薔薇紳士の興じ事

世万江生紬

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君がくれたチョコレートは

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 カランカラン

「いらっしゃいませ。」

「いらっしゃいませ~。」

 ここは悩みを抱えるお客様が来店される喫茶店。本日のお客様は男子高校生。眼鏡をかけ、着崩すことなくぴっし制服を着ており真面目な印象です。

「いらっしゃいませ。こちらのお席へどうぞー。」

「あ、ありがとうございます。」

男子高校生は促されるままにカウンター席へ座ると、スクールバックをなぜか大事そうに膝に乗せて抱えました。

「あのー、もしかして、バレンタインのお悩みですか?」

「えっ!?」

今日は2月14日、バレンタインデーです。そしてここは悩めるお客様が来店される喫茶店であり、鞄を大事そうに持っているということは、バレンタインのチョコ関係で何かあったのではといちごは考えたのです。

「あー、まあ、はい...。」

「やっぱり!?鞄にチョコレートが入ってたりするんですか!?」

「はい...でもその、なんて言うか。」

男子高校生はどこか歯切れ悪く言います、何か訳ありだと思ったいちごは、話を聞く体制に入ります。

「もしよければ聞かせてくれませんか?」

「...そうですね、誰かに聞いてほしい気分だったし。えっと、俺は盛岡海と言います。その、今日はクラスの子からチョコレートをもらいまして...多分本命。でもその、俺別に好きな人がいて。その好きな人からはチョコ貰えなくて。で、うーん、なんて言うか...。」

「望みの薄い好きな子をずっと好きでいるか、自分を好きでいてくれる子を新しく好きになるかってことですか?」

「ま、まあ簡潔に言うとそんな感じ。でもそんな不純な感じで人を好きになるって言うのも...でもチョコをくれた子を無下にもしたくないし...。」

「板挟みですねぇ...。」

海はいちごにすべて打ち明けると、困った顔をして俯きました。そしていちごも、難しい顔をして黙ってしまいました。

「とりあえず、そのチョコレートを食べてみてはいかがですか?チョコに会う紅茶淹れますよ。」

静寂を破ったのは薔薇紳士でした。薔薇紳士の言葉に海は頷いて鞄からチョコを取り出しました。

「すごくきれいにラッピングされてる。その子本気なんですね。」

「そう...ですよね。」

海はラッピングを解くと一口パクリと食べました。

「カカオの香りです...。」

「その味を、デコレーションを、ラッピングを、盛岡様がどう思ったか、ですね。彼女のくれたチョコレートはカカオの香りがすることでしょう。でもそのチョコに含まれているのはそれだけじゃないと思いますよ。美味しいと思って欲しいという愛情や、少しでも可愛く見せたいいじらしさ、受け取ってもらえるように込めた祈り、それらを受け取って、盛岡様は何を感じましたか?」

薔薇紳士は淹れたての紅茶を海の前にコトリと置きながらそう言いました。薔薇紳士の言葉に海は何かを考えたようですが、その後海がどんな選択肢を選んだのかは分かりません。でも真剣な思いを受け止めて決めた選択肢ならきっと後悔はしないことでしょう。
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