薔薇紳士の興じ事

世万江生紬

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君と電話すると

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 カランカラン

「いらっしゃいませ。」

「いらっしゃいませーって、杏ちゃん。」

「こんにちは。」

 ここは悩みを抱えるお客様が来店される喫茶店。本日のお客様はこのお店の常連、恋する乙女の木下杏です。杏はいつも恋愛相談や恋愛関係の話をするためにここにやってきます。

「杏様、ご注文はいつもの紅茶でよろしいですか?」

「あ、はい。お願いします。」

「杏ちゃん!今日はどんな恋のお話!?」

「い、いちごちゃん、距離...心の距離が近いかな。」

「ごめんごめん。」

杏はカウンター席に座ると鞄をおろし、息を吐きました。

「実は...最近その、電話するようになって...。」

「え!?例の彼と!?電話!?すごいすごい!進展してるんだね!」

杏が頬をピンクに染めながら話すと、いちごは甲高いピンクの声を上げます。薔薇紳士は2人の恋バナに笑みをこぼしながら優雅に紅茶を淹れ始めました。

「そうなの、かかってくる内容は明日の宿題何だっけ、とかなんだけど、そこからちょっと話したりして...。」

「しかも彼の方からかけてくるんだね!これは確実に近づいてるよ、2人の距離がー!」

「い、いちごちゃん声が大きいよ...。うん、でもね、その電話ってことは彼の声が耳元で聞こえるわけじゃない?もう私ドキドキしちゃって、上手く話せてるか...。」

「耳元で聞こえる彼の声!それにも勝る胸の鼓動!ドキドキしちゃって喋れない!」

「なんでそんなJPOPの歌詞みたいな...。」

いちごが興奮しながら声を荒げていると、淹れたての紅茶の香りがふわっと漂いました。

「いちご君、流石に落ち着いてください。それから杏様、こちらどうぞ。」

「ごめんなさい...。」

「ありがとうございます。」

杏は淹れたての紅茶をこくりと飲むと、ふーっと柔らかい息を吐きました。

「おいしいです!」

「ありがとうございます。ところで杏様、彼と電話をすると決まって彼の声がします。同時に、彼の電話も、貴方の声がしているのですよ。果たして彼はそれをどう思っているのでしょうね。」

薔薇紳士の言葉に杏は思わず顔を赤くしました。自分がドキドキしている時相手はどんなことを考えて何を思っているのでしょう。考えるだけで恋する乙女は顔を赤くするのです。
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