」
「…ふふ、そうね、生きていてよかったって思えるくらいには素敵な贈り物だったわ。…ありがとう。」
「ふん…こちらこそな。」
玉舘夫妻はその後、2人でゆっくり新婚の頃からの思い出話に花を咲かせ、満足するとお礼を言って帰って行きました。その寄り添う背中を、薔薇紳士といちごは微笑ましく見送りました。
プレゼントされたものというのは、好みでなくても、似合わなくても、その人のことを想って選んだものなら大切な贈り物です。それは、ただ想いのこもったものというだけでなく、その思い出も大切な贈り物になるのです。
「いらっしゃいませ。」
「いらっしゃいませ~。」
ここは悩めるお客様が来店される喫茶店。本日のお客様は落ち着いた雰囲気のある女性。40代後半くらいでしょうか、目元や口元にしわが見られますが、服装もメイクも丁寧に整えられ見た目より年齢が高いかもしれません。
「こんにちは。…この席座って良いかしら?」
「はい、どこでもいいですよ!」
「ありがとう、可愛らしい定員さんね。」
「あはは、ありがとうございます。それでおば様は何を飲みますか?オススメは紅茶ですよ。」
「そうね、せっかくオススメされたし、紅茶頂こうかしら。」
いちごの人を絆す雰囲気や話し方に、女性はすぐに心を許します。いちごも女性の優しい雰囲気に親しみを持ちます。もっと女性とお近付きになろうと1歩踏み出すと、女性のもつ紙袋の中に、なにかプレゼントのようなものが入ってるのを見つけました。
「あれ?おば様その袋、プレゼントですか?」
「え?あぁ…これね、実は今日結婚記念日なの。それで主人とランチしてた時に、はいってね。ふふ、ぶっきらぼうに渡すんだから笑っちゃったわ。」
「えぇー!素敵!なんか、素直になれないけど気持ちだけは伝えたくてプレゼント渡すなんて理想の夫婦って感じです!ね、薔薇紳士さん!」
「ええ、私も素敵だと思います。結婚記念日のプレゼントは普段のものとは違う印象がありますから。…はい、結婚記念日を祝福してグランドウェディングティーというものを淹れてみました。よろしければ。」
「あら、ありがとう。」
女性はそう言うと、薔薇紳士がそっと差し出した紅茶を1口飲みました。女性が紅茶を楽しむ間いちごはふと疑問を感じました。
「あれ?でもまだ夕方だし…旦那さんは一緒じゃないんですか?」
「あら、気づいちゃった?…何でだと思う?」
「え…まさか喧嘩とか…」
いちごがそう呟いた時、カランカランとドアを開ける音がしました。
「美沙…先に注文したのか。」
「貴方、思ってたより早かったわね。 せっかく可愛らしい店員さんをからかっていたのに。」
悪戯っぽく笑う美沙に、いちごはハッとした顔をします。
「喧嘩別れしたのかと思ったのに!からかってたんですねおば様!…まあでもそういう訳じゃなくて良かったですけど。」
少し拗ねたいちごを不思議な顔で見ながらお店に入ってきたのは美沙の旦那さんです。旦那さんがお仕事の電話をしている間に、美沙は先にお店に入っていただけでした。
「ふふ、ごめんなさいね、店員さん。あんまり可愛らしかったものだから。」
「も~。」
「いちご君、拗ねていないで旦那様にこちらの紅茶をお出ししてください。」
美沙に向かって頬をふくらませるいちごに、薔薇紳士が紅茶を渡します。
「はーい、旦那さん、どーぞ。…旦那さんっていうのもあれだな…お名前なんて言うんですか?」
「これはこれは、美沙がからかいたくなるのも分かるな。俺は玉舘貴大って言います。」
「貴大さん、おば様は美沙って呼ばれてましたから美沙さんですね。そういえば、今日お2人結婚記念日だって聞きました、おめでとうございます!」
「美沙…お前そんなことまで喋ったのか。」
「あら、だって言わないとこれ開けられないじゃない。」
美沙はそう言うと紙袋に入ったプレゼントをカウンターに置きました。
「開けられないってどういうことですか?美沙さん。」
「恥ずかしい話なのだけど…これを主人と2人の時や1人でいる時に開けるのが少し怖くて。誰かと一緒に開けたいなって思ったの。だからこのお店に入ってみたのよ。」
「怖がるようなものは入ってないって言ったんだがな…。」
「あら、今までの結婚記念日にプレゼントなんてくれなかった夫が20年目で初めてくれたものよ?ありえないとは思っても離婚届とかだったら私ショックで寝込んでしまうわ。だから店員さん、一緒に開けてくださる?」
「分かりました!では!」
いちごはそう元気よく言うと、美沙と一緒にリボンを解きました。すると中には可愛らしいネックレスが入っていました。それは美沙くらいの年齢の女性が付けるには少し若々しい印象のあるものでした。
「…どんなのが良いとか分からないから、店員さんに言われるがままにそれにしたんだ。…離婚なんてするもんか。今度それつけて一緒に出かけるぞ。」
「あら…うふふ、ありがとう。昔からプレゼント選ぶセンスはなかったけど、今も変わらないわね。このデザイン可愛らしすぎ。」
「ほっとけ。…なんかすみませんね、店員さん。巻き込んでしまって…。」
「そんな!素敵な時間でしたよ!キュンキュンです!」
いちごはそういうと赤くした顔に手を当てます。
「私も、素敵な場面にご一緒させて貰いました。…旦那様からもらったプレゼントは、まるで贈り物のようですね、美沙様。」
「…ふふ、そうね、生きていてよかったって思えるくらいには素敵な贈り物だったわ。…ありがとう。」
「ふん…こちらこそな。」
玉舘夫妻はその後、2人でゆっくり新婚の頃からの思い出話に花を咲かせ、満足するとお礼を言って帰って行きました。その寄り添う背中を、薔薇紳士といちごは微笑ましく見送りました。
プレゼントされたものというのは、好みでなくても、似合わなくても、その人のことを想って選んだものなら大切な贈り物です。それは、ただ想いのこもったものというだけでなく、その思い出も大切な贈り物になるのです。
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