薔薇紳士の興じ事

世万江生紬

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修理した瞬間

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 カランカラン

 「いらっしゃいませ。」

「いらっしゃいませ~。」

「こんにちは。」

「百合さん!いらっしゃいです!」

 ここは悩めるお客様が来店される喫茶店。本日のお客様は三児の母、主婦を頑張るこの店の常連高橋百合です。

「百合さんいつもの紅茶でいいですか?」

「えぇ、いいわよ。ありがとう。」

「いいえ~。」

百合は家事や育児で疲れた時、リフレッシュでこの店を訪れます。ですが何やら今日は違た用事もあるようです。

「薔薇紳士さん、ドライバーってあるかしら。」

「ありますが、どうかなさいましたか?」

「実はね、時計が止まっちゃって。お父さんに貰った大事な時計だったのだけど...寿命かしらね。」

「少しお借りしてもいいですか?」

「もちろんいいわ。」

百合はそう言うと薔薇紳士に針が止まった時計を薔薇紳士に手渡しました。

「大事な時計が止まっちゃうの悲しいですよね~。」

「そうなのいちごちゃん。しかも止まったのも、さっきちょっとぶつけちゃったからなの~。すごくショックよ。ドライバーで開いてみれば直せたりしないかな~って思ったんだけどね。」

「直りましたよ。」

「え!?本当!?」

「ホントですか薔薇紳士さん!?」

薔薇紳士は針が動いた時計を百合に手渡しました。いつも通りに針が動く時計をみた百合は安どのため息を洩らしました。

「本当に良かった~。ありがとうございます!」

「いいえ。電源を入れなおす、と言いますか、まあ再起動させただけなので大したことはしていませんよ。」

「直してくださったことに変わりはないですから、やっぱりお礼は言いますよ。ありがとうございます。それにしても、修理した途端、止まっていた時計の針が動き出すなんて...。私ね、この時計が止まった時、お父さんとの思い出も止まったみたいに感じたの。でも動き出すのを見た瞬間、私には夫と子供がいて、私の時間って進んでるんだって思ったの。ふふふ、何だか小説家みたいなこと言ってるわね、私。」

「いいじゃないですか、とっても素敵ですよ、百合さん。」

「ありがとう。ふふ。やっぱりここは居心地がいいわ。これからも疲れたら息抜きに来るわね。」

百合は柔らかく笑いながら言います。

「あぁ、でも子育てって結構疲れるからしょっちゅう来ることになるわね。」

「いつでもお待ちしてますよ。」

「ありがとうね。ふふ。」


 毎日をパワフルに過ごす主婦は、一時の安らぎを得るとまた元の慌ただしい日常に嬉々として帰っていきます。
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