薔薇紳士の興じ事

世万江生紬

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目隠しすると

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 ここは悩みを抱えるお客様が来店される喫茶店。本日お客様は一人もおらず、店主の薔薇紳士とアルバイトの野咲いちごだけが静かで落ち着きのあるこの店にいます。

「今日は静かですね、薔薇紳士さん。」

「そうですね。お客さんもいませんし、紅茶でも飲みますか?」

「いいんですか!?」

「ふふ、いいですよ。」

薔薇紳士はそう言うと優雅に紅茶を淹れ始めました。良い匂いをさせながら薔薇紳士は二つのカップに紅茶を淹れます。

「薔薇紳士さんも飲むんですね。」

「ええ。休憩ですよ。」

2人はそう言うとゆっくり紅茶を飲み始めました。薔薇紳士は言葉通り休憩を取るように嗜んでいますが、いちごはどこかソワソワしているようでした。

「いちごくん?どうかしました?」

「えっ!あ、いやぁ~...えーっと、いいや!薔薇紳士さん!失礼します!」

いちごはしどろもどろになりながら何か説明しようとしましたが上手く言葉が出て来ず、どこか吹っ切れると薔薇紳士にネクタイで目隠しをしました。

「おやおや。穏やかじゃないですね。」

「取っちゃダメですからねー!」

目隠しをされた薔薇紳士はいちごの慌ただしく歩く足音やガチャガチャと何か用意する音を聞きながら、ただだ黙って待っていました。しばらく待っていると、「もういいですよ」といちごが目隠しを外しました。

「目隠しすると何も見えなくなってしまいます...ね...。」

そう言いながら目隠しを取った薔薇紳士の目の前には、ささやかではありますが可愛らしく豪華な、小さなホールケーキがありました。突然のことに薔薇紳士は思わず言葉を失います。

「薔薇紳士さん、お誕生日おめでとうございます。」

「何と...ありがとうございます。でもどうしていちご君が私の誕生日を知っているのですか?」

「あぁ、薔薇紳士さんの幼馴染って人が教えてくれたんですよ。祝ってあげてねって。」

「シアンですか...。ふふ、ありがとうございます。こんなサプライズをしてもらえると思っていなかったので驚きました。」

「じゃあサプライズ成功ですね!」

いちごは嬉しそうに笑います。そんないちごの笑顔を見て、薔薇紳士も思わず口元が緩みます。

「さ、ではこのケーキ食べましょうか。」

「自分も食べていいんですか!ありがとうございまーす!」


 この日、お客様のいない喫茶店で店主とアルバイトがささやかな祝祭を挙げていたのでした。
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