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夢の中では言えるのに
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カランカラン
「いらっしゃいませ。」
「いらっしゃいませ~。」
ここは悩めるお客様が来店される喫茶店。本日のお客様はデート中のカップルでしょうか、真新しい靴やワンピースを身にまとい可愛らしく化粧した少し気の弱そうな雰囲気のある女性と、ファッションモデルのような身のこなしの少し気の強そうな男性です。
「こんちは。席どこでもいいですか?」
「はい、どーぞです。」
男性の声にバイトのいちごが受け答えします。男性はいちごの言葉を聞くや否や空いているテーブル席にドカッと座り、入り口で立ったままキョロキョロとしていた女性に大きめな声で「春奈もこっち来いよ」と声を掛けました。
「あ、うん...。」
「お客様、今日はデートですか?彼女さん可愛いし、彼氏さん格好いいですね!」
「お、分かる?ありがと~。んじゃ店員さん、このお店のおすすめとかある?」
「ありますよ~、この紅茶がおススメです。」
「じゃあ俺それで。春奈は?」
「あ、じゃあ私もそれで...。」
「かしこまりました~。」
いちごがメニュー表を見せながら指を指した紅茶を春奈と呼ばれた女性と男性が注文すると、薔薇紳士は優雅な手つきで淹れ始めました。
「あ、俺ちょっとトイレ行ってくるわ。店員さん、トイレどこ?」
「そこの突き当りですよ~。」
「ありがと。」
男性がトイレに席を立つと、いちごは残った春奈に近づき、優しく声を掛けました。
「春奈さん、ですよね?」
「え?あ、はい。妹尾春奈と言います。」
「彼氏さんに対して、何か悩みでもあるんですか?」
「えっ?」
「ずっと浮かないしていた気がしたので。余計なお世話ならすみません。」
「い、いえ...。実は彼、山崎大和と言うんですが大和とは付き合って五年になるんです。」
「長いお付き合いですね!」
「えぇ...。今も同棲していて結婚も考えているんですけど...最近彼の小さなところに気になってしまって。」
春奈はそう言うと大和の入っていったトイレをちらっと確認しました。
「家でも私がうたた寝していたら布団かけてくれるどころか『起きなくていいのか』って起こしてくるし。信号のない横断歩道を渡るとき車に譲ろうとせずにスタスタ歩いていっちゃうし。今日のデートも私の行きたかったお店に付き合ってくれるって言ったのにしばらく歩いたら喫茶店寄ろうって...ゆっくり時間かけてみるつもりだったから早く行きたかったんですけど...。それにさっきも、大声出して名前呼んでて、そんなに声出さなくていいのにとか思ったり...。夢の中に大和が出てきたときなんかは思いっきり文句言っちゃったりするんですけどね、面と向かってはこんなこと言えないし。...ダメですよね、悪いところばっかり気になっちゃう。」
「春奈さん...。」
いちごは春奈の口から洩れた思いのたけを聞いて上手く言葉に出来ず、声を漏らすように名前を呼びます。そんな重たい空気の流れる中、ふわっといい香りが店内に広がりました。
「こちら、淹れたての紅茶ですよ。まずはこちらでも飲んで落ち着いてください。」
「あぁ...でも大和が戻ってから一緒に飲みます。」
「山崎様のこと、想っているんですね。」
「そりゃあ、些細なことは気になりますけど、愛してますから。」
「私にはあなた方はとても相手のことを思い遣っていると思います。」
「え?」
春奈は薔薇紳士の言葉に、机に置かれたカップに注がれていた視線を薔薇紳士に向けました。
「優しさの形は一つではないんです。そして優しさから起こした行動への感じ方も一つではない。例えば寝ている時に起こすのは気遣いの無さからでしょうか?とても急いでいる仕事の途中で寝落ちた時や針を使った手芸中に寝てしう時なんかは逆に起こした方が優しさかもしれません。」
「それは...確かに。」
