薔薇紳士の興じ事

世万江生紬

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諦めたらそこで

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 カランカラン

 「いらっしゃいませ。」

「いらっしゃいませ~。」

「こんにちは~。」

 ここは悩みを抱えるお客様が来店される喫茶店。本日のお客様は勉強を頑張る女子高生、このお店には勉強するためによく来ている常連さん、東堂さゆりです。

「薔薇紳士さん、いちごちゃん、きーてよー!」

「何かあったの、さゆりちゃん。」

さゆりはいつもは勉強するために訪れていますが、今日は何やら聞いてほしいことがあるようです。カウンター席にドカッと座ったと思うと、机に突っ伏して手をパタパタとさせます。

「こないだ受けた模試の結果がやっぱり良くなくてー!もうマジどうしよう!こんなに結果が出ないとなると諦めたくなるー!でも諦めたくないからモチベーション上げて欲しいの。」

「おお、すごい、点取れなかったから諦める、じゃなくてモチベーション上げて欲しいって言ってる時点でもうだいぶすごいことだと思う!」

「ふふん、まあね。こないだ薔薇紳士さんに、努力家になってるだけでアタシは頑張ってるって教えてもらったから。ね、薔薇紳士さん?」

「ふふ、覚えてもらっていて嬉しいです。頑張っているさゆり様のモチベーションのために、美味しい紅茶を淹れましょう。」

「ありがとーございます、薔薇紳士さん。でも薔薇紳士さんの紅茶はいつも美味しいですよー。」

「恐縮です。」

さゆりは一度、勉強に躓き、このお店で相談したことがありました。その時薔薇紳士に貰った言葉を大事にし、ずっと頑張っているのです。

「でもそっか、モチベーション...んー、今度いい点とったたら何かご褒美考えておく、とか?」

「おー、確かにそれいいかも。丁度欲しいけどちょっと高いなーって思ってたメイク道具があるんだよね。」

「ご褒美のために頑張るの、良いと思う!自分も応援してる!」

「いちごちゃんと話してるとマイナスイオン出てんのかってくらい癒されるね。」

「へへー、そう?」

2人がほわほわとした雰囲気の中話していると、ふわっといい香りも漂ってきました。淹れたての紅茶の香りは2人の身も心も癒していきます。

「こちら、頑張っているさゆり様のためにすこし特別な紅茶を淹れてみました。いかがですか?」

「えー、すごい、ありがとうございます。...んー!おいしっ!え、すごい美味しいです!」

「ふふ、良かったです。それとさゆり様、私からももう一つ、諦めたらそこでギブアップです。諦めたならそれ以上先は決してありません。勉強すれば必ずテストでいい点を取れる、成績が上がるとは言えません。もしかしたら成績は何も変わらないかもしれない。ですが諦めずに続けていれば貴方の力になるものは必ず何かあります。現に今も、さゆり様は努力することのできる努力家で、結果が出なくてもめげずに頑張っています。その姿を見て少なくとも二名、貴方を応援する仲間がここにいますよ。」

さゆりは薔薇紳士の言葉に目をぱちくりさせ、薔薇紳士といちごを順に見つめます。見つめられた2人が優しい笑顔を見せると、さゆりはグッと手を握り手首にはめていたシュシュで髪をポニーテールに結びました。

「モチベーション上がりました!アタシ勉強します!」

「はい、どーぞ。応援してるよ。」

「ふふ、私も応援しています。」


 勉強しても成績が上がらない、歯がゆい思いをしている人もいるでしょう。でも一生懸命頑張ることが無意味なわけがありません。些細なことかもしれない、もしかしたら気づいてすらいないかもしれない。でも、一生懸命になって努力したことに対するご褒美は必ずどこかに存在するものです。
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