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第3話
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『ね、あの2人付き合ってんでしょ?』
『マジ?男同士じゃん。』
『でもほら、あっちの茶髪の方が自分から言ってたらしいよ。俺たち付き合ってるって。』
『冗談とかじゃなくて?ヤバ。』
『ねー。男同士とか、気持ち悪い。』
俺と千晶が付き合いだした2年の頃、俺たちを見る周りの目は偏見と嫌悪に満ちていた。俺も千晶も公言するとそうなるだろうなってことは分かってたから公言するつもりなんて元々なかった。でもある日、俺たちの距離が近いと思ったクラスメイトが千晶に問い詰めているところに俺はたまたま居合わせた。
『なぁ、お前奈月と付き合ってるってマジ?』
『なんか距離近いなーとか思ってたんだよね。マジなの?ホモ?』
『あ...いや...。』
俺と千晶は付き合いだした時に、公言しないと約束した。だからその場で千晶は否定すべきだった。でも千晶はそれをしなかった。否定するということは俺への恋愛感情も否定することになると思ったから。俺のことを本気で好きでいてくれて、晴れて恋人同士にもなれて、そんな愛した人のことを、付き合っていないと好きじゃないと言わなければいけない。そんな葛藤の中で千晶はクラスメイトの問いに否定することも肯定することも出来なかった。俺は千晶のそんな様子を見ていてもたってもいられなくなった。何が周りの目だ、何が世間の偏見だ、そんなもの、千晶が悲しむ理由にはならない。それでもそんなものに千晶が悲しまされるというのであれば、その分俺が千晶の支えになればいい、だから俺はクラスメイトの前に出ていき、驚く千晶を他所に千晶の唇に自分の唇を重ねた。
『そうだけど、付き合ってるけど、何か文句ある?』
それから噂が広まるのは一瞬だった。高校生なんて噂話やゴシップ、人の恋愛事情は大好物だ。噂はクラス内から学年内、果ては学校中に広がった。学校中に広まってしまえば学校内を歩くだけでも腫物に触れる様に扱われる。廊下をあるけば人はよけていくし、落とし物を拾えば汚物を触るかのように扱われる。でも俺は自分に対する周囲の反応が露骨になっても一切の後悔はしていなかった。俺たちのことが気持ち悪いなら勝手に気持ち悪がっていればいい。お前らのことなんて知らない、俺は自分を愛してくれる人がいればそれでいい。
『千晶はさ、後悔してる?』
とは言ったものの、偏見の目に当てられているのは俺だけじゃない。俺と付き合っている千晶もそうだ。俺は周りの目なんて気にしていないけれど、千晶はどうなんだろうか。千晶は俺との約束を守って付き合っていることを公言しようとしなかった。それを全部台無しにしたのは俺だ。俺の行為が千晶をここまで巻き込んでしまった。千晶が今の現状に嫌気がさしているのなら、俺はやっぱり、間違えていたのかもしれない。
『後悔って何が?俺たちが付き合ってること公言しちゃったこと?それとも奈月と付き合ったこと?』
『...どっちも。』
『気にしてるんだ。奈月らしくないね、人の気とかお構いなしにずかずか入り込んでくるのが奈月だと思ってた。後悔なんてしてない。俺は元々一匹狼やってたんだから、奈月のおかげで友達が出来たことだってあんまり実感なかったし、また一人に戻っただけ。あぁ、1人じゃないね、奈月がいる。1人じゃなくなったんだから、奈月と付き合ってることに幸せは感じても後悔なんて感じてない。』
千晶は俺の目をまっすぐに見て言った。俺は千晶の言葉を聞いた瞬間涙が止まらなくなった。拭っても拭っても目からは止めどなく流れてくるそれを見て、自分が少なからず傷ついていたことに気づいた。どれだけ周りの目なんて気にしないと、他人の言葉なんて気にしないと思っていても、心ない言葉は人を傷つける。心臓をすっと通り抜けた言葉たちは小さな棘だけは心臓に残していく。でも今、心臓に残っていた棘が千晶の言葉で溶けていった。ワンワンと泣き続ける俺を見て、千晶はただ黙って俺の頭をなでてくれていた。
