薔薇紳士の興じ事

世万江生紬

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長いトンネルを抜けるとそこには

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 カランカラン

 「いらっしゃいませ。」

「いらっしゃいませ~。」

 ここは悩めるお客様が来店される喫茶店。本日のお客様は受験に向けて勉強を頑張る女子高生、この店の常連の東堂さゆりです。いつもこの店の落ち着いた空間で勉強している彼女ですが、今日は何やらニヤニヤニコニコしながら来店です。

「薔薇紳士さん!いちごちゃん!見て!ジャーン!」

さゆりがそう言って広げてみせたのは大学の合格通知書でした。それを見た瞬間、いちごは飛び跳ねて喜びます。

「さゆりちゃん合格したんだ!おめでとう!!」

「さゆり様、おめでとうございます。」

「ありがとう!でも今日報告したかったのはそれだけじゃなくてさ。」

さゆりはそう言うといつものカウンター席に座ります。それを見た薔薇紳士はさゆりがいつも飲んでいた紅茶を淹れ始めます。

「実はね、受かった大学、第一志望じゃないの。というか第一志望の大学は志願すらしなかったの。前にどうしようって相談したことあったでしょ?あの後考えて、第二志望の方に決めたの。だから第二志望の大学に向けて勉強しまくった!」

「そうなんだ。後悔しない選択をしたんだね。」

「うん。あの後何が一番後悔になるかなって考えたんだけど、やっぱり不合格にだけはなりたくなかったんだ。絶対に合格証明書をお母さんに見せたかった。本当なら第一志望のところを無理してでも目指して合格証明書見せたかったけど、でも第一志望じゃないからって頑張ってないっていうようなお母さんじゃないよなって。」

「うん。絶対そうだよ。」

「だから第二志望でも、レベルを下げてでも、確実に合格してお母さんにありがとうが言いたかったんだ。」

「うん。良いと思うよ。その選択は絶対に間違ってない。」

「でしょ。へへ。まあどっちにしろ学費は安いところ選んだんだけどね。」

「あはは、でも大事だよ。」

いちごがそう言った時、紅茶の良い香りがしてきました。そして薔薇紳士がさゆりの前にコトリと淹れたての紅茶を置きます。

「さゆり様、合格おめでとうございます。こちらサービスですよ。」

「本当!?ありがと!」

「長いトンネルを抜けると、絶対に出口はあります。...よく頑張りましたね。」

「うん!ありがと!あ、もう受験終わったから勉強ももうないけど、ここはアタシの正念場?大事な場所だからね。また紅茶飲みに来るよ。」

「それはそれは。お待ちしております。」

「今度はお母さんもつれてね!へへ!」


 一生懸命に努力した少女は長いトンネルを抜けました。でも、ずっと努力し続けた場所はもう他に変えられない大事な場所です。またきっと長いトンネルと共にあったここに、一緒に来たい誰かと共に来店されるでしょう。
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