薔薇紳士の興じ事

世万江生紬

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一目見た瞬間

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 カランカラン

 「いらっしゃいませ。」

「いらっしゃいませ~。」

 ここは悩みを抱えるお客様が来店される喫茶店。本日のお客様は女子学生二人組です。友達、というより、先輩後輩のような距離感です。

「いらっしゃいませ。こちらのお席へどうぞ~。」

「「ありがとうございまーす。」」

席に着いた2人はこの店のおすすめの紅茶を注文すると、鞄から台本のような冊子を取り出しました。

「あれ?それって台本ですか?お2人は演劇部とか?」

「そうなんですよー。私、あ、松島奏って言うんですけど、こっちが後輩の七瀬光で、私たち演劇部のツートップなんです。」

「へぇー!そうなんですね!格好いい!」

「奏先輩の演技はすごい格好いいんですよ!堂々としてて、なのに繊細で!」

「あはは、ありがと。でも光の演技も中々ですよ?さすが私が見込んだだけはあるって言うか!」

「奏さんが光さんを誘ったってことですか?」

いちごがそう聞いた時、薔薇紳士が淹れていた紅茶のふわっといい香りが店内に漂いました。

「いちご君、お客様とお話しするのは構いませんが、こちらの紅茶をお出ししてくださいね。」

「あ、はーい。お客様、どうぞー。で、話の続き聞かせて下さい。」

「あはは。ありがと。えーっとね、出会いはそう、入学式の新入部員募集の集まりで...」

「その語り方すごし恥ずかしいですね。先輩が声かけてくれたんですよ。演劇部入らない!?って。」

「そうそう。一目見た瞬間視界に入ったんだよね。すごく目を引くって言うか、この子を絶対演劇部に入れろってわたしの勘が言ってた。間違ってなかったねー。今じゃ演劇部の花形だよー。」

奏と光はお互いの顔を見合ってくすっと笑います。その笑顔は本当に演劇が好き同士の演技の一切入ってない素のものでした。

「んー、でも目をかけた後輩が花形まで上り詰めたら、自分ならちょっとヤバって思っちゃうかも。」

「あはは、そんなのずっと思ってるよー。今回のこの台本もね、主役は光で私は助演なの。超悔しいよー。どうやったら主役奪還できるかなって毎日悩んでるし。」

「私も、先輩のポジション奪っちゃってることにそれなりにもやもやはありますよ、でも。」

「「実力勝負だから。」」

言い切った二人の目は、嫉妬や妬み何かの負の感情は一切感じないまっすぐな光が宿っていました。

「お2人は、本当に仲の良い先輩後輩と言うだけでなく、良いライバルでもあるんですね。勝ったら嬉しい、負けたら悔しい、そんな思いで真剣に臨まれていて、きっと遠くない未来で今この時のことは最高に思い出になっているんでしょうね。」

薔薇紳士の言葉に、2人はもう一度顔を見合わせて笑いました。


 今この時の経験が、遠くない未来で最高の思い出にならん事を。
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