薔薇紳士の興じ事

世万江生紬

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ずっと探していたもの、それは

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 カランカラン

 「いらっしゃいませ。」

「いらっしゃいませ~。」

 ここは悩めるお客様が来店される喫茶店。本日のお客様は新人作家で凍この店の常連、夏目莇です。いつもは異様に低いか異様に高い可笑しなテンションで来店される莇ですが、今日はとても真面目そうな顔をして、お財布を手に持って来店です。

「莇さん?なんか今日はいつにも増して真面目な...どうかしたんですか?」

「いちごちゃん、僕はね、ずっと探してたんだ。」

「はぁ。」

「僕自身の本編、エピローグ。人生と言う名の一冊の本。」

「雰囲気は普通の人間と同じ真面目なのに、言葉が意味不明な方が莇さんらしくてどこか安心するんですけど...。」

「僕がずっと探していたものは探し物で、それがやっと見つかったんだ。」

莇はそう言うと、カウンターにチャリンと小銭を置きました。その小銭は丁度紅茶一杯分の金額でした。

「薔薇紳士さん。僕の本、随分人気が出たんです。僕ももう売れっ子作家の仲間入りです。」

薔薇紳士は莇の言葉をただまっすぐに黙って聞いています。どこかとても嬉しそうに。

「これでやっと払えます。あの時、僕が初めてここに来た時に払えなかった紅茶代。」

莇は初めてこの店に来た時、財布を持っておらず飲んだ紅茶の代金が払えませんでした。いつか本が売れてちゃんとした作家になった時払ってくれればいいと言ってくれた薔薇紳士の言葉の通り、売れっ子作家になって紅茶代を払いに来たのです。

「莇さん...!まともな大人に...!」

「いちごちゃん?僕は至ってまともな大人だよ?」

「自分にとって莇さんは奇人なんです。」

「奇人!?でもそれはそれで美味しいような...まあいいや。いちごちゃん、これ貰ってくれるかい?」

莇はそう言うといちごに一冊の本を渡します。それは莇が初めて出した本でした。表紙に作家のサインも入っています。

「おお!売ったらいくらになるかな!」

「売らないでいちごちゃん!?」

「冗談ですよ。」

いちごの悪戯な笑顔を横目に莇は薔薇紳士にも本を渡します。薔薇紳士はその代わりかのように淹れたての紅茶を莇に渡しました。

「これはお代はいりません。売れっ子作家様へのお祝いです。」

「ば、薔薇紳士さん...!僕これからもこの店来ますから!締め切りから逃げたくなったときとか来ますから!」

「普通に来てください!」


 店の店主に救われた新人作家は、努力と恩返しに売れっ子作家に仲間入りしました。これからもおかしなテンションでアルバイトと団欒しにこの店に来るのです。
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