43 / 79
5年前のあの日に戻れたら
しおりを挟む
カランカラン
「いらっしゃいませ。」
「いらっしゃいませ~って、莇さんだ。」
「やぁいちごちゃん!薔薇紳士さん!いつもの紅茶をいただけるかいっ!?」
ここは悩めるお客様が来店される喫茶店。本日のお客様はこの店の常連、新人作家の夏目莇です。感情の起伏が激しい莇ですが、今日はいやにハイテンションで扉を開けました。
「いつものですね、かしこまりました。」
「莇さん、今日はお仕事途中で逃げだしたわけではないんですね。」
「ふはは、抜かりないよ!今日はようやく仕事を終えて解放感のままここに来たのさ。」
「すごくハイテンションなので、そうだと思いましたよ。」
莇はここの常連になってから日が長いです。当然この店のアルバイト、いちごとも長い付き合い。2人は砕けた口調で茶かしあうほど仲良しです。
「莇様、紅茶が入りましたよ。」
「あーりがとうございまーす。」
莇は独特なイントネーションでお礼を言うと、ゆっくりこくりと紅茶を飲みます。
「ふー、おいし...。」
「あ、何か急に落ち着いた。」
「薔薇紳士さんの紅茶を飲むと仕事からの解放感で来る浮かれた気分さえ落ち着かせてくれます...。」
「ふふ、それは落ち着かせて良かったのでしょうかね。」
「あー、五年前はこんな生活するとは思ってもなかったのに、人生とは変わるものだ。バッドエンドもハッピーエンドも決めつけるには早すぎるのだね。」
「ああ、莇さん五年前まではネットの小説投稿アプリで小説書いてたんでしたっけ。それで出版社の人の目に留まったとか。」
「なんだい!?僕の人生物語が聞きたいのかい!?」
「いえ微塵も。」
莇は自分のことを誰かが知ろうとしてくれること、知ってくれていることをとても嬉しく感じます。ので自分のことも話したい性分なのですが、いちごにはバッサリと断られてしました。
「くっ...。いちごちゃんは難攻不落だなぁ。」
「では私から。莇様はもし五年前に戻れるとしたら、何をやり直しますか?まったく別の選択肢を選ばれますか?それとも、今と同じ道をお選びになりますか?」
「薔薇紳士さん、ボクに興味を持って...!心、いや承認欲求が満たされる気分です!」
「そのまんまじゃないですか。それより、薔薇紳士さんの質問に答えて下さいよ。」
「おおっと、そうだな。んー五年前のあの日に戻れたらきっと僕は...今より五歳若いだけの若造だ。違った選択肢なんて見えてないだろうな。今も昔も、僕は成長してないただのガキさー!」
莇はふっと考えた末、今の自分を嘆くような、でも一ミリも後悔していない声で宣言します。それを見たいちごはどこか納得していないような顔をしますが、薔薇紳士は緩やかに笑っています。
「ふふ、そうですね。色々な選択が見れるのは、年を取って色々な経験をするからです。昔こうしていれば、あの時こうしていなければ、なんて今だから言えるんです。でもそうやって昔を嘆くことも、今を確認する大事なことなんでしょう。」
「さすが薔薇紳士さんだ!今のフレーズ格好良かったので小説に使っても!?」
「構いませんよ。」
「薔薇紳士さん、自分はちょっと難しくてわかんないです。」
「いちごちゃんももう少し大人になれば分かるさ~。」
「むー!莇さんに言われるとムカつきますー!」
「なんでっ!」
五年前のあの日に戻れたらきっと今より五歳若い。その五年の中で貴方はきっと色々な景色を見て、いろいろな考えに触れて、色々な経験をしている。だからこそ昔こうしていればと思うけれど、その五年があったから今のその思いに繋がるのだとすれば、昔への嘆きも、今を生きるための大事なステップになる。
「いらっしゃいませ。」
「いらっしゃいませ~って、莇さんだ。」
「やぁいちごちゃん!薔薇紳士さん!いつもの紅茶をいただけるかいっ!?」
ここは悩めるお客様が来店される喫茶店。本日のお客様はこの店の常連、新人作家の夏目莇です。感情の起伏が激しい莇ですが、今日はいやにハイテンションで扉を開けました。
「いつものですね、かしこまりました。」
「莇さん、今日はお仕事途中で逃げだしたわけではないんですね。」
「ふはは、抜かりないよ!今日はようやく仕事を終えて解放感のままここに来たのさ。」
「すごくハイテンションなので、そうだと思いましたよ。」
莇はここの常連になってから日が長いです。当然この店のアルバイト、いちごとも長い付き合い。2人は砕けた口調で茶かしあうほど仲良しです。
「莇様、紅茶が入りましたよ。」
「あーりがとうございまーす。」
莇は独特なイントネーションでお礼を言うと、ゆっくりこくりと紅茶を飲みます。
「ふー、おいし...。」
「あ、何か急に落ち着いた。」
