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君の声を聞くと
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カランカラン
「いらっしゃいませ。」
「いらっしゃいませ~。」
ここは悩みを抱えるお客様が来店される喫茶店。本日のお客様は制服を着た男子高校生です。制服も着崩すことなく来ている真面目な容貌ですが、表情はどこかうんざりしているように見えます。
「こんにちは。」
「こんにちは~。こちらの席へどうぞ。」
「あ、ありがとうございます...。」
男子高校生はいちごに促されるままカウンター席に座ります。上着を脱ぐと丁寧に畳んで椅子に置きます。いちごはその様子を見ながら朗らかに話しかけました。
「ご注文は何にします?ちなみに、紅茶がオススメですよ~。」
「あ、じゃあそれをお願いします。」
「かしこまりました。」
いちごは注文を通すと、改めて男子高校生に向き直りました。
「ところで、何かお悩みでもあるんですか?何と言うか、表情が険しい気がしますよ。」
「えっ。あ、すみません。店員さんに話聞かれるとは思わなかったんで。あーいや、別に大したことじゃないんですよ。ちょっと嫌気がさしてるというか...。」
「嫌気?」
「あー、俺松島颯って言います。うち母子家庭なんですけど、母親が...うざいなーと思って来てて。反抗期だからですかね。挨拶はちゃんとしろとか、食事するときは音を立てるなとか、何か小言がうるさく感じてきちゃって。」
「あー、高校生ですもんね。親の言うことが鬱陶しく感じる時期ですよね。」
「何か達観してますけど、店員さんも高校生くらいじゃないんですか?」
「自分も高校生ですよ。お揃いですね。」
「この場合お揃いと言うのかどうか。」
颯が少しいちごに心を開き始めた頃、紅茶の良い香りが漂いました。
「松島様、こちら紅茶です。どうぞ。」
「あ、ありがとうございます。」
颯は薔薇紳士から紅茶を受け取ると、ふーっと冷まし、こくりとゆっくり喉を通します。
「おいしいです。」
「それは良かった。ところで松島様、先ほどの話聞こえてしまったのですが...。」
「あ、大丈夫ですよ。店主さんもやっぱ親には感謝するべきって、うざいとか言うもんじゃないと思います?」
「ふふ、ご自分でも言われていましたが、松島様くらいの年齢は色々と不安に感じたり迷ったりする時期です。親の言葉を疎ましく感じることに私は何の否定もしません。ですが、お母様の声で松島様の鼓膜は震えています。松島様はこのお店に来店されてからしっかり挨拶をし、感謝の言葉を述べ、紅茶は音を立てずに上品に飲んでおられます。しっかり言葉が届いているように見えますよ。」
薔薇紳士は、颯の悩みを解決する言葉をかけたわけでも、共感したわけでも否定したわけでもありません。ですがその言葉は、颯に間違いなく届きました。
「そうですか...。」
「今の年頃ってお母さんの言う通りになるのがなんか恥ずかしいですよねー。でも確かに正しいんだよなーと思ったり。難しいですよね。」
「いやだから、店員さんも大体同じ年でしょって。...でもまあそうですね。ありがとうございます。」
今はどんなに疎ましくても、どんなに鬱陶しくても、その言葉は、声は間違いなく届いています。いつかその言葉の意味に気づいた時、感じたことを伝えればいいのです。
「いらっしゃいませ。」
「いらっしゃいませ~。」
ここは悩みを抱えるお客様が来店される喫茶店。本日のお客様は制服を着た男子高校生です。制服も着崩すことなく来ている真面目な容貌ですが、表情はどこかうんざりしているように見えます。
「こんにちは。」
「こんにちは~。こちらの席へどうぞ。」
「あ、ありがとうございます...。」
男子高校生はいちごに促されるままカウンター席に座ります。上着を脱ぐと丁寧に畳んで椅子に置きます。いちごはその様子を見ながら朗らかに話しかけました。
「ご注文は何にします?ちなみに、紅茶がオススメですよ~。」
「あ、じゃあそれをお願いします。」
「かしこまりました。」
いちごは注文を通すと、改めて男子高校生に向き直りました。
「ところで、何かお悩みでもあるんですか?何と言うか、表情が険しい気がしますよ。」
「えっ。あ、すみません。店員さんに話聞かれるとは思わなかったんで。あーいや、別に大したことじゃないんですよ。ちょっと嫌気がさしてるというか...。」
「嫌気?」
「あー、俺松島颯って言います。うち母子家庭なんですけど、母親が...うざいなーと思って来てて。反抗期だからですかね。挨拶はちゃんとしろとか、食事するときは音を立てるなとか、何か小言がうるさく感じてきちゃって。」
「あー、高校生ですもんね。親の言うことが鬱陶しく感じる時期ですよね。」
「何か達観してますけど、店員さんも高校生くらいじゃないんですか?」
「自分も高校生ですよ。お揃いですね。」
「この場合お揃いと言うのかどうか。」
颯が少しいちごに心を開き始めた頃、紅茶の良い香りが漂いました。
「松島様、こちら紅茶です。どうぞ。」
「あ、ありがとうございます。」
颯は薔薇紳士から紅茶を受け取ると、ふーっと冷まし、こくりとゆっくり喉を通します。
「おいしいです。」
「それは良かった。ところで松島様、先ほどの話聞こえてしまったのですが...。」
「あ、大丈夫ですよ。店主さんもやっぱ親には感謝するべきって、うざいとか言うもんじゃないと思います?」
「ふふ、ご自分でも言われていましたが、松島様くらいの年齢は色々と不安に感じたり迷ったりする時期です。親の言葉を疎ましく感じることに私は何の否定もしません。ですが、お母様の声で松島様の鼓膜は震えています。松島様はこのお店に来店されてからしっかり挨拶をし、感謝の言葉を述べ、紅茶は音を立てずに上品に飲んでおられます。しっかり言葉が届いているように見えますよ。」
薔薇紳士は、颯の悩みを解決する言葉をかけたわけでも、共感したわけでも否定したわけでもありません。ですがその言葉は、颯に間違いなく届きました。
「そうですか...。」
「今の年頃ってお母さんの言う通りになるのがなんか恥ずかしいですよねー。でも確かに正しいんだよなーと思ったり。難しいですよね。」
「いやだから、店員さんも大体同じ年でしょって。...でもまあそうですね。ありがとうございます。」
今はどんなに疎ましくても、どんなに鬱陶しくても、その言葉は、声は間違いなく届いています。いつかその言葉の意味に気づいた時、感じたことを伝えればいいのです。
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