「横断歩道の話は、信号のない横断歩道を渡るとき歩行者が車に道を譲ったのだとしても、車が先に行ってしまうと道路交通法違反になってしまうんです。歩行者が一切の躊躇なくスタスタと通り過ぎてしまう方が優しさかもしれません。」
「道路交通法違反!?知らなかった...。」
「それにここへ来たのも、理由があったのかもしれませんし、大声で呼んだのも、貴方に言葉がはっきり伝わるようにするためかもしれません。あくまでかもしれないだけですが。」
「ここに来た理由なら自分、何となく分かりますよ。春奈さん、足靴擦れしてませんか?新しい靴だから足がなれてないみたいで。」
「えっ。...本当だ。」
春奈はいちごに言われて自分の足元を見ると、そこで自分が初めて靴擦れを起こしていることに気づきました。よく観ないと分かりませんがかかとの部分から血が出ています。
「大和はこれに気づいて...?」
「そうなのかどうかは本人に聞いてみないと分かりません。妹尾様、夢の中では言えることも口を閉じると伝えられません。そしてあなたが今山崎さまに伝えることは、気になってしまう嫌なところへの文句ですか?」
「...。」
春奈が黙って下を向いていると、トイレから大和が戻ってきました。
「ただいま...って、春奈?何かあったか?」
「ううん。何も無いよ。」
「そうか?店員さん、俺の彼女がいい女だからって変なことしないでくださいよ~。」
「ふふ、これは、失礼しました。」
「大和さん、春奈さんのこと大好きすぎですね。」
「ん?まあな。ってかなんで店員さん俺の名前知ってんの?」
いちごと大和が話す間も黙って考えていた春奈ですが、ふーっと息を吐くと大和の服の裾をちょいっと摘まみました。
「大和、あのさ。」
「ん?」
「ここでたらお店まで、話したいことがあるから聞いてくれる?」
「もちろん。」
人の思いと言うものはその人本人にしか分かりません。優しさからの行動なのか、意地悪な行動なのか。しかし思いが人それぞれなように、感じ取り方も人それぞれです。人それぞれだからこそ、違和感から誤解を生んだり嫌なところが目に着いたりしてしまいます。そんな時、言うべきことは文句でしょうか。お互いの思いを尊重し、お互いの思いを分かち合う、会話こそが大切なのです。
「いらっしゃいませ。」
「いらっしゃいませ~。」
ここは悩めるお客様が来店される喫茶店。本日のお客様はデート中のカップルでしょうか、真新しい靴やワンピースを身にまとい可愛らしく化粧した少し気の弱そうな雰囲気のある女性と、ファッションモデルのような身のこなしの少し気の強そうな男性です。
「こんちは。席どこでもいいですか?」
「はい、どーぞです。」
男性の声にバイトのいちごが受け答えします。男性はいちごの言葉を聞くや否や空いているテーブル席にドカッと座り、入り口で立ったままキョロキョロとしていた女性に大きめな声で「春奈もこっち来いよ」と声を掛けました。
「あ、うん...。」
「お客様、今日はデートですか?彼女さん可愛いし、彼氏さん格好いいですね!」
「お、分かる?ありがと~。んじゃ店員さん、このお店のおすすめとかある?」
「ありますよ~、この紅茶がおススメです。」
「じゃあ俺それで。春奈は?」
「あ、じゃあ私もそれで...。」
「かしこまりました~。」
いちごがメニュー表を見せながら指を指した紅茶を春奈と呼ばれた女性と男性が注文すると、薔薇紳士は優雅な手つきで淹れ始めました。
「あ、俺ちょっとトイレ行ってくるわ。店員さん、トイレどこ?」
「そこの突き当りですよ~。」
「ありがと。」
男性がトイレに席を立つと、いちごは残った春奈に近づき、優しく声を掛けました。
「春奈さん、ですよね?」
「え?あ、はい。妹尾春奈と言います。」
「彼氏さんに対して、何か悩みでもあるんですか?」
「えっ?」
「ずっと浮かないしていた気がしたので。余計なお世話ならすみません。」
「い、いえ...。実は彼、山崎大和と言うんですが大和とは付き合って五年になるんです。」
「長いお付き合いですね!」
「えぇ...。今も同棲していて結婚も考えているんですけど...最近彼の小さなところに気になってしまって。」
春奈はそう言うと大和の入っていったトイレをちらっと確認しました。
