40 / 79
君から目をそらすと
しおりを挟む
カランカラン
「いらっしゃいませ。」
「いらっしゃいませ~。」
ここは悩みを抱えるお客さんが来店される喫茶店。本日はどこか疲れた様子の女性。きりっとした身だしなみに清潔な着こなしですが、化粧は崩れ、髪は乱れています。
「こんにちは、お姉さん。こちらの席へどうぞ。」
「あぁ、ありがとう店員さん。」
女性はいちごにお礼を言って席に着くと、肘をつき、ふーっと大きなため息をこぼしました。
「お姉さん、何かお悩みですか?」
「え?あぁ、まあね。それと、お姉さんってやめてよ。私もう31だから。野々村真琴ね。」
「真琴さん!じゃあ真琴さんは何を悩んですんですか?」
「えー、んー、守秘義務があるから細かいことは省くけど、私医者やってるんだ。それで、こどもの患者さんがいるんだけど、サッカーやっててね。元気でいい子なんだけど、まああんまり良くなくて。どれだけ体が壊れてもいいから次の試合には絶対出たいって聞かなくてねー。参ったなーって感じ。はは、ごめんね、店員さんに愚痴る形になっちゃった。」
「いいえ、私で良ければどんどん愚痴ってください。」
「はは、ありがと。なら遠慮なく。その子の言いたいことも分かるんだよ、最後の大会、悔いを残したくないって。でも本当に状態は良くなくて。これからの将来のことを考えると諦めてほしくて。でもなーって。もう私なんて言ったらいいか分からなくてずっと目を逸らしてる。」
「最後の試合に悔いを残したくないって気持ち、分かります...。でも将来のことを考えるとOKは出せないって気持ちも何となく分かります...。板挟みなんですね。」
「うん。...はー、とりあえず紅茶飲んで落ち着きたくてさ。店員さん、紅茶もらえ...って、なんかいい匂いするね。」
真琴が話している間も薔薇紳士は紅茶の準備をしていました。そして淹れたての紅茶を、真琴の前にコトリと置きます。
「どうぞ、こちらの紅茶でリラックスなさって下さい。」
「ありがとう。...ん、美味しい。落ち着くー。」
「それは良かった。」
真琴のほころぶ顔を見て、薔薇紳士は柔らかい笑みを浮かべます。そして真琴が一杯飲み終わるのを見てから、話しかけました。
「野々村様、私は医者ではありませんから、貴方の心情を正確に慮ることは出来ません。ですが、一言だけ、よろしいですか?」
「助言くれるの?ぜひ。」
「では僭越ながら。野々村様、目を逸らし続けていると目を合わせられなくなります。あなたが向き合うべき子どものことをしっかりを見てあげられなくなるのです。怖くてもまっすぐ見てあげてください。あなたがまっすぐに向き合えば、相手もまっすぐに向き合ってくれます。そこに大人も子供もありません。でも、嫌われる覚悟でNOと言うのは大人の役目だと思います。」
薔薇紳士はまっすぐに真琴を見つめて言います。真琴も薔薇紳士の言葉に、自分なりに考えているようでした。
「まっすぐに向き合えば、気持ちが伝わるって言うのは、たった今身を持って体験した。」
「恐れ入ります。」
真琴は大きく深呼吸します。
「よし。店員さん、おかわりください。今度はリラックスするためのものじゃなくて。自分の決断を後押しするためのもの。」
「かしこまりました。」
「真琴さん、お仕事応援しています。」
「はは、ありがとう。頑張るよ、大変だけどこの仕事好きなんだ。」
結局真琴が患者の子どもに何と言ったのかは分かりません。ですがきっと、その子供の目を見てまっすぐに思いを伝えたのでしょう。どれだけ怖くても、目を逸らし続けるだけではいけないときもあります。自分自身が相手の目を見てまっすぐに伝えれば、そのまっすぐな思いは相手にきっと届くはずです。
「いらっしゃいませ。」
「いらっしゃいませ~。」
ここは悩みを抱えるお客さんが来店される喫茶店。本日はどこか疲れた様子の女性。きりっとした身だしなみに清潔な着こなしですが、化粧は崩れ、髪は乱れています。
「こんにちは、お姉さん。こちらの席へどうぞ。」
「あぁ、ありがとう店員さん。」
女性はいちごにお礼を言って席に着くと、肘をつき、ふーっと大きなため息をこぼしました。
「お姉さん、何かお悩みですか?」
「え?あぁ、まあね。それと、お姉さんってやめてよ。私もう31だから。野々村真琴ね。」
「真琴さん!じゃあ真琴さんは何を悩んですんですか?」
「えー、んー、守秘義務があるから細かいことは省くけど、私医者やってるんだ。それで、こどもの患者さんがいるんだけど、サッカーやっててね。元気でいい子なんだけど、まああんまり良くなくて。どれだけ体が壊れてもいいから次の試合には絶対出たいって聞かなくてねー。参ったなーって感じ。はは、ごめんね、店員さんに愚痴る形になっちゃった。」
「いいえ、私で良ければどんどん愚痴ってください。」