『マジ?男同士じゃん。』
『でもほら、あっちの茶髪の方が自分から言ってたらしいよ。俺たち付き合ってるって。』
『冗談とかじゃなくて?ヤバ。』
『ねー。男同士とか、気持ち悪い。』
俺と千晶が付き合いだした2年の頃、俺たちを見る周りの目は偏見と嫌悪に満ちていた。俺も千晶も公言するとそうなるだろうなってことは分かってたから公言するつもりなんて元々なかった。でもある日、俺たちの距離が近いと思ったクラスメイトが千晶に問い詰めているところに俺はたまたま居合わせた。
『なぁ、お前奈月と付き合ってるってマジ?』
『なんか距離近いなーとか思ってたんだよね。マジなの?ホモ?』
『あ...いや...。』
俺と千晶は付き合いだした時に、公言しないと約束した。だからその場で千晶は否定すべきだった。でも千晶はそれをしなかった。否定するということは俺への恋愛感情も否定することになると思ったから。俺のことを本気で好きでいてくれて、晴れて恋人同士にもなれて、そんな愛した人のことを、付き合っていないと好きじゃないと言わなければいけない。そんな葛藤の中で千晶はクラスメイトの問いに否定することも肯定することも出来なかった。俺は千晶のそんな様子を見ていてもたってもいられなくなった。何が周りの目だ、何が世間の偏見だ、そんなもの、千晶が悲しむ理由にはならない。それでもそんなものに千晶が悲しまされるというのであれば、その分俺が千晶の支えになればいい、だから俺はクラスメイトの前に出ていき、驚く千晶を他所に千晶の唇に自分の唇を重ねた。
『そうだけど、付き合ってるけど、何か文句ある?』
それから噂が広まるのは一瞬だった。高校生なんて噂話やゴシップ、人の恋愛事情は大好物だ。噂はクラス内から学年内、果ては学校中に広がった。学校中に広まってしまえば学校内を歩くだけでも腫物に触れる様に扱われる。廊下をあるけば人はよけていくし、落とし物を拾えば汚物を触るかのように扱われる。でも俺は自分に対する周囲の反応が露骨になっても一切の後悔はしていなかった。俺たちのことが気持ち悪いなら勝手に気持ち悪がっていればいい。お前らのことなんて知らない、俺は自分を愛してくれる人がいればそれでいい。
『千晶はさ、後悔してる?』
とは言ったものの、偏見の目に当てられているのは俺だけじゃない。俺と付き合っている千晶もそうだ。俺は周りの目なんて気にしていないけれど、千晶はどうなんだろうか。千晶は俺との約束を守って付き合っていることを公言しようとしなかった。それを全部台無しにしたのは俺だ。俺の行為が千晶をここまで巻き込んでしまった。千晶が今の現状に嫌気がさしているのなら、俺はやっぱり、間違えていたのかもしれない。
『後悔って何が?俺たちが付き合ってること公言しちゃったこと?それとも奈月と付き合ったこと?』
『...どっちも。』
『気にしてるんだ。奈月らしくないね、人の気とかお構いなしにずかずか入り込んでくるのが奈月だと思ってた。後悔なんてしてない。俺は元々一匹狼やってたんだから、奈月のおかげで友達が出来たことだってあんまり実感なかったし、また一人に戻っただけ。あぁ、1人じゃないね、奈月がいる。1人じゃなくなったんだから、奈月と付き合ってることに幸せは感じても後悔なんて感じてない。』
千晶は俺の目をまっすぐに見て言った。俺は千晶の言葉を聞いた瞬間涙が止まらなくなった。拭っても拭っても目からは止めどなく流れてくるそれを見て、自分が少なからず傷ついていたことに気づいた。どれだけ周りの目なんて気にしないと、他人の言葉なんて気にしないと思っていても、心ない言葉は人を傷つける。心臓をすっと通り抜けた言葉たちは小さな棘だけは心臓に残していく。でも今、心臓に残っていた棘が千晶の言葉で溶けていった。ワンワンと泣き続ける俺を見て、千晶はただ黙って俺の頭をなでてくれていた。
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