「家でも私がうたた寝していたら布団かけてくれるどころか『起きなくていいのか』って起こしてくるし。信号のない横断歩道を渡るとき車に譲ろうとせずにスタスタ歩いていっちゃうし。今日のデートも私の行きたかったお店に付き合ってくれるって言ったのにしばらく歩いたら喫茶店寄ろうって...ゆっくり時間かけてみるつもりだったから早く行きたかったんですけど...。それにさっきも、大声出して名前呼んでて、そんなに声出さなくていいのにとか思ったり...。夢の中に大和が出てきたときなんかは思いっきり文句言っちゃったりするんですけどね、面と向かってはこんなこと言えないし。...ダメですよね、悪いところばっかり気になっちゃう。」
「春奈さん...。」
いちごは春奈の口から洩れた思いのたけを聞いて上手く言葉に出来ず、声を漏らすように名前を呼びます。そんな重たい空気の流れる中、ふわっといい香りが店内に広がりました。
「こちら、淹れたての紅茶ですよ。まずはこちらでも飲んで落ち着いてください。」
「あぁ...でも大和が戻ってから一緒に飲みます。」
「山崎様のこと、想っているんですね。」
「そりゃあ、些細なことは気になりますけど、愛してますから。」
「私にはあなた方はとても相手のことを思い遣っていると思います。」
「え?」
春奈は薔薇紳士の言葉に、机に置かれたカップに注がれていた視線を薔薇紳士に向けました。
「優しさの形は一つではないんです。そして優しさから起こした行動への感じ方も一つではない。例えば寝ている時に起こすのは気遣いの無さからでしょうか?とても急いでいる仕事の途中で寝落ちた時や針を使った手芸中に寝てしう時なんかは逆に起こした方が優しさかもしれません。」
「それは...確かに。」
「横断歩道の話は、信号のない横断歩道を渡るとき歩行者が車に道を譲ったのだとしても、車が先に行ってしまうと道路交通法違反になってしまうんです。歩行者が一切の躊躇なくスタスタと通り過ぎてしまう方が優しさかもしれません。」
「道路交通法違反!?知らなかった...。」
「それにここへ来たのも、理由があったのかもしれませんし、大声で呼んだのも、貴方に言葉がはっきり伝わるようにするためかもしれません。あくまでかもしれないだけですが。」
「ここに来た理由なら自分、何となく分かりますよ。春奈さん、足靴擦れしてませんか?新しい靴だから足がなれてないみたいで。」
「えっ。...本当だ。」
春奈はいちごに言われて自分の足元を見ると、そこで自分が初めて靴擦れを起こしていることに気づきました。よく観ないと分かりませんがかかとの部分から血が出ています。
「大和はこれに気づいて...?」
「そうなのかどうかは本人に聞いてみないと分かりません。妹尾様、夢の中では言えることも口を閉じると伝えられません。そしてあなたが今山崎さまに伝えることは、気になってしまう嫌なところへの文句ですか?」
「...。」
春奈が黙って下を向いていると、トイレから大和が戻ってきました。
「ただいま...って、春奈?何かあったか?」
「ううん。何も無いよ。」
「そうか?店員さん、俺の彼女がいい女だからって変なことしないでくださいよ~。」
「ふふ、これは、失礼しました。」
「大和さん、春奈さんのこと大好きすぎですね。」
「ん?まあな。ってかなんで店員さん俺の名前知ってんの?」
いちごと大和が話す間も黙って考えていた春奈ですが、ふーっと息を吐くと大和の服の裾をちょいっと摘まみました。
「大和、あのさ。」
「ん?」
「ここでたらお店まで、話したいことがあるから聞いてくれる?」
「もちろん。」
人の思いと言うものはその人本人にしか分かりません。優しさからの行動なのか、意地悪な行動なのか。しかし思いが人それぞれなように、感じ取り方も人それぞれです。人それぞれだからこそ、違和感から誤解を生んだり嫌なところが目に着いたりしてしまいます。そんな時、言うべきことは文句でしょうか。お互いの思いを尊重し、お互いの思いを分かち合う、会話こそが大切なのです。
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