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冬
39話 冬休みの突然の電話
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「じゃあ……みんな」
志方先輩の言葉を全員が黙って聞いていた。
「昨日の投票結果……言うよ?」
全員が頷く昼下がり。
午前の授業も終わり、部活に打ち込んでいる時間に私達も部活をする。
委員会ではなく、私達の部活。
時計の秒針が耳に響く。
……
「……結果は、ジチシコは……今後も存続で」
全員が深い溜め息をついた。
「まぁ……票数えている途中で結果見えてきたけどね」
「それにあんだけ頑張って、結局現状維持ってのもなぁ~、ただただ疲れたなぁ!!」
そんなことを言いながら先輩達は嬉しそうに顔を見合わせた。
私達一年生も安堵の溜め息を吐いた。
中には無効となるような……心にもないことが書かれている票もあったけど。
なんだか……疲れた……確かに。
「MVPはポチやな!!ポチで決定!!」
ウッチャンがはしゃぎながら変なことを言ってくるから焦った。
「おし!!残りの報告書類は俺らがしとくから、お前ら今日は解散して遊んでこい!!お祝いだ!!」
カジヤン先輩がそう言った。
シヅが「え……でも…」と言ったけど、前島先輩は笑った。
「いいんだよ、これまで一緒に遅くまで頑張ってくれたし……それに……」
前島先輩がなぜかニヤッと笑うと、志方先輩もニヤッと笑った。
「そうそう。今のうちに休んどきなよ?」
タマが首をかしげた。
「……今のうち?」
かじやん先輩は音頭をとるように拳を突き上げた。
「おーし!!今日は解散!!」
「明日も午後には会議だからな。じゃあ、明日もジチシコで」
また明日も。
それが嬉しかった。
一年生四人は頭を下げた。
「お疲れさまです!!」
「お疲れさまでした」
「お疲れさまっす!!」
私も部室を出る前にもう一度振り返った。
「じゃあ、明日もお願いします」
…――
冬休みの間も高校の友達とメールをしたり、電話をしたり、シヅとは遊びに行った。
タマともウッチャンともメールしていた。
夜の大晦日はジチシコメンバーで夜に集まって年越しして初詣に行こうと約束をしていた。
楽しみだ。
ちょっとだけ顔がニヤける。
部屋で一人、冬休みの宿題をやってみるものの……机の上のスマホを数秒置きにチラ見。
実はさっきタマにメールしたのだ。
そして返事待ちで気もそぞろ。
好きな人にメールを送るってことが……嬉しくて……恥ずかしい。
ピロン……
バイブレーションが机を伝って、私にメールが来たのを教えられた。
来た。
画面が光って通知が来ていた。
タマだ……って思うだけでこんなにも胸が高まった。
さっき【冬休みって暇だよね】ってメールしただけだけど。
でもタマはわりと無視せずに返事をくれることが多い。
メッセージ一覧にタマのアイコンがあるだけで嬉しい。
――――
冬休みの宿題でもしといたら?
―――
なんてそっけない。
それでもメールがもっと続いてほしくて、返事を打つ。
『宿題もしてるよ?
タマは終わったの?』
『まだ』
『タマもまだなんじゃん(笑)
もう今年一年も終わっちゃうよ?』
『年明けてからやっても別に死なねぇだろ?』
タマのメールは短いやりとりで数分の間でメッセージが増える。
『一年の最後にやり残すみたいで気にならない?』
『別に。たかが宿題だし』
あ……ダメだ……このままじゃあ、話題が終わっちゃう雰囲気になっちゃう。
『今年のやり残しがないなら、来年の目標は?』
……メッセージを送ったあとに、なんて堅い内容になってしまったんだって、プチ自己嫌悪。
もっと可愛い内容とか……送りたいな……。
今度シヅに相談してみようかな。
「な~つきぃ?」
部屋に花陽姉ちゃんが入ってきた。
「晩ご飯だよ~。何?宿題?」
「う……うん」
ニヤッと笑い出すお姉ちゃん。
「とかいって……メールしてるな?誰?誰と?」
「……っ、」
私の顔を覗き込むように近付いてきた花陽姉ちゃんに聞かれて、顔が熱くなった。
「き……」
「き?」
「……き……気になる人……と」
私の小さな恋心を打ち明けた。
初めて……お姉ちゃんに打ち明けた。
お姉ちゃんは凄い笑顔になった。
「きゃー!!マジ!?」
するとリビングから「あんた達ー、早く来なさい」とお母さんの声がした。
二人で返事をしたあと、「あとで二人で恋バナしようね!」って花陽姉ちゃんが言った。
お姉ちゃんに、未だ敵わないって感じることも多いけど……不思議と前みたいに劣等感を感じない。
それは誰にでも正と負の感情や過去があることを知ったから?
それだけじゃなくて、私は今……充実しているから……だと思う。
勉強トップになっているわけでも、インターハイに行けたわけでもない……でも、
楽しいと思える……から。
私だけの形。
リビングに行く前に自分のスマホを見た。
……さっきまで、途切れずにきたタマのメールが少し遅い。
やっぱり……可愛くないメール送っちゃったから?
あー!!無理に質問で繋げずに自然に終われば良かった!!
返事が来ないだけで、激しい自己嫌悪。
だけど晩ご飯を食べ終わり、部屋に戻るとスマホ画面に受信通知があった。
やった!!
タマのことは……、全然知らないことがまだまだあって……きっと私じゃ受け止めきれない傷もまだあって……
でも
ドキドキしてて、
タマのことをもっとたくさん知りたいと思う。
“お前はそのままでも、充分だよ”
きっとタマがそう言ってくれたから。
もっともっとタマとメールしたり、話したり、……会いたいよ。
ドキドキが止まらない鼓動のまま、メール内容を見た。
―――――
ヒマ?
―――――
……あれ?
私、さっき何て送ったっけ?
自分のメッセージを確認したけど、全然繋がっていない。
私の質問、無視?
しかもそれを質問で返す!?
マイペースってレベルか?これ。
え~っと……なんて返そう。
―――――
ヒマだよ?
―――――
送信。
……って、あれ?
これってもしかして今から会おうって……流れ、とか?
って、期待が先走りすぎて自分に都合の良い妄想しちゃったよ!?
まさか~!こんな遅い時間にそんなわけないよ!
心臓がドキドキと落ち着きを無くしている間にまたスマホが震えた。
画面には……電話。
へ!?噓!?電話っ!?タマ!?
耳障りのドキドキを聞きながら通話ボタンを押した。
『寝てた?』
「い……いや、一体な――」
『無理だったらいいんだけど、』
「は?何?」
『夜に家出れたりする?』
「はぁ!?」
一瞬、声が大きくなったのを慌てて抑えた。
「夜って!?今だってもう夜……」
『このあと、深夜12時ぐらい』
「なっ!?バカ!?遅すぎでしょ!?」
『だから無理ならいいって言ってるだろ?』
「……一体何なの?急にどうしたの?」
『……』
「タマ?」
『ポチがいきなり聞くからだろ?』
「はい?」
『あるんだ、心残り』
耳をくすぐる低音のその声とその言葉にドキッとした。
「タマの……心残り?」
『やり残したことを今夜にでもしておこうかって、さっき思い付いた』
「さっき!?」
相変わらず突然すぎません!?
『で、どう?ポチも付き合ってくれる?』
「え……てか、なんで私?」
『……』
タマは返事をしないから、ちょっと無言が続いた。
「……多分、抜け出せるかも」
私は覚悟を決めたようにそう言った。
タマとの無言に堪り兼ねたわけじゃなくって、興味を持ったから。
タマのやり残したことに。
『……大丈夫なの?夜出るの危ないだろ?』
「はぁ!?ちょ……タマから誘ったのに!?タマってホントいつもっ――」
『ポチの家に着いたらメールするから待ってて』
一方的な電話と会話。
切れてしまった電話にまだ耳を当てたまま、私はドキドキして鳴り止まなかった。
「一体……なんなの?……本当に……」
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