「薔薇紳士さんの紅茶を飲むと仕事からの解放感で来る浮かれた気分さえ落ち着かせてくれます...。」
「ふふ、それは落ち着かせて良かったのでしょうかね。」
「あー、五年前はこんな生活するとは思ってもなかったのに、人生とは変わるものだ。バッドエンドもハッピーエンドも決めつけるには早すぎるのだね。」
「ああ、莇さん五年前まではネットの小説投稿アプリで小説書いてたんでしたっけ。それで出版社の人の目に留まったとか。」
「なんだい!?僕の人生物語が聞きたいのかい!?」
「いえ微塵も。」
莇は自分のことを誰かが知ろうとしてくれること、知ってくれていることをとても嬉しく感じます。ので自分のことも話したい性分なのですが、いちごにはバッサリと断られてしました。
「くっ...。いちごちゃんは難攻不落だなぁ。」
「では私から。莇様はもし五年前に戻れるとしたら、何をやり直しますか?まったく別の選択肢を選ばれますか?それとも、今と同じ道をお選びになりますか?」
「薔薇紳士さん、ボクに興味を持って...!心、いや承認欲求が満たされる気分です!」
「そのまんまじゃないですか。それより、薔薇紳士さんの質問に答えて下さいよ。」
「おおっと、そうだな。んー五年前のあの日に戻れたらきっと僕は...今より五歳若いだけの若造だ。違った選択肢なんて見えてないだろうな。今も昔も、僕は成長してないただのガキさー!」
莇はふっと考えた末、今の自分を嘆くような、でも一ミリも後悔していない声で宣言します。それを見たいちごはどこか納得していないような顔をしますが、薔薇紳士は緩やかに笑っています。
「ふふ、そうですね。色々な選択が見れるのは、年を取って色々な経験をするからです。昔こうしていれば、あの時こうしていなければ、なんて今だから言えるんです。でもそうやって昔を嘆くことも、今を確認する大事なことなんでしょう。」
「さすが薔薇紳士さんだ!今のフレーズ格好良かったので小説に使っても!?」
「構いませんよ。」
「薔薇紳士さん、自分はちょっと難しくてわかんないです。」
「いちごちゃんももう少し大人になれば分かるさ~。」
「むー!莇さんに言われるとムカつきますー!」
「なんでっ!」
五年前のあの日に戻れたらきっと今より五歳若い。その五年の中で貴方はきっと色々な景色を見て、いろいろな考えに触れて、色々な経験をしている。だからこそ昔こうしていればと思うけれど、その五年があったから今のその思いに繋がるのだとすれば、昔への嘆きも、今を生きるための大事なステップになる。
0
あなたにおすすめの小説
課長と私のほのぼの婚
藤谷 郁
恋愛
冬美が結婚したのは十も離れた年上男性。
舘林陽一35歳。
仕事はできるが、ちょっと変わった人と噂される彼は他部署の課長さん。
ひょんなことから交際が始まり、5か月後の秋、気がつけば夫婦になっていた。
※他サイトにも投稿。
※一部写真は写真ACさまよりお借りしています。
敗戦国の姫は、敵国将軍に掠奪される
clayclay
恋愛
架空の国アルバ国は、ブリタニア国に侵略され、国は壊滅状態となる。
状況を打破するため、アルバ国王は娘のソフィアに、ブリタニア国使者への「接待」を命じたが……。
Husband's secret (夫の秘密)
設楽理沙
ライト文芸
果たして・・
秘密などあったのだろうか!
むちゃくちゃ、1回投稿文が短いです。(^^ゞ💦アセアセ
10秒~30秒?
何気ない隠し事が、とんでもないことに繋がっていくこともあるんですね。
❦ イラストはAI生成画像 自作
秋月の鬼
凪子
キャラ文芸
時は昔。吉野の国の寒村に生まれ育った少女・常盤(ときわ)は、主都・白鴎(はくおう)を目指して旅立つ。領主秋月家では、当主である京次郎が正室を娶るため、国中の娘から身分を問わず花嫁候補を募っていた。
安曇城へたどりついた常盤は、美貌の花魁・夕霧や、高貴な姫君・容花、おきゃんな町娘・春日、おしとやかな令嬢・清子らと出会う。
境遇も立場もさまざまな彼女らは候補者として大部屋に集められ、その日から当主の嫁選びと称する試練が始まった。
ところが、その試練は死者が出るほど苛酷なものだった……。
常盤は試練を乗り越え、領主の正妻の座を掴みとれるのか?
お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます
菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。
嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。
「居なくていいなら、出ていこう」
この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる