薔薇紳士の興じ事

世万江生紬

文字の大きさ
53 / 79

君が指に触れるだけで

しおりを挟む
 カランカラン

 「いらっしゃいませ。」

「いらっしゃいませ~って、杏ちゃん。いらっしゃい。」

「こんにちは。」

 ここは悩めるお客様が来店される喫茶店。本日のお客様はこの店の常連、木下杏です。恋する乙女な杏は恋愛のお悩みや惚気話を聞いてもらうためにこのお店に来店されます。

「杏ちゃん、今日はどんな恋のお話?」

荷物を置いてカウンター席に座った杏にすぐさまいちごが質問します。いちごは杏の恋のお話を聞くのが大好きです。

「えへへ、実はね、この間イルミネーションを見ないかって誘われて」

「デート!?」

「食いつきが早いよ、いちごちゃん。でね、誘われたんだけど、他にも友達がいて」

「二人っきりじゃないの!?」

「リアクションが早いよ、いちごちゃん。2人っきりじゃなかったんだけど、帰るとき二人で歩いてる感じになってね」

「二人きりの世界!?」

「まあそう言うことなんだけど、理解が早すぎるよいちごちゃん。えっと、その歩いてるときにね、指が、ね。」

「当たったの!?チョンって!?」

「えへへ...そう。指が触れただけなのに静電気が走ったみたいにピリッて」

「あまーーーーい!」

「何かを彷彿とさせてるよ、いちごちゃん。」

いちごと杏は楽しそうに恋のお話に花を咲かせます。その間、黙って紅茶を淹れていた薔薇紳士ですが、2人の話のキリの良いときに、すっと杏の前に紅茶を置きました。

「杏様、こちらいつもの紅茶です。どうぞ。」

「あ、ありがとうございます。」

杏は少し興奮気味に話して高揚した頬を落ち着かせるように、こくりと紅茶を飲みます。そんな杏を見ながら、薔薇紳士は優しく口を開きます。

「杏様、寒い冬では指が触れるだけで静電気が走るような、どこか落ち着かない衝撃を感じるでしょう。でもいつかそれが、安心できる手のひらのぬくもりに変わるといいですね。私は応援していますよ。」

「薔薇紳士さん...ありがとうございます。私、もっと頑張りますね!」

「具体的には何をするの?杏ちゃん。」

「やっぱり自分磨き!振り向いてもらえるような女の子になるんだ。」

「うん、すごくいいと思う!頑張ってね。」

「ありがとう!」



 初めはそれはそれは落ち着かない衝撃。でもそれが時間をかけて、気持ちが寄り添って、安心できる温かみに変わることは、とても素敵なことでしょう。
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

吊るされた少年は惨めな絶頂を繰り返す

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

課長と私のほのぼの婚

藤谷 郁
恋愛
冬美が結婚したのは十も離れた年上男性。 舘林陽一35歳。 仕事はできるが、ちょっと変わった人と噂される彼は他部署の課長さん。 ひょんなことから交際が始まり、5か月後の秋、気がつけば夫婦になっていた。 ※他サイトにも投稿。 ※一部写真は写真ACさまよりお借りしています。

敗戦国の姫は、敵国将軍に掠奪される

clayclay
恋愛
架空の国アルバ国は、ブリタニア国に侵略され、国は壊滅状態となる。 状況を打破するため、アルバ国王は娘のソフィアに、ブリタニア国使者への「接待」を命じたが……。

Husband's secret (夫の秘密)

設楽理沙
ライト文芸
果たして・・ 秘密などあったのだろうか! むちゃくちゃ、1回投稿文が短いです。(^^ゞ💦アセアセ  10秒~30秒?  何気ない隠し事が、とんでもないことに繋がっていくこともあるんですね。 ❦ イラストはAI生成画像 自作

秋月の鬼

凪子
キャラ文芸
時は昔。吉野の国の寒村に生まれ育った少女・常盤(ときわ)は、主都・白鴎(はくおう)を目指して旅立つ。領主秋月家では、当主である京次郎が正室を娶るため、国中の娘から身分を問わず花嫁候補を募っていた。 安曇城へたどりついた常盤は、美貌の花魁・夕霧や、高貴な姫君・容花、おきゃんな町娘・春日、おしとやかな令嬢・清子らと出会う。 境遇も立場もさまざまな彼女らは候補者として大部屋に集められ、その日から当主の嫁選びと称する試練が始まった。 ところが、その試練は死者が出るほど苛酷なものだった……。 常盤は試練を乗り越え、領主の正妻の座を掴みとれるのか?

おじさん、女子高生になる

一宮 沙耶
大衆娯楽
だれからも振り向いてもらえないおじさん。 それが女子高生に向けて若返っていく。 そして政治闘争に巻き込まれていく。 その結末は?

お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます

菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。 嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。 「居なくていいなら、出ていこう」 この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

処理中です...