「はは、ありがと。なら遠慮なく。その子の言いたいことも分かるんだよ、最後の大会、悔いを残したくないって。でも本当に状態は良くなくて。これからの将来のことを考えると諦めてほしくて。でもなーって。もう私なんて言ったらいいか分からなくてずっと目を逸らしてる。」
「最後の試合に悔いを残したくないって気持ち、分かります...。でも将来のことを考えるとOKは出せないって気持ちも何となく分かります...。板挟みなんですね。」
「うん。...はー、とりあえず紅茶飲んで落ち着きたくてさ。店員さん、紅茶もらえ...って、なんかいい匂いするね。」
真琴が話している間も薔薇紳士は紅茶の準備をしていました。そして淹れたての紅茶を、真琴の前にコトリと置きます。
「どうぞ、こちらの紅茶でリラックスなさって下さい。」
「ありがとう。...ん、美味しい。落ち着くー。」
「それは良かった。」
真琴のほころぶ顔を見て、薔薇紳士は柔らかい笑みを浮かべます。そして真琴が一杯飲み終わるのを見てから、話しかけました。
「野々村様、私は医者ではありませんから、貴方の心情を正確に慮ることは出来ません。ですが、一言だけ、よろしいですか?」
「助言くれるの?ぜひ。」
「では僭越ながら。野々村様、目を逸らし続けていると目を合わせられなくなります。あなたが向き合うべき子どものことをしっかりを見てあげられなくなるのです。怖くてもまっすぐ見てあげてください。あなたがまっすぐに向き合えば、相手もまっすぐに向き合ってくれます。そこに大人も子供もありません。でも、嫌われる覚悟でNOと言うのは大人の役目だと思います。」
薔薇紳士はまっすぐに真琴を見つめて言います。真琴も薔薇紳士の言葉に、自分なりに考えているようでした。
「まっすぐに向き合えば、気持ちが伝わるって言うのは、たった今身を持って体験した。」
「恐れ入ります。」
真琴は大きく深呼吸します。
「よし。店員さん、おかわりください。今度はリラックスするためのものじゃなくて。自分の決断を後押しするためのもの。」
「かしこまりました。」
「真琴さん、お仕事応援しています。」
「はは、ありがとう。頑張るよ、大変だけどこの仕事好きなんだ。」
結局真琴が患者の子どもに何と言ったのかは分かりません。ですがきっと、その子供の目を見てまっすぐに思いを伝えたのでしょう。どれだけ怖くても、目を逸らし続けるだけではいけないときもあります。自分自身が相手の目を見てまっすぐに伝えれば、そのまっすぐな思いは相手にきっと届くはずです。
0
あなたにおすすめの小説
課長と私のほのぼの婚
藤谷 郁
恋愛
冬美が結婚したのは十も離れた年上男性。
舘林陽一35歳。
仕事はできるが、ちょっと変わった人と噂される彼は他部署の課長さん。
ひょんなことから交際が始まり、5か月後の秋、気がつけば夫婦になっていた。
※他サイトにも投稿。
※一部写真は写真ACさまよりお借りしています。
敗戦国の姫は、敵国将軍に掠奪される
clayclay
恋愛
架空の国アルバ国は、ブリタニア国に侵略され、国は壊滅状態となる。
状況を打破するため、アルバ国王は娘のソフィアに、ブリタニア国使者への「接待」を命じたが……。
Husband's secret (夫の秘密)
設楽理沙
ライト文芸
果たして・・
秘密などあったのだろうか!
むちゃくちゃ、1回投稿文が短いです。(^^ゞ💦アセアセ
10秒~30秒?
何気ない隠し事が、とんでもないことに繋がっていくこともあるんですね。
❦ イラストはAI生成画像 自作
秋月の鬼
凪子
キャラ文芸
時は昔。吉野の国の寒村に生まれ育った少女・常盤(ときわ)は、主都・白鴎(はくおう)を目指して旅立つ。領主秋月家では、当主である京次郎が正室を娶るため、国中の娘から身分を問わず花嫁候補を募っていた。
安曇城へたどりついた常盤は、美貌の花魁・夕霧や、高貴な姫君・容花、おきゃんな町娘・春日、おしとやかな令嬢・清子らと出会う。
境遇も立場もさまざまな彼女らは候補者として大部屋に集められ、その日から当主の嫁選びと称する試練が始まった。
ところが、その試練は死者が出るほど苛酷なものだった……。
常盤は試練を乗り越え、領主の正妻の座を掴みとれるのか?
お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます
菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。
嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。
「居なくていいなら、出ていこう」
この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる