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離れれば離れるほど
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カランカラン
「いらっしゃいませ。」
「いらっしゃいませ~。」
ここは悩みを抱えるお客様が来店される喫茶店。本日のお客様はとてもきれいで若々しい女性。しかしその左手の薬指にはキラリと光る指輪がはまっています。
「こちらのお席へどうぞ。」
「ありがとうございます。」
いちごに促された女性はカウンター席に座ります。そして自分の指にはまった指輪を目に止めると、ふっと柔らかく口元を緩ませました。
「あれ?お客様もしかして新婚さんですか?」
「えっ、どうしてわかったの!?」
「お若いのに結婚指輪してますし、それに、とっても幸せそうだったので!」
いちごのまっすぐな言葉に女性は少し気恥ずかしそうに顔を覆いますが、その表情はどこかにやついていました。
「えへ、へ、ちょっと恥ずかしいですね...。そうなんです。結婚して2週間なんですよ。」
「新婚ほやほやですね!お姉さん名前なんて言うんですか?」
「立花葵と言います。新婚ほやほやでとっても幸せなんですけど...。」
そこまで言うと葵はどこか表情を曇らせます。いちごはそんな葵の表情の変化を見過ごしませんでした。
「葵さん?何かあったんですか?」
「ええっと...実はね、その、お、夫、が単身赴任で遠くへ行ってしまうんです。私は仕事があるしついていってあげられなくて。3か月くらいだしすぐ帰ってくるって言うのは分かってるんですけど...。」
「結婚したばかりで単身赴任なんて...寂しいですね。」
「本当にね。私たち高校生の時からの付き合いだから大学生の間遠距離をしてきたことはあるの。でもそれも新幹線ですぐ会える距離だったし、流石にそう簡単には合えない距離って言うのが初めてで...なんだか心まで離れて行ってしまう気がするの。」
「そんな!遠距離も乗り越えて長い年月付き合ってきてゴールインしたカップルなんですよね!?そう簡単に離れたりしませんよ!」
「えぇ、分かってはいるの。分かってはいるんだけど...あれね、夫婦になって彼が法的に私だけの彼になってなんだか気分がおかしいのかもしれないわね。浮かれているからちょっと何かあるとネガティブに考えちゃう。ごめんなさいね。ため込んでたものを口に出せてスッキリしたわ。ありがとう。」
「そりゃお話位いくらでも聞きますよー!」
葵は今まで胸にとどめていた思いを吐き出せてスッキリした様子でした。ですが葵に同情したいちごはまだ少し旦那さんに対して不機嫌です。そんな時、ふわっと良い香りが広がりました。
「立花様、こちら淹れたての紅茶ですよ。どうぞ。」
「あら、ありがとうございます。...美味しい。」
葵は淹れたての紅茶を一口口に含むと、柔らかい笑顔を見せました。
「それは良かったです。時に立花様、先ほどのお話聞こえてしまったのですが...。」
「まぁ、聞こえてたんですか。すみません...。」
「いえ、旦那様への愛ゆえの不安、お辛いでしょう。しかし、確かに離れれば離れるほど遠くなります。だからこそ心まで離れないよう繋がっておくことが必要かと。信頼も、今まで培った愛も、時折確認しなければ不安に感じるだけですよ。本気で相手を想っているからこそ、ね。そしてそれほど愛し合っている夫婦です。旦那様もきっと同じ思いのはずですよ。貴方から繋がっているための提案なら、喜んで受け入れてくれると私は思います。」
「繋がっていることが...大事、ですか...。」
「そうですよ葵さん!毎日鬼のように電話しましょう!」
「ふふ、毎日でなくてもいいわ。そうね、一週間に一回曜日を決めて電話しようって提案してみようかしらね。」
「それがいいですよ!旦那さんが賛成しなかったら自分が文句言ってやります!」
「あら、頼もしい。」
それからしばらくして、葵は本当に旦那を連れてやって来ました。なんでも一週間に一度電話したいと提案すると、三日に一度がいいと駄々をこねられたんだとか。文句を言ってやると意気込んでいたいちごも2人ののろけのような言い合いに口をはさむことは出来ず、結局五日に一回電話することに決めたのだとか。
「いらっしゃいませ。」
「いらっしゃいませ~。」
ここは悩みを抱えるお客様が来店される喫茶店。本日のお客様はとてもきれいで若々しい女性。しかしその左手の薬指にはキラリと光る指輪がはまっています。
「こちらのお席へどうぞ。」
「ありがとうございます。」
いちごに促された女性はカウンター席に座ります。そして自分の指にはまった指輪を目に止めると、ふっと柔らかく口元を緩ませました。
「あれ?お客様もしかして新婚さんですか?」
「えっ、どうしてわかったの!?」
「お若いのに結婚指輪してますし、それに、とっても幸せそうだったので!」
いちごのまっすぐな言葉に女性は少し気恥ずかしそうに顔を覆いますが、その表情はどこかにやついていました。
「えへ、へ、ちょっと恥ずかしいですね...。そうなんです。結婚して2週間なんですよ。」
「新婚ほやほやですね!お姉さん名前なんて言うんですか?」
「立花葵と言います。新婚ほやほやでとっても幸せなんですけど...。」
そこまで言うと葵はどこか表情を曇らせます。いちごはそんな葵の表情の変化を見過ごしませんでした。
「葵さん?何かあったんですか?」
「ええっと...実はね、その、お、夫、が単身赴任で遠くへ行ってしまうんです。私は仕事があるしついていってあげられなくて。3か月くらいだしすぐ帰ってくるって言うのは分かってるんですけど...。」
「結婚したばかりで単身赴任なんて...寂しいですね。」
「本当にね。私たち高校生の時からの付き合いだから大学生の間遠距離をしてきたことはあるの。でもそれも新幹線ですぐ会える距離だったし、流石にそう簡単には合えない距離って言うのが初めてで...なんだか心まで離れて行ってしまう気がするの。」
「そんな!遠距離も乗り越えて長い年月付き合ってきてゴールインしたカップルなんですよね!?そう簡単に離れたりしませんよ!」
「えぇ、分かってはいるの。分かってはいるんだけど...あれね、夫婦になって彼が法的に私だけの彼になってなんだか気分がおかしいのかもしれないわね。浮かれているからちょっと何かあるとネガティブに考えちゃう。ごめんなさいね。ため込んでたものを口に出せてスッキリしたわ。ありがとう。」
「そりゃお話位いくらでも聞きますよー!」
葵は今まで胸にとどめていた思いを吐き出せてスッキリした様子でした。ですが葵に同情したいちごはまだ少し旦那さんに対して不機嫌です。そんな時、ふわっと良い香りが広がりました。
「立花様、こちら淹れたての紅茶ですよ。どうぞ。」
「あら、ありがとうございます。...美味しい。」
葵は淹れたての紅茶を一口口に含むと、柔らかい笑顔を見せました。
「それは良かったです。時に立花様、先ほどのお話聞こえてしまったのですが...。」
「まぁ、聞こえてたんですか。すみません...。」
「いえ、旦那様への愛ゆえの不安、お辛いでしょう。しかし、確かに離れれば離れるほど遠くなります。だからこそ心まで離れないよう繋がっておくことが必要かと。信頼も、今まで培った愛も、時折確認しなければ不安に感じるだけですよ。本気で相手を想っているからこそ、ね。そしてそれほど愛し合っている夫婦です。旦那様もきっと同じ思いのはずですよ。貴方から繋がっているための提案なら、喜んで受け入れてくれると私は思います。」
「繋がっていることが...大事、ですか...。」
「そうですよ葵さん!毎日鬼のように電話しましょう!」
「ふふ、毎日でなくてもいいわ。そうね、一週間に一回曜日を決めて電話しようって提案してみようかしらね。」
「それがいいですよ!旦那さんが賛成しなかったら自分が文句言ってやります!」
「あら、頼もしい。」
それからしばらくして、葵は本当に旦那を連れてやって来ました。なんでも一週間に一度電話したいと提案すると、三日に一度がいいと駄々をこねられたんだとか。文句を言ってやると意気込んでいたいちごも2人ののろけのような言い合いに口をはさむことは出来ず、結局五日に一回電話することに決めたのだとか。
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