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冬
38話 保健室と鼓動
しおりを挟む我に返った。
静まっている体育館、全員の視線。
頭が真っ白で顔は真っ赤になるのがわかった。
私……私……
私っ、
パチ……パチ……パチ……
拍手
タマが拍手をしてくれた。
そしてそのあと、タマの隣にいるウッチャンとシヅも拍手を続けた。
私は頭を下げて、壇上から降りた。
私……私……、
「ポチ」
先生の列の後ろで皆と合流した私。
先生達は振り返って私達を見てたけど……
『あー……あー、では皆さん、説明を始めます』
志方先輩の第一声で全員の視線が舞台に戻った。
だけど目の前のタマ達は私を見ていた。
「ポチ、お前……すっげぇ根性だな」
タマに言われて羞恥が再び蘇る。
「違うの!!自分でもビックリっていうか!!そんなつもりは全くなかったのに!!自分でも!!だって違うくて!!根性はむしろないというか、勇気があったわけじゃないし、計画性はゼロだったわけで、だから!!」
パニックの私にタマは……
「お前……最高」
タマは笑った。
あ……わ、わ……わわ……っ、
体が熱くなって……顔も火照り……突然のぼせた。
「えっ!?菜月ちゃん!!」
「ポチ!?」
頭がグルグルして……
…――
ガバッと起き上がった。
ここ、保健室!?
「あ……起きた」
いつのまにかベッドで寝ていたらしい私の傍にタマが椅子に腰掛けていた。
「え……タマ、私……」
「ポチ、急にブッ倒れたから、ビビった。普通に」
タマはビビったとかいうわりに普通に喋っている。
「え……あ、投票は?」
「さあ?今頃説明も終わったころじゃないかな?」
「皆は?」
「皆は紙の用意とか回収とか列の整備とか……忙しいから居ないよ、当たり前だろ?」
「え……じゃあ……」
なんでタマは……ココにいるの?
「ポチ…」
タマに呼ばれてドキッとした。
保健室のカーテンで仕切られている二人。
揺れる白い世界。
距離が近く感じた。
「アレらしいね、タヌキとかはいっぱいいっぱいになりすぎると気絶するらしいね?」
「……は?」
「タヌキもイヌ科だしね」
「はぁぁん!?」
人のことタヌキ呼ばわりだと!?
「ちょっとタマは何でいつもそういう――……私はっ、」
文句を言おうとした私は、言葉を止めた。
タマが笑っていたから。
さっきと同じで、タマが私を見つめて笑っているから……もう一度ドキッとした。
「ポチ……良かった」
「……え」
「すげぇ良かった」
「あ……あれは……」
「聞いていた全員がどう思ったのか全然わからないけど……俺には響いたよ」
「タマ……」
「ポチの言葉、俺は感動した」
タマは自分の口を手で覆い、クククと籠るように笑った。
「気絶は意味不明だったけどな」
「あっ、あれはタマが!!」
「は?俺?」
タマに聞き返されて、ハッとなって黙った。
タマに笑いかけられて逆上せた……なんて、言えるわけがないよ。
上体だけ起こし、まだベッドにいる私は布団をギュッと握った。
黙り込んだ私をタマは不思議そうに見つめてきた。
「なんかわかんねぇけど、冬休みになったらゆっくり休めよ?」
「だ……大丈夫だし、別に」
「あっそ」
タマは可笑しそうにずっとクスクス笑っていた。
そんなタマが珍しくて、落ち着かない気持ちとなった。
「……そんなに笑わないでよ」
「なんで?」
「なんでって……」
……ドキドキするから、なんて言えない。
「なぁ、ポチ」
「……何?」
「俺らがやってきたことは……ちゃんと意味があったのかな?」
「……タマ…」
「ちゃんと……過去の為になること、出来てるかな」
「別に意味なんてなくても……」
「……」
「私は、忘れないから」
「……」
「私達がしたこと、ちゃんと覚えてるから。他の誰かにとって意味がなくても……いいよ」
「……あぁ」
「タマ……」
「なんだよ」
「一人にならないでね」
「……」
「一人で抱え込まないでね。タマがすることやることに……意味があってもなくても、全部の責任を感じてなくていいから」
「……」
「えっと……なんて言えばいいんかわからなくなってきちゃった……。壇上に上がった時、周りに無関心になっている皆を見ててさ……それは嫌だなって、……」
「……うん」
「……」
「それで?」
「そ……それでね、一人になっても平気な強さを持つことが、偉いことでも凄いことでもないわけだからさ……」
「……」
「だって……私たちは……」
「俺ら?」
「うん。だって、私たちは、だからちょっとだけ……大きくなれたよ……なれた気がする」
「……お前って、本当……」
タマは言いかけて、布団越しの私の膝に突然頭を倒れこむようにして乗せてきた。。
「え……えぇっ!?」
「……」
「タマぁっ!?何!?どうしたの!?えぇ何々!?何事!?」
「なんか…ここ最近、ずっと忙しかったし……疲れた」
「え……えっと、あの!?」
布団越しの膝枕に動揺しまくった。
タマのつむじしか見えないから、表情がわからない。
こ……これは!?
この状況は一体、どういうこと!?
「タ……タマ、ど…どう……だっ、私っ……」
「……」
「……タマ」
「……スー…スー…」
……寝てる!?
……マジか!!
まぁ、タマのマイペースには慣れてきたけどさ。
顔を埋めて、小さく寝息を立てているタマ。
まぁ、確かに昼休みもずっと会議だったし。
放課後も先生の意見聞きに回ったり、家に仕事持ち込むようなこともしてたし、卒業式のことも同時に会議したし……。
疲れたよね。
今日の投票で終われるかわからないけど、冬休みになったら少しはゆっくりできたらいいね。
色素の薄い、柔らかそうな髪に手を伸ばした。
おそる…おそる……と。
ふわ……ふわ。
うわぁ……想像通りっつーか、想像以上に毛並み……じゃなくて、タマの髪、柔らかい。
心臓がドキドキと鳴った。
「…………何?」
突然タマが喋り出すからドキドキが余計に爆発した。
「うっぎゃあぁー!!起きてたの!?寝てなかったの!?」
「……いや、お前に起こされた。……というより、起こしたんじゃなくて?」
「えっ!?あっ!!そう!!タマが寝てるから起こそうと!!だから頭を!!学校だし、つーか私の膝の上にいられても困るというか!!」
「……あ、そう」
タマは体を起こして私の顔を直視してきた。
近い……。
「てっきり、俺の頭撫でたんかと思った」
「はっ!?」
「…………ふ、」
私のリアクションにタマはニヒルに笑った。
「か……からかった!?」
「なにが?」
とぼけた返答に私は言葉が思いつかず、ただ口をパクパク動かすことしか出来なかった。
「じゃあ、俺もそろそろ体育館戻るよ」
「え……タマ、」
タマの手が……私の頭に触れた。
「ポチもゆっくり休め。忙しかったんだから」
タマはカーテンを引いて、姿を消した。
タマが見えなくなったのに、私の胸は余韻を残すようにドキ……ドキ……と鼓動を打っていた。
だから……
「タマの手は……反則なんだって……」
三角座りで布団ごと抱きしめて、ふかふかのソレに顔を埋めた。
誰も見ていないってわかっていても、赤い顔を隠したかった。
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